機動戦士クロスボーン・ガンダム・レイス
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第一話 クロスボーンガンダム
前書き
書いてみました。
脱字誤字等あればコメントで教えて頂けると助かります。
更新は、気分が乗ったらしますので読んで頂けると幸いです。
機動戦士クロスボーンガンダム ゴースト・レイス
宇宙の幻影、それは確かに存在した『亡霊』の物語。
あの出来事を、僕は忘れない。
あの瞬間を、僕は忘れない。
あの一瞬を、僕は死ぬまで忘れない。
忘れてやるもんか。例え、死んで幽霊になっても忘れるもんか。
クロスボーンガンダム。
本機は、サナリィで開発された通称F97と呼ばれる試作実験機であり宇宙海賊クロスボーン・バンガードで運用されていたガンダムタイプのモビルスーツだ。
近接戦闘を前提に開発され、機動力は当時の最新型モビルスーツの中でも群を抜いたとされているが…それは二十年も前の話で現在の新型機に何処まで通用するかは定かではない。
だが、近接戦闘以外にも木星の重力下での運用も想定していたとされているので、その機動力は正に高機動型と言わんばかりの代物たったのだろうと推測する。
そして、その機体のデータを元に木星帝国が開発したモビルスーツ。
その名を『アマクサ』ジュピターガンダムとも呼ばれていたらしいが、この機体に関してはデータが少な過ぎて不確定な要素が多い。分かっていることは当時としては大型の18m級の機体であった事と機体性能は、クロスボーンガンダムと同等だったとされている?事くらい。クロスボーンガンダムと比較して機体完成度は七割といった所で機体としては欠陥機だが、機体単機での精度ならクロスボーンガンダムにも劣らない程の出来栄えだったそうだ。
そして木星帝国は、クロスボーンガンダムのデータとバイオコンピュータの解析を進めていく中で一騎当千をコンセプトとした機体の開発に着手し始めた。
その名をサウザンドカスタム。一騎当千を前提に開発された七機のモビルスーツだ。
それぞれの機体が様々なコンセプトで開発されており、戦局を覆す事も可能とされているが…その実態は何かの長所を伸ばし短所を捨てた、ある意味では欠陥機に成り得る出来損ないである。
そこで開発チームは、敢えて長所だけに特価し短所をカバーできる。または長所を最大限に活かせる人間を探し出しパイロットとして搭乗させた。
そうする事で、サウザンドカスタムは正に一騎当千と言わんばかりの戦果を挙げるが…ザンスカール帝国との戦争で全てのサウザンドカスタムは失われた。
一応、補修パーツは残っていたがサウザンドカスタムの戦闘で得られたデータを使ってより強力なモビルスーツの開発を行う事になり、補修パーツは処分される事となった。
…なのだが、サウザンドカスタムの補修パーツは何らかのアクシデント、トラブルによりジャンク屋、またはサナリィの研究施設、アナハイム・エレクトロニクス社の手に渡り、それぞれのサウザンドカスタムの機体データを漏洩してしまう。
これにより、過去のユニバーサル規格のような状況となり今後、開発されるサウザンドカスタムのコピー機は敵軍からでも調達出来るようになった。
世は、一機当千の時代。
一機のモビルスーツが戦争の局面を左右する。
これは喪われた伝説を、再現する物語だ。
モビルスーツに浪漫(ろまん)は必要ない、と誰かが言った。
兵器に浪漫(ユーモア)は必要ない。兵器は人を殺す為にある、と誰かが言った。
そう。兵器は人を殺す為にある。現に、目の前で組み立てられている機体も正にそうなのだろう。
クロスボーンガンダム・レイス。
クロスボーンガンダムの『幽霊』
クロスボーンガンダムの残骸とクロスボーンガンダムで得られた戦闘データをフィードバックし改修した新たなクロスボーンガンダムだ。
因みに、レイスと言う名は私が無理矢理付けた。これはレイスの立案者であり設計者である私の特権だ。誰も文句は言えないし言わせない立場というのは最高だぜ。
「ようやく形になってきましたね」
開発チームの一人である…名前を何だったか?
