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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第6章:束の間の期間
  第194話「合間の出来事・前」

 
前書き
ちょっと前回と対比になるかも?(登場キャラ的な意味で)
転生に関わる神は地球上の神と違って単位が“柱”ではなく“人”になっています(特に意味はない)。 

 






       =out side=







「……未だに進展なし……か」

 神の二人が現れてから数日。
 状況に一切進展はなかった。

「私達もあまり身動きが取れないというのも影響してるわね」

 現れた二人は目覚めず、揺れに関しても何も判明しない。
 慌ただしさだけは落ち着き、何も分からないまま数日が過ぎていた。

「でも、少しは落ち着いたからか、身動きもしやすくなったよ?」

「そうね。でも、大きく動くのはクロノ達が戻ってきてからでしょうね」

 現在、優輝達は片手間で魔力や霊力の精密操作を向上させながら普通に生活していた。
 優輝達だけでなく、司達や、新たに方法を教わった優輝の両親もやっていたりする。
 “脅威”に備えようとしても、監視の目がある今は特訓もできない。
 そのため、片手間でも出来る効果的な能力向上だけ行っていた。

「鈴さんとは?」

「霊脈の調査も行き詰ったようね。“揺れ”が二度起きた今、不用意に活用する訳にもいかないし、本家預かりの身になっている他の式姫達の下に行ったみたいよ」

「そうか」

 優輝が鈴の行方を椿に尋ねる。
 八束神社の霊脈を調査していた鈴は、既に海鳴の地から離れていた。
 一応、調査結果は那美や椿が持っているため、鈴抜きでも調査の続きや霊脈の利用が可能になっているが、現状それをするべきではないと結論づけられている。

「……多少のリスクを覚悟するなら動けるぞ」

「ダメだよ」

「やめなさい」

 動こうと思えば動けると発言する優輝。
 だが、即座に椿と葵から制止の声が入る。

「リスク度外視は危険過ぎるよ」

「感情がない今の貴方だと、何をやらかすか分かったものじゃないわ」

 一切の解明がされていない今、藪をつついて蛇を出すような事はしたくない。
 そんな思いで椿と葵は優輝を引き留めた。

〈マスター。クロノ様から通信です〉

「繋げてくれ」

 その時、リヒトにクロノからの通信が入った。

『直接通信するのは久しぶりだな』

「そうだな。……用件は?」

『聞いておきたい事が二つと報告が一つだ』

 手短にやり取りし、すぐに本題に入る。

『まず、報告だ。原因不明の“揺れ”に関してだが、地上本部はあまり重く見ていないようだ。代わりに本局の方が慌ただしくなっている。ユーノに情報収集を任せているものの、未だに有用な情報はない』

「……そうか」

 地上本部は次元震の亜種程度の認識しかなく、完全に本局に任せきりだった。
 代わりに、本局の方は次元震と似て非なるものだと理解しており、それ故に原因究明のために慌ただしく局員が動いていた。
 なお、本局と地上本部は仲が悪い事もあって、事の重大さは本局から地上本部へと伝わっていない。

「聞きたい事は?」

『一つ目は報告に関係する事だ。……そっちでは“揺れ”に関して何かわかっていないか?何か変化があったなど……』

「……一つある。二度目の“揺れ”の時だ」

 情報がないか、クロノが問う。
 それに対し、優輝は現れた二人について話した。
 ただし、神だという事は伏せておいた。

「現在も眠ったままだ。どうやら、外傷以外にも目覚めない要因があるようだ。解析が出来ないため、それが何かわからないがな。政府機関も無闇に手を出してこない」

『……目が覚めない事には、進展しない……か』

 実は、政府機関は既に件の二人を調査しようとした。
 しかし、調査のために来た時点で、運び出す事すら出来なかったのだ。
 そのため、諦めて志導家に置いたままになっている。

