戦国異伝供書
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第三十話 九州攻めに向けてその六
「忠義も確かじゃしのう」
「一筋の方で」
「信頼も出来る、まあ爺と同じで小言は厳しいが」
信長にも謹言は忘れない、それが柴田なのだ。
「しかしな」
「それでもですな」
「わしはあ奴も用いる。だからこそ越前一国もじゃ」
「預けておられますな」
「その様にしておる、それであ奴にもな」
「書をですな」
「やっておるがあ奴は元々字も読める」
羽柴と違ってだ。
「漢籍にしてもな」
「織田家に代々仕えておられますからな」
「学問も元々それなりにあってな」
「それで、ですな」
「あ奴は漢籍も本朝の文も読める」
その両方がというのだ。
「それでな」
「あの方にも書を差し上げていますな」
「そしてあ奴は自分からすらすらと読んでおる」
そうもしているというのだ。
「猿と違ってな」
「左様ですな」
「まあ猿も苦手がある」
それが学問だというのだ。
「そこを踏まえてな」
「そのうえで、ですな」
「わしは用いておる、それと竹千代じゃが」
今度は家康のことを話した。
「このままでよいな」
「はい、徳川殿は既に破格の方です」
利休もすぐに答えた。
「三河に遠江、駿河を領有されて」
「三国合わせて百六十万石じゃ」
「四万の軍勢を持っておられます」
「天下に百石の家はない」
五十万石もそうはない。
「ならばな」
「最早ですな」
「あれ以上は与えぬ」
「若しあれ以上になれば」
「危うい」
力が大きくなり過ぎてだ。
「だからじゃ」
「それ故に」
「あれ以上にせぬ」
「天下の為に」
「そうする、それでじゃが」
「はい、徳川殿の家臣の方々は」
「陪臣としてな」
徳川家の中でというのだ。
「それぞれな」
「大名にされますな」
「そうもする」
こう言うのだった。
「大久保なりな」
「四天王のお歴々も」
「そうしてじゃ」
そのうえでというのだ。
「やはりな」
「徳川家の力は」
「出来る限りな」
「これ以上にはしませぬな」
「うむ、あ奴には三国で満足してもらう」
即ち今でというのだ。
「その様にな」
「それがいいですな」
「お主もそう思うな」
「天下を思えば」
利休も答えた。
「大き過ぎる大名家はいりませぬ」
「その通りじゃな」
「ですから徳川殿はあのままです」
「そして念の為にな」
「江戸城は徳川家の付け城でもありますな」
「名古屋にも城を築くがな」
清州城をあえて取り壊してだ、そうするというのだ。
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