まぁいい覚えていないという事は覚える必要のない人間なのだろう。
「そうだな。ようやくここまで来た」
レイスの開発が始まって早二年、色々と面倒な事ばかりだった。
最初は木星帝国に回収されたクロスボーンガンダムの残骸を話し合いの交渉で回収し、次にサナリィの施設に蓄積していたクロスボーンガンダムの戦闘データと設計図を私が態々(わざわざ)、サナリィの研究チームの一員になる事で入手しやっとここまで漕ぎ着けたのだ。本当にここまで長かった…思い返せばここまでよく来れたなと自画自賛してしまう。
「形になってくると本当にF97にそっくりですね」
「当たり前だ。そうなるように設計したんだからな、」
F97────クロスボーンガンダムは私の心を射抜いた天使(キューピット)だ。
その天使をこうやって自分の手で組み上げられるなんて私は本当に幸せ者だよ。
「武装の開発状況はどうなってるんです?」
「機体の開発を優先したからね。武装に関してはまだまだ先の話さ」
内部フレームと装甲素材を優先的に設計し生成しておいたので後は組み上げるだけで何とかなるが…武装に関してはデータ不足で開発が遅れてしまっている。一応、新規で開発した武装ならレイスと同時期に完成しそうだが…私の求めている本物の『クロスボーンガンダム』には及ばない。
「ユニバーサル規格の武装なら互換性の問題は無いですけど…」
「そんなのは解ってるよ。でも、それじゃあ地味過ぎるでしょ」
「地味…ですか?」
「あぁ、こんな最高の機体に既存の武装なんて勿体ない。もっとセンスのある武装を装備させなきゃ」
例えば、データ上で記されていた『ビームザンバー』とか。アレとかオシャレセンスの塊。
「ですが…こうも規格外過ぎると他の機体に互換性のない武装ばかりでは、」
「問題ない。この機体は『一機当千』だからね」
「またそれですか…」
呆れてものも言えないのか溜息を付かれる。だが、本当に必要無いんだ。
この機体は最強のワンオフ機、そして無敵のクロスボーンガンダムだ。人は機体を選んでも機体は人を選べないとか理不尽過ぎる。人も機体を選んで機体も人を選ぶべきだと私は思う。
「異論は認めない。Do you understand?」
反論も否定も許さない。これは、私の『私』達の人生を掛けた計画だ。誰にも邪魔はさせない。
「本当に頭でっかちですねぇ」
「五月蝿い。私は身勝手なのさ」
「ははっ。そうですね。でも、そんな主任だからこれだけの機体を生み出せたのかもですね」
「?」
「いえ、何でもありません。そろそろ失礼します」
そう言って男は去っていく。
結局、名前を思い出せぬまま去っていでたが…まぁ、会話は成り立っていたから問題無いだろう。
さて、そろそろ仕事に戻りますかね。
戻らない。
戻れない。
戻りたい。
今の宇宙はつまらない。
あれだけ美しかった宙も今ではゴミ捨て場同然だ。
こんな宇宙を見て、あの人はどう思うだろう?
どれだけ落胆し嘆き悲しむか…。
だから、全てリセットしなければならない。
あの人の望んだ宇宙に戻さなければ…あの人は報われない。
宇宙は、誰のものでも無い。
だから、まずはゴミ掃除からしなくちゃね。
そこは、宇宙だった。
研修で体験した擬似宇宙とは違う、本物の無重力に若干の戸惑いを感じつつも何とか体勢を保とうとするが━━━━━━━━━━━━━━━。
「うぉ!?」
上手く体勢を保てない。
お、おかしい。研修では無重力対応能力はB+と中々の高評価だった筈なのに、この体たらく…。
「ちょ、せい。とうっ」
研修の時の感覚を思い出し、その時の動きを反映しようとするが。
「ちょ━━━━━━━━━━━━━━━Noん!?」
無様に手足をばたつかせて変な声を出してしまった。
しかも、無闇に手足をばたつかせたからコントロールが!?
「止まれぇ、止まって下さい!?」
地上では有り得ない動きで回転する体。
あぁ、駄目。気持ち悪くなってきちゃった…。もう…限界、吐いちゃ…。
「よっと」
何かに腕を掴まれた。
そして「せい」掴まれた腕は強引に引っ張られる。
そうして回転は止まった。
「大丈夫?」
無重力の回転でシェイクされた脳みそ、上下左右の感覚がぶれて気持ち悪い。
「あ、ありがとう…ございます、ん。だ、大丈夫…で、すぅ」
正直に言えば大丈夫では無い。あと少しで吐きそう…。
だが、吐き気を無理矢理押さえ込み、助けてくれた人の顔を見る。
「うわ、酷い顔」
その人は、女性だった。しかもとても美人!
でも…初対面の人に対してその発言はパンチが効きすぎてませんかね?
