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妖精のサイヤ人

作者:貝殻
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第二話:茜色のサイヤ人

 
前書き
お久しぶりです、長らく投稿がなかった貝殻です。
…いやぁ…言い訳がねぇ…それと投稿もまだまだ遅いかもしれないです。
まだまだリアルの方忙しくなりますので…いや本当、やらなきゃいけないこともやりたいことも多い…。
しかも妖精の戦闘民族(旧)から1年経ってるじゃねーか!嫌だもう…最初投稿したときは軽く2部まで行ってる予定だったんですが…いや1年じゃあありえねえか。
バトルシーンや他の描写をするとしたらしばらくまだ時間がかかる…ふーん(震声)

…こんな遅い貝殻ですが、それでも見てくれる方がいるなら嬉しいです、はい…。
では前書きはここまで、第二話「茜色のサイヤ人」です。ちょっと深夜テンションみたいに書き上げたんでまた文章が拙いでしょうが…ヨロシクオネガイシマス() 

 
SIDE:ネロ・ハバード

この星について頭を抱えるのは何度目になるのだろうか。

初めは主人公だろうカカロット(孫悟空)がやってくるであろう地球だと思っていたが、育ての親の話を聞いて頭を抱えた。
この星の空や自然、そして人間を見ても前世でオレが過ごしていた地球と同一されるものだ。
しかし、圧倒的に違うとすれば今繁栄している”魔法文化”と”魔獣(モンスター)”。
自身の知る限りではこのような情報はなかったはずだ。
いや、もしかしたら作品上その設定とか出てこなかっただけでは…とか。
それとも神様が教えてなかっただけで、どこかの作品とのクロスオーバーという微レ存?

ねぇねぇ、カプセルコーポレーションとか武天老師とか知らない?あ、知らない?そっか。…そっかぁ…。

……育ての親だけではなく、この旅で出会った人たちにも聞いてみたが全部の答えはNOだった。また頭を抱えてしまった。
良く良く考えてみたが、オレがこの世界で意識が目覚めたときはこの既に星に居た。
戦闘民族サイヤ人に転生したとなれば自然と惑星ベジータとかにいるはずだが、居ないとなればオレは意が目覚める前に他の星の侵略として召われた飛ばし子にされたかもしれない。
…だが、星の住人抹殺命令されてもいなければ、オレが乗っていた可能性のある宇宙船のポッドの存在を確かめたこともあったが、それも見当たらなかった。
また一度、頭を抱える羽目になるのは言うまでもないことである。
ヤバイ…一応サイヤ人としての特徴(・・)のアレがあれど、オレが今生きているこの星のことや、宿命とかがわからねぇ…一体どうすりゃ……強くなろう(思考放棄)
そうして強くなろうと励み、オレが強くなろうと努力している所を育ての親に見られてから修行をつけられるようになった。

え?アンタ強いの?魔法?…えっ
魔法ってなんだよ気じゃねえのかよ。属性?…あっ、魔法ですねこれ。ドラクエ?大魔王とかいるパターン?
ねぇねぇ、魔法にメガンテという呪文とかある?え、ない?てかなんですかそれって?……知らない魔法ですって?
いやいや魔法とか生み出してないって…オレの属性は”無”?レア物?わっやったね。…どういうことだってばよ。

結局分からないことがまた分からなくなったじゃあないか(絶望)
そうして修行して勉強して何故か甘えて修行して風呂入って寝る生活を9歳までしていたら、ある絵本を手にとって絶句した。


『伝説の英雄サイヤ人と悪の魔道士の闘い』

…なぁんなぁんだこれぇはぁ…(白目)


★★★★★★★


「ネロさんは…家族とか…居る?」

教会に宿泊して1日目の夕方頃、食堂でみんな飯を食事(10杯だけおかわりしてなんとか我慢した)してシスターに子供部屋の場所を教えるように頼まれたエルザに何故か家族がいるかについて聞かれた。
その時のエルザの顔はどうすればいいのか、悩んでいるような表情だったことは覚えている。
周りの子供がまだ遊びたりないことにより、神父さんが一緒に外へ遊びに出かけた。
だから今子供部屋に居るのはオレとエルザだけだ。
その子供部屋から夕焼けの光が窓からオレとエルザの間に差し込んでいるように見える。

