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約束と予言

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第一章

               約束と予言
 アムピアラオスは武勇を誇るだけでなく予言の力も備えていた、それ故にこれまで彼は幾度も危機を乗り越えることが出来た、その彼がアルゴス王であるアドラストスと争った時にだった。
 争いの後でアドラストスと和解し彼の妹であるエリピュレを妻とした、その時にだ。
 アドラストスからだ、アムピラオスにこう提案があった。
「我等はこれで義理の兄弟となった」
「敵同士の間から」
 茶色の髪は短くまとめられていて青い目は遠くを見る様だ、髭のない顔は雄々しくかつ知性に満ちている。中肉中背だが身体つきはしっかりとしている。
「そうなったからには」
「もう二度とな」
 それこそとだ、アドラストスは言うのだった。
「争いがない様にしたいが」
「そうですね、そのことは」
 まさにとだ、アムピアラオスも応えた。
「もう二度と」
「そなたもそう思うな、ならばだ」
「それならばですか」
「今後我等の間で諍いがあった時は」
 その時はと言うのだった。
「妹でありそなたの妻であるな」
「エリピュレの話をですか」
「聞いて従ってくれるか」
「妻の言葉を受けることですか」
「エリピュレは間違いなく我々の間に入ってくれる」
 兄である自分と夫である彼の間にとだ、アドラストスはアムピアラオスに対してこのことを話した。
「だからな」
「妻の言葉に従えば」
「ことは必ず収まる筈だ、だからだ」
「これからは」
「我等の間に何かあればな」
 その時はとだ、アドラストスは再び話した。アムピアラオスよりも年長で金髪に黒い目は妻も同じである。背はアムピアラオスよりも高くほっそりとした身体つきだ。
「ことはだ」
「妻によってですね」
「収まる。だからそうしてくれるか」
「わかりました」
 この時アムピアラオスは二度と争いが起きないならそれでいいだろうと思った、それで予言の力も使わなかった。それでだった。
 エリピュレを妻に迎えアドラストスとのことは彼女の言葉に従うことを約束した。それからの彼はアルゴー号の遠征に参加したりエリピュレとの間に何人かの子をもうけ幸せと言っていい人生を送っていた、だが。
 人生は幸せばかりとは限らない、そして異変は不意にやってくるものだ。それは彼も同じことであり。
 ある日のことだ、アドラストスは玉座からアムピアラオスに対して言った。
「この度テーバイを攻めようと思うが」
「あの街をですか」
「そうだ、どう思うか」
「あの街は」
 アムピアラオスはここで予言の力を使った、そこで彼は自分も他の多くの者も死にしかも戦も敗北に終わることを知った。それでだった。
 アドラストスにだ、こう言ったのだった。
「お止めになるべきです」
「是非か」
「はい、この戦は敗れます」
「そなたの予言がそう伝えたか」
「はい」
 その通りだと言うのだった。
「ですから」
「それでだな」
「はい、この度の戦はです」
「行うべきでないか」
「そうされるべきです」
 こう義兄である王に進言した、しかし。
 予言はそう言っても状況がそれを許さなかった、アルゴスとテーバイの関係は極めて悪化していてだった。
 それでだ、アドラストスはアムピアラオスにまた言った。
「どうしてもだ」
「戦をせずにいらませんか」
「今我が国の誰もがテーバイに怒り狂っている」
「それは私も存じています」
 この国にいる、ならばそれがわからない筈がなかった。 
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