「あ、はははははっ」
それはそうと危ない所を助けてもらったんだ。改めてお礼を言わねば…。
吐き気を押さえ込みながら笑顔を作る、と。
「無理に笑わなくてもいいよ」
そう言って女性は背中を優しくさすってきた。
「え…?」
「気持ち悪いんでしょ。吐きそうなんでしょ?見れば分かる」
よしよしっ。と今度は頭を優しく撫でてくれた。
「あ、あのぉ…」
いきなりの展開に動揺を隠せない。
あれ、何で今に至るんだっけ?
「少しは落ち着いた?」
「え、はい…」
「うん。さっきよりマシな顔になったね」
いいこいいこ。
改めて頭を優しく撫でられた。な、なんか恥ずかしいんだが…。
「吐き気はまだある?」
「…は、はい」
「だよね。
でも、無重力空間で吐いちゃったら分かると思うけど大惨事になっちゃうから、どうしても我慢出来なくなったらこれを使って、」
差し出されたのは黒色の袋だった。
我慢出来なくなったらこれにぶちまけろ、という事か。
「ゴミ捨て場は艦内のそこらにあるから使ったらちゃんと捨ててね」
「分かりました…」
突然のアクシデントに備えて今度からゴミ袋、もといゲロ袋は常備しておこう。
「取り敢えずは大丈夫そう?」
「…何とか…」
回転途中に比べれば、だいぶマシになってきたし吐き気も引いてきた。これなら動けそうだ。
「あの…ありがとうございます」
まずは助けて頂いたお礼を、そして何かお詫びの印を。
「いえいえ、突然の事をしたまでだよ」
「何か、お礼を…」
「いいって、別にお礼される程の事はしてないから」
「でも、」
それでも、助けてもらったんだ。何かしら恩を返したい。
「……ちょっとつかぬ事を聞くけど、君ってもしかしてアースノイド?」
「そ、そうです」
アースノイドとは、その名の通り地球育ちの地球人を意味する言葉。
すると女性は「やっぱり」と言って笑顔を浮かべ。
「って事は君が新卒採用のコウタ・アマネ君ね」
いきなり本名を言い当てた。
「???」
何故、俺の名前を?
「そう言えば自己紹介がまだだったね。
初めまして、私はリリア、リリア・ロンデル」
いつの間にか差し出されていた左手。
「初めまして、天音 光汰です」
差し出された左手を右手で取り握手する。
「あっ。そっか、ごめん。
確かアースノイドってスペースノイドと名前の呼び方が違うんだっけ?」
「そうですね。地球の日本では俺の名前は天音 光汰って表記されますけど宇宙だとそこら辺の概念に相違が有るんですよね?」
「そうそう。基本的に同じ人間だから大きな際は無いけど、それでも若干の際は有るの」
地球と宇宙では生き方も過ごし方も違う。育ってきた空間が違えば当然の事だ。こればっかりは仕方ない。
「でも、なんで俺がアースノイド…それも新卒採用だって…?」
もしかして新卒採用の社員の制服は他の社員と見分けが付くように色が違うとか?
それなら納得できるが…俺の着ている制服と彼女の着ている制服の色は同じ灰色。という事は、制服の色で識別しているという事は無さそうだ。いや、彼女も新卒採用の社員なら話は別だが、あの軽快な動きはここの空間を完璧に把握している様子だった。なら、新卒採用って線も無いだろう。
じゃあ、ネームプレート?
制服と同時に支給されたネームプレート、このネームプレートに何らかの識別方法が…。
「さっきからどうしたの?」
ひょこっと間近まで迫っていたリリアさん。
近い近い。少し離れてくれ…。
「えっと…なんで、俺がアースノイドで新卒採用だと分かったんですか?」
恐らく、このまま考えても結論は出なさそうだから真相を知る本人に問うことにした。
「なんで、と言われたら…そうだね。
口調とか動きとか?」
「え?」
口調と動き?
「鈍りって言えばいいのかな。スペースノイド特有の口調じゃない。
それと宇宙慣れしてなさそうだから、」
スペースノイド特有の思考。
な、なるほど。スペースノイドである彼女から見たら俺は地の上の魚に打ち上げられた魚にでも見えたのだろう。それなら納得いくが、なんで新卒採用だと分かったんだ?