「ああ、居るよ。まあ、血は繋がっちゃーいないけど…」

「…!おとうさんとおかあさんは?」

もしオレが今生の実の両親に情があればなにかアクションとかありえたかもしれないが、残念ながら情もなければ二人の顔も知らない。

「知らないな、あったとしてもどうでもいいかもしれねえけど」

「―――えっ…どうでも…いい…?」

「おう。だってオレを捨てたかもしれない親のこと、今更情の欠片も抱ける気がしないしな」

まぁちゃんとした理由があるのならちょっと認識が変わるかもしれないけどさ、と付け加える。
今のオレ(・・・・)を拾い、育ててくれた家族には恩もあれば、情も当然あって、この旅の許可を頂いたときの見たあの人の顔はとても申し訳なかった。
だから、この旅で一段落付いたら一旦帰って安心させなくちゃいけない。
前世で親にロクなことしてあげれねぇままおっ死んた親不孝者だが、今生こそ、親孝行したいと考えている。
…強くなることを優先的にしている時点でその考えが二の次みたいになっているけどな(白目)

目の前の少女が自己紹介のときから輝いてた子供特有の目がどんどんと暗くなっていく。
そっちから質問しといてなんだいな…今度はオレから聞かせてもらうか。

「全然一緒に居てくれてねえ顔も知らねえ両親か、ずっと辛い時も嬉しいときも側にいてくれる家族、エルザはどっちが好きなんだ?」

「――――――」


暗くなっていったエルザの顔に動揺が走る。
まるで今まで考えていなかったような、そんな感じだろうか。
ふと、窓の外を見れば神父の格好した中年の男性と、その男性が相手しているだろう子共達が目に映った。
さっきシスターと話して分かったのはここがローズマリー村の端っこに建てられている教会で、シスターさんとその旦那さんで何らかの理由で孤児になった子供たちを引き取って孤児院として経営していること。
恐らくあの子たちは―――眼の前に居るエルザも含めて孤児なのだろう。
オレが窓の方に目が行ったように、エルザも同じようにそちらへ目を移して、自分自身の胸へ手を持ち、こちらの耳に聞こえるくらいギュッ、という音が出るほど握りしめた。
再びエルザへと目を合わせ、オレに向けるその視線は、先程の不安定な色がなくなっていた。

「―――先生が、みんなが好き。わたしが、エルザが泣いているときも、困ったときも、楽しいときも一緒にいてくれるから…みんなが大好き…!」

「…そっか」

幼い緋色の少女の黒い目はどこか剣に似た輝きに見えて、さっきより強くなってこちらを見つめていた。
まだ少し迷いがあるけど、それはもうオレがなにかするよう必要性はないな。
…会ってまだ1日も経たない少女に、首を突っ込むのが傲慢かもしれないがどうしても、似た色の髪をしたこの少女に対して、真摯に答えてしまいたくなる。
それはきっと、幼いながらも彼女が発揮しているそのカリスマ(・・・・)のせいかもしれない。
例えまだ子供でも、天性の持ち主は幼いながらもその能力を発揮するケースも存在する。おそらくエルザもその類いだろうな。

「―――さて、オレはトイレにでも行くかな」

「…あ、待って!」

「ん?」

シスターに便所の場所を聞いてたんでそちらへ向かおうと思い振り返ったらエルザに呼び止められ、半分だけそちらへ体制を向けているような状態になる。 なんだろう…なんか今シャフっている気がする。

「お兄ちゃん…ネロお兄ちゃんって呼んでいい?」

「えっ、別にいいけど…どしたいきなり」

「…わたし、他の家のみんなが羨ましかったの。みんな親がいるから、わたしも居たらなって…。それに」

付け加えるように、先程目の力は変わらずこちらを見つめ続ける黒い瞳。
幻想していた剣の刃は、何故かこちらにロックオンするかのように向かれ…おっ?

「お姉ちゃん、お兄ちゃんも居たらなって思ったの。けど…教会にわたしより年上がいない…けど、ネロ…お兄ちゃんならって…だから…いい…?」

最後に不安げになったエルザの最後の言葉が引き金となったのか、こちらに幻想と見ていた剣が飛んできた。
しかも空気の動きとかも感じないままのような、音がないままのような…ってちょおま刺さ…ッ!


グサァッ…!

