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戦国異伝供書

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第三十二話 青から赤と黒へその十二

「よいな」
「その様に」
「いや、それがしなぞは」
 可児が笑って言ってきた。
「出来ることは武芸のみで」
「それでなのでござるか」
「源次郎殿のその軍略や学問は」
 それはというのだ。
「それがしは到底出来ませぬ」
「お主はそもそもそうしたものに興味があるのか」
 原田が可児にこう問うた。
「一体」
「はい、武芸には興味があれど」
「槍働きにはな」
「それ以外はです」
「そうであるな」
「それがしもまた不便者です」
 慶次の様にというのだ。
「ですから」
「それでか」
「今で充分ですし」
 旗本としては大身になっている、だが大名ではない。このことは彼と親しい慶次とまさに同じである。
「ですから」
「それでよいか」
「そしてそうしたことで源次郎殿に及ばぬことは」
 このこともというのだ。
「承知してです」
「それでよいとか」
「思っております」
「学問もよいのか」
「軍略についても」
 こちらもというのだ。
「よいです。まあ子達は違う様ですが」
「そうなのか」
「それがしに似ず」
 笑ってだ、可児は原田に話した。
「頭の出来がよく」
「それでか」
「自ら書を読み」
 そしてというのだ。
「学問に励んでおりまする」
「軍略についてもか」
「孫子や太平記を読み」
 そうしてというのだ。
「学んでおります、史記等の書も」
「司馬遷のか」
「はい、それもです」
 そうした書もというのだ。
「読んでいます」
「そしてお主は」
「とんとです」
 そうした書にはというのだ。
「興味がありませぬ」
「ではこのままか」
「武芸でいきまする」
「泰平になってもか」
「そのつもりです」
「その心意気素晴らしきことです」
 大久保彦左衛門が徳川家の者達の中から言ってきた。
「やはり武士は武芸ですな」
「彦左衛門殿もそう言われるか」
「はい」
 まさにとだ、大久保は答えた。
「幾ら世が変わろうと」
「武士はですな」
「まずは武芸です」
 いくさ人、それならばというのだ。
「ですから武芸に励まれることは」
「第一ですな」
「そう思いまする」
「これからは政と言われても」
「武芸なくしてです」
「武士ではない」
「まことにそう思いまする、ですからそれがしは」
 大久保は強い声で可児に話した。 
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