前世の知識があるベル君が竜具で頑張る話
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さよなら
黄昏の館の食堂。
その入り口にはボコボコにされたラウル・ノールドが縛られて放置されていた。
だがそれを可哀想と思う奴はいなかった。
何故か?
それは100%ラウル悪くてこうなっているからだ。
朝っぱらから質の悪いジョークを叫び、幹部にボコボコにされたのだ。
「あのー…放っておいても…?」
訂正。ラウルを心配するお人好しが約一名。
「知るか」
「えぇ…」
ベートの手がベルの頭に伸びる。
「ぁう…?」
「昨日。なんであんな夜中にあんなことしてた」
「言えません」
「そか」
黙々と朝食を食べる。
「今日もダンジョン行くのか」
「はい」
「夜もか」
「はい」
「…………………気をつけろよ」
「はい」
ベートがくしゃくしゃとベルの髪をかき回す。
「ぁうぁうぁう…………」
その様子を見ていた数名の団員。
「ベートさんが……デレた…!?」
「あのベートさんが…!?」
「ベルすげぇ……」
「マズイわ! ベートさんまで攻略されたらロキファミリアが乗っ取られちゃう!」
「たいへんだ!」
「ベルを倒さねば!」
と騒ぎたい放題だ。
ロキファミリアの入団条件はロキが気に入ること。
大まかな要因は二つ。
容姿は勿論だが、何よりも大切なのは、ノリだ。
ロキのノリについてこられるかが重要となる。
と、まぁ、そんな基準で選ばれた面子はお祭り好きが多い。
「あのー。ベートさん。アレって構わないとダメですか?」
「…………………無視しろ。忙しいんだろうが」
「ええ。まだまだ目標には遠いですから」
そうこうしながら3日が過ぎた。
ベルとリリのタッグは、朝早くから昼過ぎまでを活動時間とし、毎日万単位の稼ぎをあげていた。
そして、ベルは毎晩のように中層でモンスターを狩っていた。
他の冒険者が聞けばズルだと、神が聞けばチートだと言うような方法で。
「エザンディス。便利使いしてごめん。でも、助けたい人がいるんだ」
そして、4日目の朝。
仮眠を取ったベルがバベルへ向かった。
「おい。嬢ちゃん。あんた最近アーデと組んでるだろ」
ベルに話しかける男がいた。
「ええ。そうですが何か」
「あのパルゥム。盗人だぞ」
「パルゥム? 僕が組んでるのはシアンスロープですよ」
ベルがそう言うと、男は嘲るように言った。
「はっ! そう思うのはテメェの勝手だせいぜい騙されていな」
嘲笑う男を、ベルは嘲笑う。
「それよりお前。俺と組んであのパルゥムをハメねぇか?」
「お断りします」
ベルが即答する。
「腹が減ったからと金の卵を産む鶏を絞め殺そうとは…。貴方には学がないんですね。そんな空っぽの頭でよくもまぁその年までダンジョンで生きられた物だ」
ベルの口からはそんなセリフがスラスラと流れた。
「このっ……クソガキィ…!」
男が剣を抜き、ベルに斬りかかる。
ベルに剣が当たる寸前。
ガキィン! と甲高い音が響いた。
続いてカンッ!カランッ! と何かが落ちた音。
落ちたのはキラリと光る鋒。
男の剣は中程から叩き折られていた。
「失せろ。僕達に手を出すな」
ベルが音の首にアリファールの鋒を突きつける。
男が後退りする。
「これは警告だ。もしも僕達に何かしよう物なら、骨まで残さず燃やす」
小さな少女が持つ気迫に押される。
男は舌打ちすると、折れた剣を鞘に入れ、踵を返した。
ベルがアリファールを鞘に戻すと、キン…と翼が閉じた。
「ありがとう。アリファール」
ふわりとつむじ風がベルの頬を撫でた。
ベルが噴水に腰掛け、五分程待つとリリが来た。
「お早う。リリ」
「お早うございますベル様………。なんだかやつれていませんか?」
「少し寝不足なんだ。今日辺りリヴェリアさんが帰って来るから課題をやっとかないといけないんだけど、最近やってなくてさ」
「はぁ…なるほど…。今日は探索やめておきますか?」
「いや。いいよ。大丈夫」
ベルが立ち上がる。
何時ものワンピースと鎧を組み合わせたドレスアーマーだ。
ベルが歩き出す。
その後ろをついていくリリの視線は、ベルが腰の後ろでに互い違いに並べた短剣に注がれていた。
「リリ。今日は早めに帰りたいから、中層には行かないよ」
「はい。わかりました」
二人がバベルの階段を下っていると、周囲でひそひそと話す声がした。
「僕がリヴェリアさんと団長の子供とかあるはずないのになー」
ダンジョン内部に入ると、ベルが面白そうに言った。
「子供、ではなく娘、ですよベル様」
「僕は男だよ」
ぷぅ、と頬を膨らませるベル。
リリが面白がってつつくと、プシュッと空気が抜けた。
「ベル様が男性だなんて信じられませんね。頬っぺたモチモチじゃないですか」
「うーん…なんでだろうね…。特に何かしてるわけじゃないんだけど…」
「今全世界の女性を敵に回しましたよ貴方」
「うん…そうだね…」
10階層。
霧が立ち込めるその場所で、ベルはオークと戦っていた。
早く速く正確な一撃がオークの首を跳ねる。
途中インファントドラゴンやウォーシャドウの群れやインプの群れと戦った。
そしてベルが気付いた時には、リリが居なくなっていた。
「リリっ!? どこっ!?」
ベルがキョロキョロと周囲を見渡すが、霧と背の高い草が邪魔をして、リリの姿をとらえられない。
代わりに、トラップアイテムを見つけた。
モンスターをおびき寄せる物だ。
「……今日……なんだね」
カァン!
ベルは腰に衝撃を感じた。
刹那、後ろにグイと引っ張られ、腰から何かが外れた。
ベルが目を向けると、バルグレンを互い違いに挿したホルスターが宙を舞っている。
ピアノ線のついた鏃がホルスターに刺さっていた。
そのホルスターの向かった先に、リリを見つける。
「ベル様は、もう少し人を疑う事を覚えた方がよろしいかと」
リリがホルスターごと双短剣を懐に入れた。
そして寂しそうな、後悔するような笑顔を浮かべている。
「さようなら。もう会うことは無いでしょう」
ベルが思ったのは、リリへの恨み言等ではなかった。
「バルグレン! リリを……リリを守れっ!」
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