ソードアート・オンライン 宙と虹
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前書き
リアルでしばらく忙しくしていたせいで、約一年放置するという暴挙をしでかしました。
遅筆ながらまた更新していきます( ˘ω˘ )
朝起きると、いつも感じることがある。この日々はいつ、終わりが訪れるのか。考えても無駄なことだが、考えてしまうのだ。
この《ソードアート・オンライン》という世界は、いつ終焉を迎えるのか。残る階層は二十六。かつて、第二層から始まったハイペースの攻略頻度を、また繰り返すことが出来れば、年内のクリアも見えるかもしれない。しかし、現在のSAOは停滞気味であるのが現状だ。皆が、慣れてきている。この仮想世界の現実に。
「どっこいせ……っと」
起き上がると少し肌寒く、もう一度ベッドに入りたくなる欲望に負けそうになるが、意志力でそれを抑え込み、意を決してベッドから出る。窓を見ると日は出ているようだが、まだ朝もやの晴れない時間のようだ。右手でメニュー画面を呼び出して、デジタル時計を見ると、六時八分。日の出もかなり遅くなってきているような時期だ。
現在の月をアインクラッドに存在する暦風に言うと《トネリコの月》、現実世界に照らすと十月に当たる。日の出が遅いのも、当然と言えよう。もうすぐ、年末だ。
「んんぅー……。よし」
俺はいちいち寝間着や普段着、戦闘装備など、その場その場で着替えることが多いので、男プレイヤーでは、服が多いタイプだ。中には服装なんぞ関係ないわ、という剛の者もおり街中で平気で着替える、あるいは寝る時は鎧や装備を外すだけで着替えない、という奴もいるだろうが流石にそこまでの豪胆さは俺にはない。
寝間着から普段着——部屋着ともいう——に着替えて、朝食を準備し始める。同居人に比べると料理スキルの熟練度は劣るが、それでもマシな料理は作れる。
現実と比べるとはるかに料理の工程が簡略化されている、と同居人の言うように材料を切るには、材料を包丁でタップするだけ。一見中世風のかまどに見えても、タイマーは正確に働くし、料理スキルが高いと適切な時間さえも表示される。最も、料理スキルがある前提だが。
適当にパパっとサンドを五つほど作って、そのうちの三つを平らげて残りの二つは皿に盛りつけておいて、テーブルの上に置いておく。同居人の分だ。彼女は恐らく一つしか食べないだろうが、まあ念のため。続けて今日の昼食、もとい弁当だ。
とはいえ、これも適当だ。素材もさしてレアリティの高いものではない。それでも調理する人の工夫次第では、いくらでも美味しくなるのが料理だ、と同居人は常々言っている。
本当に弁当のように箱に入れておきたいところだが、残念ながらちょうどいいサイズの箱型アイテムというのは未だに確認されていないので、紙に包むなりバスケットに保存するなりしなければならない。
俺はバスケットなどという大層なものは持っていないので、紙に包むしかない。それも低級だ。ソロは金に困りやすいと、キリトはよくぼやくが実際その通りだ。アイツは金の無駄遣いの多いせいもあるが。よく分からない武器やら食い物やら、上げだすとキリがないくらいにへんてこなものばかりを買う奴なのだ、キリトというのは。
「まあそれがアイツの面白いところだけどな……」
レタスをバンズに挟みながら独り言で苦笑する。前に会った時、キリトは、装備要求ステータスはやたら高いのに、耐久力は紙クラスのポンコツ級のハズレ武器を買わされていた。装備耐久は七十四層クラスの箱からのドロップ品でさえメンテナンス無しでも千回近い戦闘に耐えられる程だが、メンテナンスありきでも何十回というレベルだったはず。明らかなハズレだな、とエギルと一緒に笑ってやったことがある。キリト曰く見た目に惚れたとか何とか言っていたが。それにしたってステータスは見るはずじゃないのか、とは思う。
「よし、完成。さて、今日の攻略も頑張るか」
右手をフリックして、装備品欄から一括装備を指定する。高難度クエストで入手したブレストプレート、その上からジャケットを装備する。そして最後に背中には赤黒い、大きな両刃の剣。固有名《ブラッド・ツヴァイ》という名のこの剣は、筋力重視の片手剣ビルドを組んでいるキリトですら、重すぎて持ち上げるくらいが精いっぱいという程の重量のある愛剣である。そのおかげで、相手の武器破壊に高いボーナスが付くのだ。現にデュエルした相手の武器を意図的ではないにせよ粉砕してしまい、激怒させたこともある。しっかり弁償はしたが。あれも今となってはいい思い出だ。
「……じゃ、いってきます」
同居人が目を覚ますのは、いつも九時ごろ。寝つきが悪いとか言っているが、安心して眠れない、の間違いだろうと常々言っているのだが、頑として認めようとはしない。恐らく、俺に、そしてキリトに心配をかけまいとしようとしているのだろうが、その方が心配になるというものだ。
ミュージェンの街はいよいよ、朝もやが晴れ始めて人通りも活発になり始めた。アインクラッドに生きる人々の、活動が始まる時間帯だ。槌音が鳴り、人を呼ぶ出店の店主を客寄せ文句。石レンガで出来た、少しロマンチックな街並み。
転移門へたどり着く頃には人通りも、いつもと同じくらいにまで増えていた。ざわざわとした喧噪も、いつも通り。何一つ、変わることのない《アインクラッド》の日常。皆の日常に変わりつつある、異世界の《いつも通り》。
「転移、カームデット」
人々の喧噪に紛れてしまうような声量でのボイスコマンドだったが、それでも転移門はしっかりと機能した。俺の身体を淡いブルーの光が包み込まれた瞬間に、ミュージェンとは全く違う、赤茶の石で構成された街へとテレポートさせた。
カームデットは、ミュージェンと比較するとかなり殺風景な街だが、それはミュージェンが発展しているというか様々な要素が多いだけで、カームデット単体だけで見ればしっかりとした都市である。転移門広場も広く、そこから碁盤の目状に街が構成されている風だ。
クエストNPCもそこそこの数がおり、かなり上の層ということもあって報酬も良質だ。もらえるコルや経験値など、美味しいクエストもいくつか見つかっているが、そういう旨いクエストは当然のことながらほとんど受注待ちを食らうことが多い。
開幕ダッシュで受注した訳ではないので、俺もクエストを受けられるまでには少し時間がかかったが、すでにクリアして報酬も受け取っている。一回きりのクエストだったのは惜しいが、あれほどの報酬だったと考えると納得は出来る。高性能なアクセサリに多額のコルと、そこそこの経験値。その経験値を足掛かりにして、一昨日くらいにレベルアップして、丁度レベル90になったのでスキルスロットも増えた。ようやく十二個のスキルスロットになったということだ。確かキリトは91だったので、追い付くまでに、後レベル1。この差に到達するまで、果てしない時間がかかったが。
一時期朝型だった生活リズムが夜型に戻るほどにレベリングにまい進した。そうでもしなければ、攻略組の実力としては不足していたのである。
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