「…イイ、じゃなくオレで良いなら大丈夫」

「本当!?」

不安げになっていた顔は眩しいくらいにいい笑顔になっていくのを見て、どこかオレの心が癒やされていく。
そして、何よりも癒やされていくであろう心に生えるように突き刺さっている剣は光の粒になってオレの心に澄み渡っていく…ああ…コレ魔法?癒やしの剣の魔法なのね…まだ会って1日目だけど…エルザらしいと思えるような……。

「じゃあじゃあ…ネロお兄ちゃん…!」

「おう、なんだエルザ」

外はいつもどおりに、引き摺られないように鉄仮面ならぬ笑顔仮面で答える。
今、おそらくこの気持を顔に出したらとんでもねえクソガキのニヤげ面になっちまう…なるか…お兄ちゃんになるんだろオレ…なら…なら耐えてみろ!!サイヤ人としての闘いはまだ活かし切れじゃあいねえが…ここで負けちまったらサイヤ人である前にただのクソガキへ変わっちまう…耐えろ…そして打ち勝てネロ(オレェ)!!

「ふふ、呼んでみただけ!!」

グハァ…!!

「そうか…じゃあオレはトイレに行くな…」

「うん!ネロお兄ちゃん!行ってらっしゃい!!」

浄化されそうになりながらもなんとか子供部屋から抜け出し、すぐ近くに居た人(・・・・・・)にバトンタッチするように手を上げてトイレへ向かう。

「―――エルザ…ちゃん…!」

バトンタッチした人はなんとか涙を拭きながら子供部屋へ入ろうとしているの見ながら、オレは満足気に前を向きながら

「―――やったぜ」

これでいいだろう、もうオレの出番は終わりだ…ウッ…トイレまだぁ…?


○●○●○●


SIDE:エルザ


「――だってオレを捨てたかもしれない親のこと、今更情の欠片も抱ける気がしないしな。まぁちゃんとした理由があるのならちょっと認識が変わるかもしれないけどさ」

そう口にする人…ネロはこの教会の子と違い、先生たちが時折見せるような表情に似た笑みを浮かべて言う。
最初に、会ったときは…もしかしたらネロはなにか知っているかもしれない、なんて思ってた。
同じ髪の色をしたこの人は、同じ血が繋がった人なのかもしれない、なんて。
だって、村のみんなは同じ髪色じゃないんだもん。
村のおばさんにも「エルザちゃんは珍しい髪色しているわねぇ」なんて言われたこともある。
だからこそ、珍しい毛色のこの人なら本当のおとうさんとおかあさんのこと知ってるなんて希望を持っていたのに。
どこか、心が冷えていくような感覚を感じていく。
胸の苦しみが、大きくなっていく気がした――


「全然一緒に居てくれてねえ顔も知らねえ両親か、ずっと辛い時も嬉しいときも側にいてくれる家族、エルザはどっちが好きなんだ?」

「――――」

そして、頭からいろいろ浮かんでいく。
わたしがはじめて怪我したとき、痛い痛いと言うわたしに手当してくれる先生の悲しそうな顔が。
勉強のときに困っていたら、神父様が頭を優しく撫でてくれながら教えてくれるときの安心するような顔が。
一人遊んでいるとき、他の子供たちが家に帰るときでも、一緒に遊んでくれるみんなの楽しそうな顔が。
様々なことが頭に浮かんでいて…そして気づいた。
そっか…これは、思い出。みんなと居て感じた思い出。
本当のおとうさん、おかあさんがいなくても…こんなにも色が付いているわたしの思い出が心にあることを…”私は”確かに確信した瞬間だった。
ふと、目の前にいるネロの目が窓に向いているのに気づいて私もそっちへ目を向けたら神父様やみんなが楽しそうに笑うのを見つけた。
――――今も会ってないおとうさんやおかあさん…教会のみんな…そうか…わたしは
胸に感じていた苦しさは、いつの間にか消えていて逆に、心がポカポカしていた。
ポカポカしていくこの心を忘れないように、私は胸元まで手を持っていきギュッと思い出が逃げないように掴んだ。
わたしは…

「―――先生が、みんなが好き。わたしが、エルザが泣いているときも、困ったときも、楽しいときも一緒にいてくれるから…みんなが大好き…!」


「…そっか」

眼の前にいるネロは、さっきの笑顔と違ってみんなが浮かべるような、とても嬉しくなるような笑顔になって答えてくれる。
おとうさんやおかあさんがどんな理由でわたしをここに置いたかわからない…けど、もし会ったら”ありがとう”って言いたい。
だって、こんなにも心地が良い家族に出会えたのだから。

