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蒼穹のカンヘル

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四十五枚目

 
前書き
※ドラゴニューツというのは聖剣計画の子供達の事だと思ってください。 

 
駒王学園。

今年から男女共学になった学園。

初等部から大学院まで所有する、かなり大きな学園だ。

そこの中等部一年生として”転入”してはや数ヶ月。

神話伝承研究会という部活を立ち上げた。

部室放棄された旧部活棟(奥の扉から屋敷にゲートを開ける)を根城にしている。

活動内容は聖書や神話の考察。

ちゃんと真面目にやっている。

表では。

そんなこんなで、二学期も後半になろうという頃だった。

「主様! 怪しい奴を見つけました!」

「すいません篝様! 尻尾見られました!」

「んんー?」

扉がバタンと開かれた。

何事かと思い入り口を見ると、真琴と舞の元気っ娘二人が茶髪の少女を連行していた。

「真琴。ノックしようぜ? 俺の本性も見られちゃった訳だけども?」

「ん? 主様なら記憶操作くらいお手のものでしょう?」

そう答えたのは金髪で『男装の麗人』という表現が似合う女の子。

ドラゴニューツの真琴だ。

「真琴。篝様の言ってるのはそういう事じゃないとおもうなー」

そして真琴に注意した黒髪ショートカットの子は同じくドラゴニューツの舞だ。

「で?何事?」

「えっとですね、舞がここの前でくしゃみして尻尾が出ちゃったんですよ」

「それで慌てて周囲を探ったらこの子が…」

ふーむ。

「で、その子気絶してるけど?」

「「あ」」

side out












桐生藍華は好奇心の強い少女だった。

だから、気になった。

中等部に進学して、突然入ってきた少年少女達が。

どう考えてもヨーロッパ系なのに日本語の名前を持っている不思議な子供達。

そして、銀髪を揺らす少女のような男の子。

同じく銀髪で、同い年なのに妖艶な少女。

同い年なのに小学校低学年ほどの背しかない猫みたいな女の子。

その子よりは背が高いが小柄な金髪の子。

そんなおかしな集団。

二学期も後半。

文化祭できっちり神話についての考察を発表していた。

全員が同じ部活に所属していた。

気になった彼女は、同じクラスの舞と真琴をつけた。

そして見てしまった。

可愛らしいくしゃみの後、舞に翼と尻尾が生えるのを。

気づけばつけていた二人に捕まり、部室に連行された。

奥の扉を開けた先には、竜が佇んでいた。

そして桐生藍華は、気を失った。





彼女が目を覚ますと目の前には竜がいた。

「ひぃっ!?」

「ぐるるるるる……」

ヌッと竜が顔を近づける。

「ごめんなさい許して! 食べないでぇ!」

ズシン…ズシン…と竜が足を踏み出す。

彼女は逃げ出した。

が、扉が開かない。

壁に背をつけ、へたりこむ藍華。

「ぐるる…」

「やだ…やだよぉ…たすけてよぉ…誰か助けてよぉ!!!」



「何してんのさかがりィィィィィィ!?」

突然、竜が吹っ飛んだ。

蹴り飛ばされたのだ。

蹴り飛ばしたのは……姫島ヴァーリだった。

ヴァーリは壁まで吹っ飛んだ竜の下へ行くと、背中を踏みつけた。

「ねぇ何してんの? ねぇ? 謡から聞いて飛んできたけど何してんの? なんで桐生さんいじめてるの? 追い詰めてんの? 篝そういう趣味なの? ねぇ?」

「げふぅっ!? 待って待って! ちょっと脅かそうとしただけだって!」

「それでなんで漏らすまでやってんの?」

「なんか興がのっちゃっ…」

「逆鱗ひっぺがすよ?」

「ぴぃ!?」

今度は首を踏みつけた。

「げふぁぁ!?」

「いいからさっさと人に戻りなさい」

「その前に退いて…」

「は?」

「はい戻りますぅ…」

竜の姿が縮み、やがて小柄な少女の姿になった。

「重い重い重い!? 首に体重掛けないでぇ!?」

「反省した?」

「しました! した! したから退いてぇ!?」

じたばたと暴れる少女の上からヴァーリが退いた。

そしてヴァーリが指を鳴らすと、ギザギザした何かが出てきた。

隣には板状の石まである。

「篝。正座」

とギザギザの板を指差した。

「え?」

「は?」

「はい……」

少女が大人しく正座した。

そして膝の上にきっちり石板を乗せる。

さらにはどこかから取り出した手錠を嵌めギャグボールを噛ませた。

そこでようやく、ヴァーリが藍華の方を向いた。

「とりあえずシャワーに行きましょうか」













篝が石抱きの刑に処されて一時間後。

ヴァーリと藍華が戻ってきた。

「うー! うー!」

「どう? 篝を許す気になった?」

「許すから外したげてよぉ!?」

「らしいよ篝」

ヴァーリが指を鳴らすと、石板とギザギザの板が消えた。

「むぐぅっ!?」

突然下の板が消え、足を打った篝。

「はいこれ」

ヴァーリがとてもいい笑顔で藍華に鍵を渡した。

「手錠とギャグボールの鍵。許すんだったら貴女が外して」

「あ、はい…」

篝の後ろに回り、手錠とギャグボールを外した。

「篝。何か言うことは?」

「モウシワケアリマセンナンデモシマスカラユルシテクダサイ」

綺麗な土下座だった。

「って言ってるけど桐生さんどうする? 篝をFA○Kする?」

「しないから」

「だってよ篝。よかったねー」

(ヴァーリさん恐い)