『わかった。些細な変化でもそこから何か分かるかもしれないからな。情報提供感謝する』

「ああ。……二つ目は?」

 クロノが聞きたい事は二つ。
 その二つ目が何なのか、優輝は聞く。

『先に言った二つと比べ、最優先事項と言う程でもない。……僕らが一度ミッドチルダに帰る時に言っていた殉職者達の葬儀についてだ』

「……!」

 その言葉に、椿や葵が先に反応する。

『葬儀自体はまだ先だが、君達が来るのであればこちらと行き来する許可が必要だからな。こちらでの渡航許可は既にあるから、後は地球の政府機関に許可を貰ってほしい』

「……分かった」

 行かないと言う理由はない。
 そのために、行くという旨で優輝はそう言った。

『話は終わりだ。僕も忙しいから、もう通信を切るぞ』

「ああ」

 通信が切れる。
 同時に、周囲に漂わせておいた障害物用の魔力弾を瞬時に全て破壊した。
 元々、精密操作のために、多数の魔力弾を操作していたのだ。
 そして、行動するために、最後に障害物用の魔力弾を破壊したという訳だ。

「聞いていた通りだ。人数は……僕ら三人だけでいいだろう」

「了解。伝えてくるねー」

 葵に、政府の人達に許可を取ってくるように言う。

「椿は霊術が使えるアリシア達に連絡を。魔導師でもある他は僕から伝えておこう。内容としては“葬儀のためにミッドチルダに行く”ぐらいでいい」

「分かったわ」

 その間に優輝と椿で、司達に一度ミッドチルダに行く事を伝えておく。

「まぁ、実際に行くのは数日後だな」



















「お兄ちゃん………」

 ミッドチルダ。そこに存在するとある家で、一人の少女が留守番をしていた。

「……」

 少女の名はティアナ。……ティーダの妹だ。

「(……お願い、無事に帰ってきて……)」

 何週間と家に帰ってこない兄を心配して、ティアナは心細くなっていた。
 地球で起きた出来事は、例えミッドチルダに伝わったとしても、大々的に知られる事はあまりない。

「(……お願い……!)」

 それ故に、ティアナは地球で起きた事を知らない。

「……あっ……!」

 その時、家にあるインターホンが鳴る。
 ティアナはその音を聞いて、つい期待して玄関へと向かう。
 ……兄が帰って来たのだと思って。

「っ……!あ……」

 だが、玄関を開けた先にいたのは、兄であるティーダではなかった。
 そこにいたのは、優輝達だった。

「貴方達は……」

「……言いにくい事だけど、伝える事があるわ」

 ……知らされず、不安になっていた。
 だからこそ、椿が語ったその内容は、ティアナを絶望させるのは必然だった。







「………」

 優輝達がミッドチルダに着いたのは、葬儀の二日前。
 殉職者を一斉に弔うためと、文化が違うため、日本の様式とは細かい所が違う。
 だとしても、ティアナに伝わらなかったのには、一つ理由があった。

「一応の知り合いであり、一番年が近い事もあって、私達が貴女の家に伝えに来たの」

 その訳は、偏に異常事態が続いているからだった。
 ティーダ以外にも殉職した者もおり、様々な対処に追われて手が回らなかったのだ。

「……そう、ですか……」

 溢れ出る感情を抑えつけたような声で、ティアナは椿の話に相槌を打つ。

「椿、葵」

「何かしら?」

「何かな?」

「……任せる」

 そんな様子のティアナを見て、優輝は椿と葵に事の成り行きを任せる。

「分かったわ」

 感情を失っている優輝では、どう声を掛ければいいか分からない。
 いや、わかったつもりで言葉を掛けて、さらに心を抉るかもしれない。
 そう考えて、椿と葵に任せたのだ。

「……一旦、上がってもいいかしら?」

「……どうぞ。大したおもてなしは、出来ませんけど」

「お茶くらいなら、自分で淹れるから構わないわ」

 まずは家に上がる。
 さすがに玄関先で話を続ける訳にもいかないからだ。





「……すみません。本来なら、私がすべき事なのに……」

「いいのいいの。優ちゃんなんか手持無沙汰になっちゃうから、むしろやらせといた方がいいんだよ」

 “客にお茶の用意をさせる訳には”と言うティアナを押し切り、椿と優輝で用意する。
 葵がティアナを椅子に座らせ、椿も優輝に指示し終わったのか対面に座る。

「あ、あの……」

「気にしないで」

 ティアナの隣には葵が座り、対面じゃない事を少し気にする。

「とりあえずは、これからの事について軽く話すわ」

 椿がそう切り出して、これからの事を話す。
 葬儀をどうしていくかや、その後のティアナの暮らしはどうなるかなど。
 分かりやすく噛み砕いた形で、椿はティアナに伝える。