「あと新卒採用リストに一人だけアースノイドって表記されてたから、」
………。
なるほど、そういう事か。
となると今回、アースノイドでの新卒採用は俺だけ、という事か。
「珍しいですかね…アースノイドの新卒採用って、」
「珍しい。と言えば珍しいかな。
何年か前にアースノイドの人を中途採用したって話は聞いたことあるけど新卒採用は今回が初めてだって社長が言ってた」
「そうなんですか…」
という事は、この会社の大半の社員はスペースノイドという事なのだが、それは入社前から事前に調べていたので驚きはしない。だが、そこまで珍しい分類に入っているとは思いもしなかったので少し驚いた。
「色々と噂は聞いてるよ。
何でもうちの社長に一泡吹かせたそうだね」
「え、一泡吹かせた?」
「細かい事は知らないけど皆、君の事を歓迎しているからこれからよろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願い致します」
一泡吹かせた?というに覚えは無いが…どうやらアースノイドである自分に嫌悪感は抱いていない様子で安心した。
これは人によるらしいが、一部のアースノイドはスペースノイドを軽蔑し、一部のスペースノイドはアースノイドを軽蔑している…そうだ。
まぁ、これは残念な事だが、一つ言える事はアースノイドでスペースノイドを見下し軽蔑している人は存在する。俺は、その一部の人物の抱く嫌悪感を理解する事は出来ず、同じ人間なのに何故、そんなにも嫌うのか理解できなかった。
「さて、私は社長室に向かうけど君は?」
「俺も、社長室に…その呼ばれて、その…」
「迷子になって、それ所では無かったと」
「…はい、」
「そんなに落ち込まないの。
ずっと地球に居たのなら無重力に慣れてないのは当然なんだから」
これからこれから、とフォローしてくれるリリアさん。
その優しさに心を救われるが、結構恥ずかしい所を見られた身としてはそろそろ名誉挽回したい所。
「それじゃ、案内するから着いてきて」
リリアさんは俺の手を取り、先へと進んで行く。
「え、ちょ、」
いきなりの唐突な展開。
いや、まぁ、さっきからそんな展開と流れだが、こうも流れ良く進むと歯痒いというか何というか…。
取り敢えずは流れに身を任せろ、という神の啓示か?
待て待て、さっきから流れに身を任せる所か、その流れに救われてないか?
こういう時は、男らしい一面を見せるべき…なのだろうが、無様な回転から吐く寸前の顔まで見られて男らしいもあったもんじゃない。
……やはり、ここは流れに身を任せるしかないか。
「その、何から何まですみません」
再度、改めて謝罪する。
あぁ、この謝罪は一体、今日何度目の謝罪なのだろうか?
昔、誰かに言われ事を思い出す。確か…謝罪はすればする程、重ねる程、価値が下がると…。
謝罪は、その名の通り、罪の過ち詫びる=謝るという事だ。
本来なら何度もする事では無く、その謝りを反省し次に活かすものだと自負している。
…自負していた。いや、自負していたつもりだった。その事を今日改めて思い知った。
「いいのいいの。
困った時はお互い様だから」
気にしない気にしない、リリアさんはまるで気にしていなかった。
なんと心の広い人なのだろうか…こんな人が地球に居ようとは!
あ、ここは地球じゃないから存在してもおかしくないかも?
いや、そういう問題じゃなくて!
心の中でボケとツッコミを繰り返し悪戦苦闘していると。
「さて、着いたよ」
リリアさんは立ち止まり、目の前の扉にカードキーをかざす。
するとコンソールパネルには数字の羅列が表示された。
どうやら、この扉のパスワードのようだが…何故にパスワード式?
「開くよ」
コンソールパネルに表示されていた数字の羅列を組み合わせ、ロックの解除を終えると扉が開いていく。この先に、このブラックロー運送会社の社長が━━━━━━━━━。
そこは、社長室では無かった。
いや、もしかしたら…ここは、このブラックロー運送会社の社長室なのかも知れない。
勝手な思い込み、憶測、想像だが、社長室と言えば高そうな装飾の施された一室で…なんと言えばいいのか解らないが、自分の想像とは掛け離れた光景に言葉を失ったのは事実だ。
「ここって、」
モビルスーツの格納庫?
「変わってるでしょ」
「変わってるって言うか…ここって、モビルスーツの格納庫…ですよね?」
「そうだよ」
即答だった。
「じゃ、じゃあ、もしかしてここの社長室ってモビルスーツの格納庫と同室なんですか?」
まさか、そんな訳ないよね?
