夢幻水滸伝
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第八十四話 江戸城入りその一
第八十四話 江戸城入り
幸田は日毬に一言で答えた、その言葉はというと。
「入らせてもらうぜ」
「そうか、わかった」
「そしてな」
「それからだな」
「ああ、江戸城の主そしてあんたから棟梁の座を受け継いでな」
そうしてというのだ。
「働かせてもらうぜ」
「わかった、ではだ」
「それじゃあだな」
「今から江戸城の中に案内する」
「夜なのにか」
「寝る場所はある、本丸の御殿を使え」
「おい、本丸のかよ」
日毬のその申し出にだ、幸田は驚いて言葉を返した。
「そりゃ将軍様が寝泊まりしていた場所だよな」
「大奥の場所もある」
日毬は驚いて言う幸田に淡々とした調子で答えた。
「女衆はいないがな」
「いや、俺は奥さんはいらないからな」
「そうなのか」
「あたしがいますから」
麻友がここでまた言ってきた。
「ですから」
「いいのか」
「はい、大奥があっても」
「ああしたものはいらないか」
「はい、全く」
「というかそんなの別にいらねえな」
幸田は大奥についてまた言った。
「酒池肉林なんておいらの趣味じゃねえよ」
「別にそうした場所でもなかったがな」
「ああ、大奥は実際にはな」
「意外と質素な時も多かった」
このことは将軍にもよる、二代将軍徳川秀忠は正室のみであったことは広く世に知られていて後世にも伝わっている。
「尚私も入ったことはない」
「御前さんはそりゃな」
「女だからな、私が肌を許す方は」
日毬はここでも淡々と述べた。
「旦那様となる方だけだ」
「あたしと一緒ですね」
麻友は日毬のその言葉にまた笑顔で応えた。
「あたしも吉君とだけですから」
「おうよ、おいらもだよ」
幸田も麻友に続いて言った。
「そんな相手は一人で充分だよ」
「いいことだ、それで私は本丸の御殿にいたが」
「大奥にはだな」
「入ったことがない、そして貴殿が棟梁になるならだ」
それならというのだ。
「本丸の御殿を譲ってだ」
「そうしてかい」
「別の場所で住むとしよう」
「何か悪いな」
「悪くない、棟梁ならだ」
それならというのだ。
「本丸の御殿に入るべきだ」
「それが筋なんだな」
「そうだ、ではこれよりな」
「本丸にだな」
「案内する、そして明日だ」
その時にというのだ。
「新たな棟梁としてだ」
「おいらを紹介するのか」
「そうする」
こう幸田に答えた。
「私が譲ったと言ってな」
「凄いねえ、これはあれだな」
「あれとは何だ」
「棚からぼた餅だよ」
そうした話だというのだ。
「瓢箪から駒って言ってもいいな」
「どちらにしても予想外ということか」
「そうだよ、本当にな」
まさにそうだというのだ。
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