「―――以上が、これからについて、軽く説明したけど……質問はあるかしら?」

「……いえ……」

 一通り説明し終わり、そのタイミングで優輝が沸かし終わったお茶を淹れる。

「……葬儀に関して以外で、何か聞きたい事とかは?」

「あの……いえ、特には……」

 俯き、何かを言おうとしても引っ込めるティアナ。
 優輝が淹れたお茶を飲みはするのだが、明らかに思い詰めていた。

「ティアナ……と言ったわよね?」

「は、はい……」

「今、霊術……魔法とは違う技術で周りには音が聞こえないようになっているわ」

「は、はぁ……?」

 唐突な切り出しに、ティアナはどういう事なのか理解できずに首を傾げる。

「……だから、これ以上背負い込まないで。悲しかったら、泣いていいんだよ?」

「ぇ……」

 葵のその言葉に、ティアナは息が止まったのかと錯覚した。
 ティアナにとって、隠していたつもりの感情が見抜かれていたからだ。

「……ぁ……」

 押し留めていた事を見抜かれて、その感情を抑えていた“蓋”に穴が開いたのだろう。
 まるでそこから決壊していくように、ティアナの目から涙が溢れてきた。

「……ぅ……ぁ、ぁあああああああああああああああああ!!!」

 一度決壊したものは、簡単には戻らない。
 今までの不安と、真実を知った時の絶望が溢れ、ティアナは大声で泣いた。

「(前世から記憶を引き継いで精神が成熟している優輝と違って、彼女は本当にただの子供。……大事な家族を喪った悲しみは心への負担が大きいでしょうね)」

「(……辛いのに、それを抑え込もうとするなんて、本当に強い子だよね)」

 泣くティアナを、葵が優しく抱き留める。
 優輝達は、元々ティアナに今回の事を伝えたら大きなショックを受けるだろうと予測していた。そのため、一番優しく受け止められる葵が隣に座っていたのだ。