「その通り、That’s Right」
「マジですか?」
「マジのマジ、ここがブラックロー運送の第四ステーション『カナリア』の社長室」
広々とした空間に、物資の搬入手続きや送られてきた物資の確認等に勤しむ職員達。
そして、その奥には数機のモビルスーツが待ち構えていた。
「ほら、あそこに居るのが社長だよ」
視線の先、そこ居るのは━━━━━━━━━━━━━━━。
「あの人は、」
俺の面接を担当してくれた、名前はオンモ…さんだっか?
「おぉ、来たねぇ!」
俺とリリアさんの視線に気付いたオンモさん?はこちらへやって来る。
「社長、頼まれてた資料です。それと、」
資料を差し出し、オンモさんは「ありがと」と言って受け取る。そして、
「天音 光汰君、久しぶりだねぇ」
まるで久しぶり会った親戚のおばあちゃんのような発言だった。
いや、発言もそうだが雰囲気が正にそれだ。
「お、お久しぶりです…」
そう。あれは、一年前の出来事。
唐突だが、この人に会って一年前の事を思い出していた。
このブラックロー運送会社の地球支部で面接を受ける前日、俺は母さんに絶縁された。
そうなる事は解っていた。覚悟もしていた。
でも、現実は残酷で実際に母さんの口から放たれた言葉に、俺は涙を流した。
地球生まれの地球育ち、母さんが極度の宇宙嫌いで生まれてから十九歳になるまで宇宙に行ったことが無かった。
周りの皆は、学校の行事とか親戚に会いに宇宙に行っているのに俺だけ宇宙に行ったことがない…。それが嫌で嫌で仕方なかった。
だが、母さんの事を考えると…踏み止ってしまう。
悩んで苦悩した母さんの事を考えて、それを繰り返して俺は結論を出した。
そして月日は流れ、俺は決断した。
その決意は固く、簡単には揺るがない。
揺るがない。
…揺るがない。
……揺るがない。
………揺るがない。
揺るぐもんか。
そんな簡単に揺らぐ決意では無い。
これは、人生を左右する決断だ。
踏み止まるな。前に進め、ここで止まったら俺は一生、変わらない。
だから。
…だから。
……だから。
こうして、今の俺はここに居る。
あの決断は間違っていない…と俺は胸を張って言える。それはあの時から変わらない。
だが、これは何と言うのか。
言うなれば、これは後悔…なのか?
悩みに悩んだ末に出た結論はとても曖昧だ。
もしかしたら、もっと良い方法が有ったんじゃないか?
例えば。
もし。
もしかしたら。
或いは。
考えに考えて、考えに考え抜いて。
いつも辿り着く結論は変わらない。
でも、もしかしたら。
あの時、あの時に。
今更、後悔しても仕方ないのは解っている。それでも後悔せずにはいられないんだ。
時間の流れは誰に止められない。
流れる時の中で、この感情は刻々と薄れていくのだろう。
だから、この感情が『本物』の内に俺は母さんと決着を付けねばならない。
あんな、一方的な終わり方…絶対に認めるもんか。
「どうかしたかい?」
オンモさんの一言で現実に引き戻された。
「い、いえ。すみません。少し、考え事を…」
いけない。今は私情を挟むな、俺は今日からここの社員なんだ。
「そっ。ならいいけど」
オンモさんはリリアさんから受け取った資料を軽く見通し。
「さて、本来なら今から入社式をして天音君にはじっくり研修を受けてもらいたいんだけど…ちょいと今、社内が立て込んでてね」
チラッとオンモさんは後ろを見る。
そこでは搬入してきた資材を作業用モビルスーツが運んでいた。
「最近は、コロニー宛の搬送依頼が多くてね。ここんとこ暇なしさ」
少しくたびれた溜息をつき、現在の社内の状況の説明を始めた。
どうやら先の戦争━━━━━いや、もっと前からの戦争で積み重なった負債とでも言うべきか、地球の周辺を大量のデブリが覆っており、宇宙から地球、または地球から宇宙への電力供給、資材供給に支障を来たしているようだ。
それにより物価は高騰し、資材を運送するブラックロー運送は絶賛大儲け中なのだが…。
「貧乏暇なし…いや、金持ち暇無しだねぇ」
「社長、」
リリアさんはオンモさんも睨む。
「おっと、すまないね」
いかんいかん。といった様子で愛想笑いを作り。
「とまぁ、そういう事なんで今は繁盛期な訳さね。当分は忙しいよぉ~」
「事情は解りました。未熟な身では有りますが精一杯頑張らせて頂きます」
「おっ。頼もしいねぇ。それじゃ、今日から早速、仕事をお願いしたいんだけど」
「はい。自分が出来ることなら、」
取り敢えず、入社式は仕事が会社が落ち着いてからで研修も仕事を教えながらその合間にだそうだ。
「じゃ、まずはウモンじいさんの相手でもお願いしようかね」
ウモン…じいさん?