「―――さて、オレはトイレにでも行くかな」

「…あ、待って!」

「ん?」

ふと、ネロが…ううん、”お兄ちゃん”がドアに行こうとするを見て慌てて呼び止める。
首だけこっちへ振り向くお兄ちゃん。…もし、このお願いが駄目だったら諦めて下の名前で呼ぶしかないけど…できれば、お兄ちゃんって呼びたい。
わたしは、確かにおとうさにゃおかあさんも欲しかったけど、同じくらいに…

『――――お兄ちゃん!帰ろう!』

そう言ってお兄ちゃんだろう男の子の手を引っ張る子のことを見て、羨ましいと思ったんだ。

「お兄ちゃん…ネロお兄ちゃんって呼んでいい?」

「えっ、別にいいけど…どしたいきなり」

「…わたし、他の家のみんなが羨ましかったの。みんな親がいるから、わたしも居たらなって…。それに」
 
どう言葉にすればいいか、わからなくて。神父様に教えてもらったとおりどう言えばいいかわからないけど、それでもこのお願いも本当なんだ。
最初は、血の繋がった”お兄ちゃん”かと思った。
同じ髪の色のちょっとだけ上の男の子、だから、お兄ちゃんだって。
けどきっと違う。
わたしは絵本で読んだことのあるサイヤ人さんと違って、お兄ちゃん程たたかいとか好きじゃない。
だからお兄ちゃんはきっと血が繋がっていない。
けど…ネロは、神父様みたいで、だけど男の子で…きっと、ネロのことを”お兄ちゃん”かな、って思ったんだ。
そして――――

「…わたし、他の家のみんなが羨ましかったの。みんな親がいるから、わたしも居たらなって…。それに」

不安だ、だってもし駄目って言われたら悲しいと思うんだもん。
このお願いだけでも聞いてほしい…。
その想いで目の前のネロに――――お兄ちゃんにお願いするんだ。

「お姉ちゃん、お兄ちゃんも居たらなって思ったの。けど…教会にわたしより年上がいない…けど、ネロ…お兄ちゃんならって…だから…いい…?」

目が大きく見開きながらこっちを見るお兄ちゃん、びっくりしてるんだろうなぁ、こわいなぁ…お願い…だめかなぁ…なんて、頭に過るが――――

「…イイ、じゃなくオレで良いなら大丈夫」

「本当!?」

そう問いかければ頬を指で擦りながら少しだけ顔が赤くして笑顔を浮かべてくれた。
お願いを聞いてくれたネロお兄ちゃんに、神父様に褒められるときと同じような、嬉しい気持ちが跳ね上がるの感じる。

「じゃあじゃあ…ネロお兄ちゃん…!」

「おう、なんだエルザ」

呼んで気づいた、何も考えていなかったと。
だからどう返せばいいかな、なんて思ったけど素直に何も思い浮かべなかったが…前に先生と神父様のやり取りまで思い出した。

『貴方』

『はい、なんですか?』

『ふふっ、呼んでみただけ』

…いけるんじゃないかな!神父様も笑顔だったからネロお兄ちゃんも笑顔で返してくれるはず!
先生の真似するように、だけど嬉しい気持ちが抑えきれなくてつい笑いながら言ってしまう。


「ふふ、呼んでみただけ!!」

そういうとお兄ちゃんはさっきよりも顔が赤くなって、そして笑顔で答えてくれた。

「そうか…じゃあオレはトイレに行くな…」

「うん!ネロお兄ちゃん!行ってらっしゃい!!」

トイレへ向かうネロお兄ちゃんを送る。
嬉しい気持ちが収まらないせいか、最後までネロお兄ちゃんと呼びながら行ってらっしゃいと言ってしまったが、きっとネロお兄ちゃんなら気にしないでくれるだろう。
ネロお兄ちゃんが出ていったドアを見つめ、また窓へ向ける。
もう神父様たちの姿が見えない、だけど窓から映る夕日が綺麗で。
嬉しいという気持ちと相まって、また心がポカポカになっていく。

「…ああ、これが…幸せなんだね…」

「―――エルザ…ちゃん…」

ドアの向こうから聞き慣れた声に反応してそちらに顔を向ければ先生が立っていた。
口を抑えながらこちらを見つめる先生。
なんで口を抑えているかわからないけど、今の先生を見て伝えたいことがすぐに出てきた。