「(存分に泣きなさい。疲れ果てて眠ってしまうまで。……私達は、貴女に付き合うわ)」

 慰めの言葉を掛ける事もなく、ただただ寄り添う。
 下手に慰めるよりもこちらの方がティアナにとっていいからだ。







「すみません……人前で……」

「いいのよ。下手に我慢されるよりはね」

 しばらくして、ようやくティアナは落ち着いた。
 涙の後は残り、未だに悲しみは残るものの、会話出来るぐらいには落ち着いた。

「……お兄ちゃんは……兄は、立派でしたか……?」

「……ええ。実際に立ち会った訳じゃないけど、本当に立派だったわ。決して勝てないと分かっても、それでも生き、足掻こうとした」

「記録には映像と声しか残っていないけど、きっと君のために生き延びようとしたんだと思うよ」

 これは慰めからの言葉ではない。
 椿も葵も本心からそう言っていた。

「……何よりも、彼のおかげで敵に大きな傷を負わせることが出来た」

「兄のおかげで……?」

「命を投げうってでも撃ち込んだ術式が後の戦いでも残っていたの。……それに気付いた優輝が、彼のデバイスを使って術式を発動させたのよ」

 ティーダがいたからこそ、守護者を追い詰められたと椿は言う。
 事件の詳細を知らないティアナだが、兄の働きは無駄ではなかったのだと理解した。

「そう、ですか……」

「……っと、忘れる所だったわ。優輝」

「ん?ああ、これだな」

 椿が優輝に呼びかけ、優輝は懐からあるものを取り出す。

「これは……デバイス、ですか?」

「ああ。……ティーダさんの、な」

「ッ……!」

 それは銃型のデバイス。“ミラージュガン”。
 ティーダの使っていたデバイスだ。

「戦闘で借りたが、壊れる羽目にならず済んだ」

「形見、と言う事になるわ。どう扱うかは、貴女の自由よ」

 テーブルの上に出されたそれを、ティアナは恐る恐ると言った様子で持つ。
 “形見”。自身の兄が遺したもの。そう思って、ティアナは胸元に持ってくる。

「……ありがとうございます」

「お礼なんて構わないわ。貴女はまだ子供。……誰かを頼るのは普通の事だもの。だから、辛い時はちゃんと周りを頼りなさい」

 それでも感謝の思いは収まらない。
 そんな様子で、ティアナはまた頬を涙で濡らした。











 ……数日後。
 予定通りに葬儀は行われた。
 魔法関係の事件に関わるため、殉職者が比較的多い管理局員の埋葬は、日本と違ってそこまで仰々しく行われない。
 それでも、殉職した人達の家族や知り合いが多く集まり、大きな規模になっていた。

「……本来ならこの何倍もの人が死んだ……のですよね……?」

「ええ。現地の一般市民、こちらで言う魔導師のように力を持った存在である退魔師を合わせれば、この五倍の人数には届くわ」

「そんなに……」

 だが、その人数も実際に出た死者の数に比べれば一部に過ぎない。
 ティアナは事情を聞いていたものの、それほどの数の人が死んだ事に驚いていた。

「……あたし達も、一歩間違えればここにはいなかったよ」

「そこまで、危険な事件だったんですか……」

 椿と葵に至っては、再召喚がなければ死んでいた扱いになるほどだ。
 優輝もボロボロになり、感情を代償にしなければ守護者には勝てなかった。
 ……振り返れば、振り返るほどに、ギリギリの戦いだったのだ。

「ロストロギアによる、災厄の再現……と聞きましたけど……」

「それによって出現した敵が強すぎたのよ。詳しくは、あまり話せないけどね……」

「危険さを表現するならば、魔導師ランクがAA以上の者を10人以上で対処させても手に負えない程だな。中には、AAAランクもいたのに関わらず、だ」

 それは、魔法世界の住人にとってどれほど“やばい”と思わせるのか。
 Aランクの魔導師で優秀と言われる程だ。それ以上の人材が10人以上で歯が立たない。
 しかも、司に至ってはジュエルシード使用時は実際に測っていないとはいえ、SSSランクを超えると断定できる程なのだ。
 ……それが、歯が立たなかった。

「……正直、信じられないです」

「まぁ、嘘か悪夢としか思えないだろうな」

「問題なのは、それを成した敵がたった一人な事なんだよねー……」

「――――――」

 続けられた葵の言葉に、ティアナはさらに言葉を失った。
 ただでさえ、優秀な人達が束になって敵わなかったというのに、その敵は複数ではなく、たった一人なのだ。
 まるで、雲の上の存在かのようにしか思えなかった。

「……そんな存在、どうやって倒したと言うんですか……!?」

 その言葉は、至極当然の質問だった。

「“質”が足りないのなら、“量”で補う……。現地協力者と共同して、総力戦よ。最大戦力をぶつけるしかなかったの」

「…………」

 ティアナにとって、優輝達から聞いた事件の印象はそこまで大したものではなかった。
 偶々ロストロギアが管理外世界で起動し、災厄が呼び起こされた。
 そんな印象でしかなかったのだ。
 だが、その実態はS級ロストロギアと言える程危険な事件だったのだ。
 言葉を失うのも当然だった。

「上手く連戦に持ち込んで疲弊させたのも大きかったな。徐々に戦力差を縮めて、こちらも諦めずに戦い続け……ようやく、だ」

「……それほどまで……」

 守護者と戦い続けた者から死人が出なかったのは、奇跡に等しかった。
 しかも、この場では明かしていないものの、結局倒しきれなかったのだ。
 




「―――む……?」

 その時、優輝が何かに気付いたように顔を他所に向けた。
 ……もし、この時優輝が顔を向けなかったら、ティアナが“その言葉”を聞く事はなかったのかもしれない。

「どうしたんですか?」

 ティアナが疑問に思って、同じ方向を見る。椿と葵も同じくそちらを向いた。
 そこには、小太りの男性がいた。
 身に付けている管理局の紋章から、ティーダよりも上の階級なのがすぐ分かった。

