前世の知識があるベル君が竜具で頑張る話
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りーんかーねーしょん
「………………………………ブレイバー」
リリが顔を向けた先には、勇者フィン・ディムナが座っていた。
ベッド脇の椅子に腰掛け、本を読んでいる。
「気分はどうだい?」
リリが体をおこす。
「私は…大丈夫です。それよりもベル様は…ベル様は無事ですか?」
それを聞くと、フィンはクスクスと笑いだした。
「無事だよ。まぁ、無茶した件についてはリヴェリアに叱られたけど、傷一つないよ。家の主神がベルを気に入っていてね、エリクサーの希釈溶液まで持ち出していたよ」
「そうですか…よかったです…」
リリの体からふっと力が抜ける。
「うん…合格…かな」
「え?」
リリが眠っている間に、ベルと幹部陣とロキの間で決まった事を、せつめいする。
「リリルカ・アーデ。僕達の主神はベルを危ない目に合わせた君に怒り心頭だ。だが、そこにベルとリヴェリアが待ったをかけた」
「ベル様とナインヘルがですか?」
「うん。ソーマから解放された君の今後だ」
「待ってください! ソーマ様から解放!?」
リリが身を乗り出す。
「ああ。君は既にソーマファミリアではない。今はファルナも失っている」
「そんなバカな!?」
「うん。僕もそう思うよ。でも事実だ」
リリが背中に意識を集めるが、何の感覚もない。
「ベルは君をロキファミリアに入れたがってたけど、ロキが認めなかった」
「わかっています…」
「そこでベルが出した案がある。君を信用できる神に預け、その上でこれからも君をサポーターとして雇う」
「………ベル様が、そう言ったのですか?」
「ああ。そうだよ」
リリが拳を握りしめる。
「あのお人好しは本当に…………っ!」
「はは君に言われたらおしまいだね」
フィンが席を立つ。
「では、僕は行くよ」
カツカツと歩いていき、部屋のドアを閉める寸前。
「ベルを頼んだ」
「はい…」
「さーて。これからリリの新しい人生の始まりだよ!」
ベルがリリと共に黄昏の館を後にする。
「ベル様。いいんですか? 私をサポーターなんかにしてて」
「うん? 可愛い女の子と冒険できて僕は幸せだけど?」
「スケベ。スケコマシ。タラシ。ヘンタイ」
「あのーリリルカさん? 僕にキツくない?」
リリがプイッと顔を背ける。
「ところで私をソーマ様から解放したとおっしゃいましたが、どうやったのですか?」
「ん? お金とお酒の知識に関する本を渡したら脱退は即答でOKされたよ。そのあとはデュラ…うん。ここからは秘密」
「な!?」
「そのあとソーマ飲んだけど、たぶんおいしかった」
「たぶん?」
「酔っぱらっててよく覚えてないんだよね。坑毒ポーション飲んでたけど、じわじわ酔ってきちゃってさ」
「へ、へー……」
リリがベルをいぶかしむように見る。
「そんなに心配しなくても、ソーマの虜になんてなってないよ」
ベルが向かった先は、メインストリートに面する売店だ。
「ヘスティアさまー。カスタード二つくださーい」
「はいはいカスタード二つね」
ベルが60ヴァリス渡し、ジャガ丸君を受けとる。
「はい」
と片方をリリに渡した。
「ありがとうございます」
「そういえばベル君。君見るたびに違う人といるんだね」
「そんな事言ってると、初めての眷属ができるチャンスを失いますよ」
「へぇー? いうじゃないか」
ベルがリリの肩に手を乗せる。
「ヘスティア様。この子をヘスティア様の眷属にしてやってください」
店番を放り出したヘスティアが二人を連れてきたのは、本屋だった。
店主に言って、二階へあがる。
「どうだい? ここは? いい場所だろう?」
ベルが本棚にある本の背表紙を指でなぞる。
「すごい…英雄譚がこんなに…」
「そうここは物語に満ちている。ファミリア・ミィスの最初の一ページを書き出すには、これほどいい場所もない。
そう思うだろう?ベル君、リリ君」
「ええ…ヘスティア様の言うとおりですよ。この中に、いつかリリの物語が入るかもしれませんね」
「その物語はきっとおっちょこちょいな冒険者とサポーターの喜劇ですね」
リリが冗談めかして言った。
「さぁ、そこに横になってくれ。ファルナを…物語の一ページ目を刻み込もう」
「じゃぁ僕は出てますね」
ベルが出ていこうとした時、リリがベルの袖を握った。
「貴方が居なくてどうするんですかベル様」
「え…? でもステータスの更新って……脱ぐよね?」
「気にしませんよ。ベル様女っぽいですし」
「ぅうっ……!」
「ああ、もう。そんな捨てられた兎みたいな顔しないでください」
「ほうほう…」
「何がほうほうなのですかヘスティア様」
「いやー? べつにー?」
リリが服を脱ぎ始める。
ベルが顔を赤くして顔を背ける。
「なんですか。私の貧相な体は見るに耐えませんか」
「そうじゃなくてっ…! もうっ! からかわないでよリリ!」
「ベル様が弄って欲しそうにしてるのがわるいんですよ」
「そんな顔してなっ……ぴゅあぁっ!?」
思わずリリの方を向いて直ぐ様顔をそらす。
「なぁ君たち。夫婦漫才なら後でやっておくれよ」
「ええ。そうします」
リリがうつ伏せになる。
その上にヘスティアがまたがると、己の指を針で挿した。
リリの白い背中にポタリと赤い雫が落ちる。
イコル。全ての神秘の根元。
物語を綴るインク。
リリの背に、篝火を模したエンブレムが現れる。
「ふむふむ……なるほど…?」
浮き上がるヒエログリフ。
ヘスティアがその数値に触れては書き換える。
「よし…終わったよ」
ヘスティアがそう言うと、ヒエログリフがかき消えた。
パチパチパチパチ…とベルが拍手を贈る。
「おめでとう。リリ。これで君は自由だ」
その頃、ソーマは手渡された冊子の最後のページを眺めていた。
「生意気な子供も居た物だ」
ソーマが空を仰ぎ、ため息をついた。
冊子の最後には、こう書かれていた。
【貴方の作る酒は偽物だ。所詮人の手で作った神の酒のレプリカでしかない。
しかしそれ故に神の力で作った酒よりも価値がある。
その偽物が本物と同等ならば、本物になろうという意志の分だけ偽物には本物より重みがある。
きっと貴方の酒は、貴方が天界で作っていた酒よりも、その意志の重さだけ価値がある。】
酒の神が、僅かに微笑んだ。
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