「先生!」

「っ…!なぁに…?」

そう、今までも何度も伝えたこの言葉。けれど、いつもよりも強めに、たくさんの”ありがとう”の気持ちをを込めて伝えよう。

「いつも、いつもありがとう!!大好き!」

「っっ…!エルザ…ちゃん…!」

血は繋がっていないけど、私のお父さんは、お母さんはちゃんとここにいる。
それを、お兄ちゃんに教えてもらったんだ。

…あっ、お兄ちゃんにありがとう言うの、忘れちゃった。

○●○●○●


SIDE:三人称

ネロ・ハバードにとってこの武者修行の旅は重要だ。
強くなりたい、テレビの向こうで見ていたあの人のように。
叶うことすらないと思っていた夢に、本当に近づけれる人生を手に入れた。
だからこそ諦めないし、やめるわけにいかない。
そう決意したのだ。

ローズマリー村に来て1週間、村の住民たちから徐々に受け入れらた彼は行動に出た。
初めはそのときだ。狩りを始めた翌日、夕日が沈む頃に彼は泊めてくれている教会の責任者である神父に伝えた。

「オレ、そろそろ旅を再開しようと思ってるんです」

「―――もう、ですか?まだここに居てもいいのですよ?」

惜しげにそう口にする神父に対してネロは真剣な表情で答える。
おそらく、ここでちゃんとしなければ自分はここに留まることになるだろうから。
この教会や子供たち、妹ような子と居るのは実に心地の良い時間だった。
だけど、強くなりたいのが今のネロにとって優先すべき行為だ。
別にこの村に二度と来るわけではない、永遠の別れではない。
だから、惜しげもなく行くんだ。

「次はもっと強くなって来ます」

「…そうですか、寂しくなりますね」

神父である男はこの茜色の少年がこの村に来てからの光景を思い出す。
たくさん食事をしている彼を見て驚く大人の自分と嫁と、楽しそうに笑う子供たち。
狩りから帰ってくる彼が持ってきた食肉に喜ぶみんなの姿。
お互いに共有した時間は1週間程度、しかし濃く感じられる時間だった。
これからも共に過ごしていく時間の中に、彼が居なくなるというのは寂しく感じてしまう。

「…やはり、君のその血も闘いを求めているのでしょうか。―――そのサイヤ人の血が」

神父がそう問いかけると茜色の少年―――サイヤ人の子供は頷いて答える。
その時答えていた彼は、これからが楽しみだと言わんばかりの笑み。

「そうっすね…うん、闘いも求めているだと思う。同じくらいただ強くなりたいという気持ちも」

いつからだろうか、自分が闘いを求めるようになったのは。
ネロ自身、気がついたらこのような感性になっていた。
自分を育っててくれた”親”とも言える人物に稽古をつけてくれているときも。
”闘うことが心底楽しい”という気持ちの叫びは、彼の中に大きな産声をあげていた。

 「ネロくんは、優しい子です。君ならその強くなっていく手で悪に落ちることはないと思いますが…どうか、道だけを踏み間違えないでください。解っているでしょうが、私たちは優しい君が好きなんですから」

ネロは恥ずかしげに笑みを浮かべながら、「はい」とだけ答える。
元からそう言わなくても、踏み間違えるつもりはない。
自分が強くなりたいという想いの原点は、正義の味方のように見えたあの武道家だったのだから。
戦いが好きな優しいサイヤ人に、オレもなりたいと思ったから。

「それで、いつ頃に出発を?すぐというわけでは…」

「明日です」

「…はい?」

「明日です」

「…早くない?」

「早いですね」

「…えぇ…?」

まさかすぐに行動するとは思わなんだ。そう聞こえるくらいに神父に動揺と疑問が浮かび出ていく。
それに対してネロは苦笑いして申し訳なさそうに告げていく。

「さっきの村の商人から話聞いてですね…なんか近頃、花咲く都…だっけ?そこで武道会みたいなのが出るみたいなんすよ」

「花咲く都…成る程、クロッカスですか。あそこは所々も花が咲いていますから見物に良い場所ですね。…そういえば最近、小さいながらも武道会場を造っていたという風の噂で聞いてましたが…」