「ッ、まずっ……!」

 耳のいい椿が、その男性が言っている言葉をいち早く聞き取り、慌てる。
 すなわち、ティアナには聞かせるべきではないと。耳を塞ごうとして……。

「―――犯罪者を管理外世界に逃しただけでなく、その犯罪者共々死ぬとは局員として有るまじき失態だ!まったく、こんな“無能”が部下だったとはな。嘆きたくなる」

 間に合わず、ティアナの耳に“その言葉”が入った。

「……ぇ……」

 “無能”。その言葉が、ティアナに聞こえてきた。
 誰の事を言っているのか、理性が理解するのを拒もうとした。
 だが、その前の言葉が、嫌でもティーダの事を指していると理解させられた。

「………」

 心無い言葉に、ティアナはティーダが死んだ時以上のショックを受けた。
 あの兄が、大好きな兄が、無能だと言われたのだ。
 話に聞くエース・オブ・エースのような才能持ちにも負けないように、ずっと努力して、管理局員として正しくあろうとした兄を、侮辱された。
 ……その事実が、ティアナの心に深く突き刺さった。

「首都航空隊の魔導師であるならば、死んでも任務を遂行するのが当たり前だろう!だというのに、あの若造は……!」

 ティーダに対する男の侮辱は続く。
 それもティアナの耳に入り、悔しさで視界を涙で滲ませる。
 男の傍に他の部下もいたが、どうやら逆らえないようで、口出し出来ていなかった。

「ッ……この……!!」

 椿が怒りを爆発させようとした、その時。
 ……その椿よりも先に、葵がその男に近づいた。

「……ねー?」

「ん?」

 笑顔で、自然体で、葵は男に声を掛けた。

「……もう一回言ってみなよ。誰が、“無能”だって?」

 そして、次の瞬間。
 笑顔のまま、放つ言葉に殺気が込められた。

「な、何だお前は!?」

「貴方の部下だったティーダ・ランスターの知り合いだよ。で、誰が“無能”なのかな?」

「(……なるほど。今の椿は神としての側面も持つ。だから……)」

 葵が先に接触したのは、椿の怒りをこの場で出す訳にはいかなかったからだ。
 葬儀自体は終わったとはいえ、未だに人が集まっている。
 そんな場で椿の怒りが爆発すれば、文字通り雷が落ちて大変な事になってしまう。
 その怒りを落ち着かせるために、先に葵が前に出たのだ。

「ふん。あの無能の知り合いか。あいつと同じく低能らしい面構えだ」

「うん?鏡でも見て言ってるのかな?あたしにはそう聞こえたけど」

「なっ……!?」

 煽る。むしろお前こそが無能だと、笑顔のまま葵は言った。

「ねぇ、彼のどこが“無能”なのかな?次元転送で逃げようとした次元犯罪者を追いかけ、最後の最期まで足掻いた彼の、どこが“無能”なの?」

「ふ、ふん!それで無様に死んでいる事そのものが“無能”だと言っているのだ!」

 注目が集まってくる。
 だが、もう止まらないのか、男は主張を止めない。
 その様子に、優輝も葵の横に並び立った。
 椿は二人の行動を見て一旦落ち着き、ティアナに寄り添ってあげていた。

「AAランク3人、AAAランク4人、Sランク4人、SSランク2人、SSSランク1人。魔導師ではない現地協力者は推定になるが、AAランク2人、AAAランク1人、SSランク1人だ」