そう言ってオンモさんは「ウモンじいさーん」と大声で呼ぶと。
「…………………」
反応は無い。
ここには居ないのかな?
「社長、ウモンじいさんならアイツのコクピットでお昼寝してますよ」
近くにいた社員は、忙しそうにしながら所在を教えてくれた。
「あいよ。じゃあ、行こうか」
「は、はい」
この空間はある程度、重力を調整しているのか無重力空間より動きやすかった。
といってもまだまだ不慣れな訳だが、こればっかりは慣れるしかない。
「さて、コイツの中だね」
それは、モビルスーツだった。
物凄くボロボロでいつ壊れてもおかしくない状態。恐らく、作業用として使われているモビルスーツなのだろうが…こんなボロボロのモビルスーツを運用するのはちょっとアレだな。
地面を蹴り、ジャンプする。
「いたいた、」
コクピットは開いており、そこにはかなり高齢なおじいちゃんが気持ちよさそうに眠って……?
なんだ、この違和感は。
その違和感の正体は、ギャップだった。
今にも壊れそうなおんぼろモビルスーツなのに、コクピット内部はそこそこ新しい。
外観はボロボロなのに中身は最新型?
「このじいさんの名前はウモン・サモン。このブラックロー運送の古株で今は隠居して、たまに手伝いで来てくれるんだけどもかなりのお歳だからこの通り、」
気持ち良さそうに眠っている。
「起きてる時は、モビルスーツのレストアを手伝ってもらってるんだけど今は人手不足で、人員配置がうまくいってないのさ」
「なるほど。
という事は、俺の仕事はそのモビルスーツのレストア、という事ですか?」
「今の所はそうだね。
人手不足で猫の手も借りたいくらいだから大変だと思うけど頼りにしてるよ」
「かしこまりました。ご期待に添えるよう尽力します」
このブラックロー運送での初仕事は、整備士 ウモン・サモンの元でモビルスーツのレストアのノウハウを学ぶ事。
モビルスーツに乗った事は無くもないが、モビルスーツをレストアする作業は体験した事が無いので内心、楽しみで仕方ない。
「……なんじゃぁ…騒がしいのぉ…」
すると俺達の会話で目が覚めたのかウモンさんは大欠伸をした。
おもむろに周囲を確認し俺達の方を見る。
「じいさん、こんな所で寝てたら風邪引くよ?」
「あっ?なんだって?」
「だから風邪引くって言ってんの」
やれやれ、といった様子でオンモはさんは苦笑する。
「とまぁ、この通りのテンプレじいさんでね。
たまに行方不明になるけど大体はここで寝てるから探すとしたらここ」
「あっ?なんだって?」
「取り敢えず、ウモンじいさんはここ寝てたら風引くから部屋で寝な。
それと今日から入った新人の、」
「地球の日本から来ました。
天音 光汰です。よろしくお願いし━━━━━━」
「トビア?」
俺の自己紹介は、その一言でかき消された。
「え?」
まるで幽霊でも見たかのような表情をするウモンさん。
「えっと…トビア?」
誰かの名前だろうか。
オンモさんの話だと…失礼だがボケている?との事だが、もしかして俺の事を、そのトビア?さんと勘違いしているのだろうか?
「じ、じいさん。この子は、」
「トビア、トビア、トビア、」
よろよろ、とウモンさんはこちらにやって来る。
「お前さん…生きておったのかぁ…」
今度は泣き始めた。それも号泣。
「……?」
どう、対応すればいいのか分からない。
俺は慌ててリリアさんとオンモさんに助けを求めようとするが…。
「トビア…トビア、」
いつの間にかウモンさんは俺に抱きついていた。
「トビア、トビアやぁ…」
とても弱々しい腕から伝わってくる。
これは、なんだ。
俺の身体に、心に伝わる…この感情は?
その感情の名前を、俺は知らない。
でも、何故だろうか。
「…………………」
その感情の名前を、俺は知らない。
でも、何故だろうか。
「ただいま、ウモンじいさん」
俺は、この感情を知っているんだ。
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