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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

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第二百十一話 紅葉が見えてその十一

「それは」
「全部は聴いてけれど有名な曲だけ聴いたから」
「それで知ってるの」
「そうなの」
「そうした理由だったのね」
「歌劇は有名な曲だけ聴く場合もあるから」
 コンサートでもそうしていたりする、パヴァロッティにしてもコンサートでそうして歌っていて好評だった。
「だからね」
「それで知ってるの」
「女心の歌とかね」
「ああ、その歌はね」
 女心の歌についてはだ、イタワッチさんは知っている顔で答えた。
「私も聴いたことがあるわ」
「いい歌よね」
「そうね、けれどなのね」
「作品全体はね」
「物凄く悲惨なのね」
「救い様のない位ね」
 愛する娘を傷付けられてしかも死なせてしまう、こんな救い様のない話はない。
「そうしたお話だから」
「観るにはなのね」
「苦手ならね」
「遠慮した方がいいのね」
「私みたいにね」
「ヴェルディってハッピーエンドでも誰か死ぬんだよね」
 大抵はだ、カップルが片方か両方共死んで恋愛が成就したりようやく娘と会えて娘が幸せになったのに自分は死んだりしてだ。ギリシア悲劇のハッピーエンドに似ている。
「それで中にはね」
「救い様のない結末もあるのね」
「このリゴレットもそうだしね」
「他にもあるの」
「うん、中にはね」
 オテロはまだハッピーエンドだと思う、奥さんを殺してしまって自分も自害したけれど愛を確かめてその中で誇り高い人として死ねたのだから。
「運命の力って作品もね」
「悲惨な結末なのね」
「相当にね、だから僕もこの作品は」
「観てないの」
「あらすじだけ知ってるよ」
 実際には観ていない、この作品は。
「それでもね」
「あらすじ見ただけでなのね」
「駄目だって思ってね」
「観てないのね」
「それだけ救い様のないお話なんだ」
「リゴレット以上に?」
「そうかもね」
 否定できなかった、どうにも。
「あの作品は」
「そうなの。じゃあ私もね」
「運命の力が上演されてもだね」
「観ないかもね、リゴレットもね」
 この作品もというのだ。
「あんまり極端な悲劇は苦手なのよ」
「だったらね」
「どっちも観ない方がいいのね」
「運命の力もね」
 勿論リゴレットもだ。
「その方がいいよ」
「そうなのね」
「イタワッチさんは喜劇の方が好きなのかな」
「どっちかっていうと。あとね」
「あと?」
「悲劇でもロミオとジュリエットとかはね」
 シェークスピアのあまりにも有名な作品だ、この人の作品の中で最も有名な作品と言っていいだろうか。
「好きなのよ」
「そうなんだ」
「奇麗だからね」
「うん、二人共死ぬけれどね」
「奇麗な結末でしょ」
「死ぬけれど恋愛自体は成就する」
「そういうのは大丈夫なのよ」
 それで好きだというのだ。 
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