「そう、そこに行こうかと。それに明日から出発しないと武道会の日程が合わないらしいんすから、できれば明日早く行きたいんです」

「……ハァ…」

何故今日その話が出ていたのか、そういえば今日子供たちにお買い物などお願いしていたが…まさかそのときに聞いたのか?…おのれ商人。
神父たる男は、心の中で愚痴るのだった。

「…とりあえず、皆が風呂入り終わってからそのことについて話をしましょうか」

「…いきなりで本当にすみません」



○●○●○●



教会のみんなが入浴し終わった頃、神父は子供たちやシスターを食堂へ集めて大切な話を始めた。
食堂にあるテーブルに人数分の席を用意し、その中央に神父とネロが座っている。
シスターは子供たちと同じ席に座っており、眠そうにしていた子供たちの相手をしている。
一方、緋色の少女はどこか不安げに自身と似た髪の色の少年を見ている。

「皆さんを集めたのは大事な話があるからです。…ネロくん」

「はい」

ネロは大きな音を出さないように立ち上がり、場にいる者たちの顔を見てから口を開く。
頬に非汗が流れているのは緊張からか。

(いや…エルザちゃん、そんな目で見ないでお兄ちゃんまで不安になるから)

不安げにネロを見ているエルザに対して何故か罪悪感を感じながら彼は言葉を並べる。

・明日クロッカスに向かうためにこの村から出て、また旅を始めること。
・また強くなったらこちらに遊びに来ること。
・本当の別れじゃないから寂しがらないでネ!

何故か下の2つを強めに口にするネロ。
チラッとエルザの方を見れば涙目。シニタクナッタ…。

「…以上です」

「ネロお兄ちゃん…明日から教会からいなくなるってこと…?」

「えぇ!?そうなの!!?」

「もう遊べないの…?」

「いや、また来たら遊ぶから!もう遊ばないわけじゃないからね!?」

「じゃあ…いつ帰ってきてくれるの…?」

エルザの質問にいつの間にか眠そうにウトウトしていた子供たちの一部は目を覚まし、凝視するようにネロを見るが彼はたちまちすぐに答える。
しかし、エルザからの猛攻撃(質問)は止まず。
それに対してネロはウッと喉から思い浮かんでいた言葉を飲み込む。
いや、一応こうなること分かっていたが…それでもこういう場面になると予想に反してしまうのは人間として当たり前のこと。
緊張の状態のまま予想通りに動くという行為は難しい。
だから、ネロは思ったことをそのまま口にすることにした。

「帰ってくる、というより遊びに来るんだろうな」

「そんな…」

それは、ここは帰ってくる場所じゃないと言うようなネロにシスターは悲しげな目になり、神父は静かにネロを見つめる。
子供たちはよく分かってない様子だが、エルザは父母として慕っている二人の様子を見て不安が強くなる。

一緒にいる時間はまだ1週間、しかし子供にとって長い時間であり、幼いエルザにとって”本当の兄”のように慕っていた人が居なくなるというのは、辛いことに変わりない。
兄は…ネロは寂しくないのか?同じ気持ちじゃないのか?と不安になるのを止まらない。

「もう―――「けど」―――?」

「けど、約束する。絶対に来るって…なんだって、オレもこの教会が好きだから」

「――――」

その笑顔は、あのときの――――

神父はネロくん、と続けて彼に伝える。
さっきの言葉は間違ってますよ、と。

「約束はちゃんと守ってもらいますが…ネロくん、”訪ねてくる”という行為は間違ってますよ」

「…神父さん」

なんとなく、ネロは言いたいことがわかった。

「”この教会に帰ってくる”――――この言葉のほうが正しい」

微笑みながらそう口にする神父は、茜色の髪を手を置いて愛しにその少年の頭を撫でる。
シスターもネロに優しげに笑みを浮かべ、その人の言う通りです、と言う。

「ここは、貴方の帰ってくる場所でもありますから」

シスターの隣に居た子供たちは未だに状況をわかりきってない、まだ3歳の子供たちであるが…そんな彼らだからこそ素直な言葉を口にすることができる。

「また帰ってきてね」

「お兄ちゃんとあそぶの、楽しい!あのおにごっこも楽しかった!」

「つぎもまた新しいあそびがしたい!」

そう次々に言う子供たちに対してネロは目を見開きながら、そして心が暖かくなるのを感じた。
確かに、強くなりたいと思う。
できることなら早く夢を叶えたいとも、焦ってしまうのもある。
強くなりたい――――そして、強くなったらみんなを守りたい、その気持ちが生まれてしまう。