「な、なんだお前は急に……!」

 突然の優輝の言葉に、男も戸惑いを見せる。

「……今回の事件で現れた災厄。それに対して一斉に戦い、一撃もまともに当てる事ができずに敗北した者達の強さだ」

 そして、続けられた言葉に聞いていた周りの者達は戦慄した。
 かなり優秀だと言われる者がそれだけの数集まり、敗北したのだ。
 それも、善戦した訳でもなく、圧倒的差で。
 その事実は、その場に集まっている者達にとって衝撃だった。
 一応、中にはその事実を知っている者もおり、その者達は驚いていなかったが。

「他にも条件付きでSSSオーバーの魔導師2人や、瞬間的な速さは同じくSSSランクに迫る魔導師、強力なレアスキル持ちのSSランク魔導師、全員が陸戦AAランクはあると思われる魔導師ではない現地協力者10名。……そんな戦力を連続でぶつけても倒しきれなかった」

「な、なにが言いたい!」

 さらに衝撃的な事実が露呈したが、男は先に何が言いたいのか問うた。

「……そんな敵に対し、たった一人で、お前が“無能”だと言った男は、傷を負わせ、後に致命傷とも言える布石を残したぞ?」

 顔を赤くして激昂していた男は、その言葉で固まった。

「“超”が付けられる程優秀な魔導師が10人以上でも敵わなかった相手に、たった一人で、死ぬと分かっていながらも必死に足掻き、一撃と致命傷に繋がる布石を残した。……これだけやって“無能”呼ばわりか。……随分とハードルが高いな?」

「な……ぁ……そ、そんな事実があるはずがない!!」

「認めないのは勝手だが、事実には変わりない」

 アースラからの監視映像には、瘴気の影響で記録には残っていない。
 しかし、実際に戦った者達のデバイスには映像が残っている。
 ティーダの最期も記録されており、既にそれらはクロノ達が複製してある。
 ……この男がどれだけ否定しようと、証拠は残っていた。

「死を覚悟し、その上で最後まで足掻き、無意味に終わらせようとしない。……それらを成すその勇気、その覚悟が一体どれほどのものなのか、貴方にはわからないだろうね」

 必死に否定しようとする男に向かい、葵は“だって”と続け……



   ―――お前は、“死”の恐怖を知らないからね



「……っ、ぁ……!?」

 葵の殺気に中てられ、男は体を震わせ、何も言えなくなる。

「今回の事件における彼の行動と活躍は、事件の担当となった提督や執務官もしっかりと取り上げている。お前が何と言おうと、彼の“死”は栄誉あるものとして語られるよ」

 決して無意味ではない。意味があった。
 そう、葵は断言する。優輝と椿の想いも代弁して。

「……ううん、彼だけじゃない。他の殉職した人達も、管理外世界の見ず知らずの人のために戦った。……その事を侮辱するのは、その世界の一員として、許さない」

 本来であれば、立場の関係上葵が真っ向から対立するのは得策ではない。
 ただティーダと縁があるだけの嘱託魔導師だ。権力の差と言うのもある。

「ッ、ふん!たかが管理外世界の魔法を知っただけの小娘が口にした所で……!」

 故に、男も意地を張るように見下すような言い方を止めなかった。

「―――そこまでですよ」

 事実を言った所で、権力で威張っている相手は止まらない。
 止められるとしたら、同等以上の権力を持つ者の介入が必要だ。
 ……そして、その存在が今、そこに現れた。

「一部始終、見させてもらいましたよ」

「ほ、本局統幕議長!?」

 かつて管理局黎明期を支えた“伝説の三提督”の一人。
 本局統幕議長ミゼット・クローベルが、そこにいた。









 
 

 
後書き
情報が少ないのでミゼットさんの口調が分からない(´・ω・`)
一応、他の二次創作を見た限り、お婆ちゃんっぽい物腰柔らかい口調みたいですけど。
なので、相手の立場が下だとしても、丁寧な口調を崩さないだろうと思い、今回はこんな口調になりました。プライベート等ではまんま“人のいいお婆ちゃん”的な口調です。

ちなみに、守護者と戦ったメンバーの魔導師ランクが公式での魔導師ランクと違いますが、優輝達やオリ展開の影響で原作よりも高くなっています。一部は未測定だったり推定ですが。

長くなったので、前後編に分けました。 
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