「じゃぁ他に何か望みはある?」

「え?」

「さっきシャワー中に言ったじゃん。私達は龍魔天使。悪魔の力を持った天使。
今回はある程度までなら桐生さんのお願いをタダで受けちゃうよー」

「えぇー…?」

「じゃぁ明日聞くから、今日はもう帰った方がいいかも」

ヴァーリが時計を指差す。

「は、はい」

桐生藍華は逃げるように出ていった。

「おい。何勝手に話してんだよ」

「だめだった?」

「いやまぁ…遅かれ早かれ彼女ならこっちに来ただろうけども…」

「ならいいじゃん」

「はぁ…。それはそうと…」

「ん?」

「お前、母さんに似てきたな」









翌日の放課後、桐生藍華は舞と真琴に連れられて篝の下へと来ていた。

「でー? 望みは何? 永遠の命くらいならやったげてもいいよ。
世界の破壊とかはダメだから」

「……………………」

「何? どうしたのさ?」

「えーと……その方はどちら様ですか?」

藍華の目の前では、龍体の篝がソファーに座った青髪の女性の膝に頭を乗せて、くるくると喉をならしていた。

「私はカラワーナ。ご主人様のポーンだ」

「悪魔の方ですか?」

「ああ」

カラワーナの背中から翼が、腰から尾が、額から角が、そして頭上にエンジェルハイロゥが現れた。

「そーゆーのいーからさー。さっさと望み言ってくんない?」

面倒臭そうにドラゴンが言った。

「えーと…だったら、私を篝君の眷属にしてほしい」

「ふーん? 理由は? あ、怒らないから本音でお願いね。作った理由は認めない」

「…………楽しそうだから」

「ふーん? 今の人生は退屈?」

「うん」

「よくわかったよ。じゃぁ君を眷属にしよう」

「いいの?」

「ああ。君みたいなのが居ると明るくなるからね」

篝はカラワーナの上から首をあげると、龍人となった。

そして、藍華の目の前まで来ると、手を握った。

「君は……ふむ…ん? なんだこれ?」

「どうしたの姫島君?」

自分の手を握ってぶつぶつ言い出した篝に不安を覚えた。

「いや…少し…うん…なんでもないよ?」

「?」

「きみは、魔力が多いようだ。これならビショップだな」

「ビショップ?」

「魔法系だよ。魔法に関してはちゃんと教えるから大丈夫」

篝は手を離すと、アポートでドラグーン・ピースを呼び出した。

「じゃぁ、やるよ」

「うん」

ドラグーン・ピースが藍華の胸の前で静止する。

「我、創造の龍を宿せし者。万象の祝福を汝に与える者。汝我が祝福と呪いを以て転生せよ」

ピースが光輝きながら、藍華の胸に入っていく。

「あったかい…」

「これで終わりだよ」

「え?」

「以外とあっさりしてるでしょ?」

「ええ…はい」

クルリと、篝が藍華に背を向けた。

「カラワーナ、彼女の服を用意しろ」

「御心のままに」

カラワーナが手招きし、藍華がついていく。

篝は龍人のまま、ソファーの上に横になった。

「はふぅ…」

羽と尻尾をだらしなく伸ばす。

ヴオン…と闇と共に篝の前に現れたのは、金髪ダウナー系のイケメンだった。

「章(あきら)? どしたの?」

「いいんですかねぇ?あの子」

「いいんじゃないかな。それにいい掘り出し物だ。彼女人間以外の血が混じってる。うっすいけどね」

「へー。何の血ですか?」

「サキュバスだな。あれは」

ピュゥーと章が口笛を吹いた。

「ドラゴニューツや龍魔天使には効かないだろうけどな」

「効いたら貴方が受け入れませんよね。篝様」

「ま、そうなんだけど」

篝と章が話していると、カラワーナと藍華が戻ってきた。

「じゃぁ俺は戻って寝ます」

「おい。宿題やれよ?」

「はーい」

再びロストでどこかへ消える章。

戻ってきた藍華が来ていたのは駒王学園の制服とほぼ同じものだ。

「カラワーナ。間違いないな?」

「勿論です」

「桐生藍華、少し痛いかもしれんが我慢しろ」

篝は藍華の後ろに回ると、心臓の後ろに手を当てた。

刹那、藍華の背から翼が伸びた。

次に尻尾、角と続き、最後にエンジェルハイロゥが現れた。

「大丈夫? 痛くなかった?」

「どちらかと言えばくすぐったい気が…」

「なら大丈夫」

パチンと篝が指を鳴らし、姿見を召喚した。

「これが、新しい君だ」

藍華が、鏡をまじまじと見る。

「これが…私…」

「望めば尻尾や翼は消せる」

藍華が望むと本当に消えた。



「歓迎するよ桐生藍華。こちらの世界にようこそ、ってね」
 
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