「――――ネロお兄ちゃん」

躊躇い勝ちになる茜色の少年に対し緋色の少女は震声でありながら、しかしそれでも聞かなければならないことを聞く。

「また、帰ってきてくれるよね…?」

「――――うん」

気がつけば、妹に返答していた。
少女に言われたとき、もうその気持ちは完成していた。

―――強くなったら教会のみんなを、大切なみんなを守りたい

そう決意した茜色の少年―――茜色のサイヤ人は強くなる理由をもう一つ作った。
自分のため―――大切な人たちを守るために










―――――村が燃えていく様を見ながら、茜色のサイヤ人はその時のことを思い出すのだった。










○●○●○●

翌日。

ローズマリー村の昼過ぎに、一つの馬車が走る。
その後ろに中年の男性と女性、そして子供たちに見守られながら。
馬車の中にいる少年は後ろの者たちを見つめ、そして前へ振り返る。
次は強くなって、そしてみんなが誇れるような戦士になることを夢に見ながら―――――

―――――馬車が走る森の中、木の陰に一人佇んでいた。
その馬車を見つめ、その者は付いていく。
ゆっくりと、しかし決して遅くない速度に。

「…ええ、楽しみです。貴方が”帰ってくる”ことを―――――ネロ様」

妖艶な笑みを浮かべるその存在は、その赤い瞳で心待ちするように馬車を見つめて。

まだ、この物語は進み始めたばかりだ。
 
 

 
後書き
※解説です、ネタバレがちょっと有る

・教会のシスターや神父たちと子供経ち
オリキャラです。FTじゃ出てこない人たち。てか出てももう故人でしょうね。
エルザが産まれてすぐの頃、教会の扉の前に捨てられる描写があったんでそこで育てられたんじゃないかな…なんて妄想した結果こうなりました。※ネタバレ、61巻
ちなみにエルザ以外の子供たちはみんな3歳以下。…ご都合主義、こっち(タグ)まだこっちに来ないで(震声)

・もし教会じゃなかったら
ありえないかな、なんて思う。だって一般常識(学問)をFTの主人公に教えていたエルザ委員長だよ?
…えっ、クエストをしていく内に学んだ可能性ある?ギルドの人に教育してもらった?…知らね(思考放棄)

・エルザの心情
原作じゃ多分今作のようなことはなさそうだけど、なんたかこんなエルザもいていいかな、的な軽さでこうしてしまった。反省はしている。後悔?…独自解釈、タグにありますんで…ハイ

・戦闘シーン
前回でネロが森に走るとこありましたよね。…アレ、今回の話のために没になりました。本当すみません。…ネット小説は調整できて便利だなぁ…なんて思いながらめっちゃ反省しています。なんでもしますから勘弁してください(なんでもするとは言っていない)

・ネロの育ての親
ドラゴンボールの悟空の育ての親、息子の悟飯の名前の原祖である悟飯じいちゃんみたいなポジション。けど死なない…てか寿命とかあるのか…って人です(※今作のネタバレ)
ちなみに前作の(旧)に一応出てましたけど、分かる人いるかな…?

★☆次回予告☆★

ハバネロ「よっすよっす」
妖精女王(幼)「よっすよっす!」
ハバネロ「ついに投稿…いやもうしないかと思ったぜ」
妖精女王(幼)「実はこの作品をエタって別の作品を始めようとしてたみたいだよ?」
ハバネロ「…えっうっそだろ。今度こそ完結するとか言ってなかったか?あの貝殻」
妖精女王(幼)「うん、けど最近なんか…ゲーム…?である作品をやってて、それを私たち(FAIRY TAIL)でクロスオーバーでも始めてこの作品を忘れようとしてたとか」
ハバネロ「あいつ…自分から言っておいてやめようとしてたのか…よく持ち直したな」
妖精女王(幼)「ねー、まぁ…結局あの人もそっち(DB)が好きだからやめれなかったんじゃないかな」
ハバネロ「そうかぁ…?っと、1000文字になる前に行くぞ、エルザ!」
妖精女王(幼)「うん!ネロお兄ちゃん!」

「「次回!妖精のサイヤ人!!」」

「第三話 クロッカスの武道会!強くなるチャンス!!」

ハバネロ「また見てくださいね」
妖精女王(幼)「またね!」


…1000文字超えてますよ(ボソッ) 
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