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ゴロゴロ幻想郷生活記

作者:有機物
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溺れし神は何を見るか
  第三話:夢を見るときに。

 
前書き
※今回、主人公エネルの捏造も甚だしいほどのオリジナルの過去を追加します。いやいや可笑しいでしょって思ったら感想でビシバシ叩いてください。……変える気はありませんが 

 
 エネルがゴロゴロの実を食べ、圧倒的な力を手に入れたのは、まだエネルが幼いときだった。もとより聡明であった彼は、この力が素晴らしいものだと理解できた。
 父や母、友達も羨むに違いない。そう信じて疑わなかった彼は、嬉々としてその力を披露した。しかし、彼にかけられた言葉は、想像していたものとは真逆のものだった。
 

 驚愕。そして恐怖。

 誰もが彼を恐れ、遠ざけ、逃げていった。その瞬間、彼は理解した。

 この力は、破壊しか、恐怖しか生まないものだったのだと。この力は、人の手に余るものだったのだと。

 だから彼は、人をやめた。自らを神と自称し、神に関する書物を読み漁った。人智を越えた雷の力を操れるよう、常に鍛練を怠らなかった。いつしか彼は独りになった。かつての友も、彼の両親でさえも、彼から離れていった。
 だが、彼は孤独を感じることはなかった。何故ならば、彼には叶えるべき"夢"があったからだ。

 "限りない大地(フェアリーヴァース)"に到達すること。それが彼の夢であった。
 だが、この空島ビルカでは夢を叶えることは出来そうにない。そう感じたエネルは、自慢の力で空島の民を屈服させた。自分の力を見せつけるために、故郷である空島ビルカを滅ぼし、消し去った。おかげで屈強な戦士たちが彼の下に下った。目的地である空島スカイピアでも、彼は同じことをした。何事もうまく進んだ。なんだってできた。


――――青海のゴム人間に会うまでは。

 彼には初めての経験だった。雷の効かない人間。受けた拳の痛み。あらゆる策を講じ、全身全霊で戦った。だというのに、負けた。命からがら青海に堕ちる前に復帰した彼は、限りない大地(フェアリーヴァース)を目指して、一人で旅立った。

 (狂気)に染まった目を、鈍く光らせながら。
 

 


 第三話:夢を見るときに。




 「そろそろ、笑うのやめてあげましょうよ」

 「フフフ、ええ分かったわ。………………あ、襲撃者さん。貴方の耳たぶってどうなってるの?」

 「まだ言いますか!?」

 「だって気になるんだも~ん」

 「……不届きにも程があるぞ、女」

 「コンプレックス?」

 「"電光(カリ)"!!」

 月の裏側にて、エネルの機嫌は最悪の一言だった。

 「神であるこの私にコンプレックスなどあるわけが無かろう!」

 「危ない危ない。モグモグ。もう少しで直撃だったわ」

 「……どうやら貴様も、そこの女剣士と同様に何らかの能力を持っているようだな」

 エネルが電光(カリ)を放った瞬間、豊姫の姿が掻き消え、今はエネルの後方に立っている。

 ……桃を食べながら。

 「モグ、貴方と依姫の戦闘をモグモグ、見ていたけれど」

 「何を食べている……?」

 「あら、桃よ。モグ、美味しいわよ。食べる?」

 「…自重してください」

 そう言って手に持っていた三つの桃のうち一つをエネルに投げ渡す。エネルは後ろを振り向くことなくそれをキャッチする。

 「ゴクン。やはりね」

 「?」

 「貴方、攻撃を先読みしているでしょう?」

 「何故そうだと思った?」

 「簡単な話よ。あらゆる生物は攻撃を受ける際に一度目で見てからじゃないとどう動けば良いか判断できないわ。当たり前よね。どこをどのように攻撃されるかわからないもの。でも、貴方が依姫の攻撃を避けるとき、まだ剣が動いていないのに剣の軌道から体をずらしていた。まるで剣の位置がわかっているみたいに。おかしいでしょう? だから私は思ったの。貴方が攻撃を先読みしていると」

 豊姫が、人差し指の先で桃を回しながら解説する。常人離れした依姫の剣裁きを目で捉えられているあたり、豊姫の実力を窺える。

 「そういうことでしたか。手応えが無いわけです」

 「それだけじゃ無いわ。貴方の体、どういった仕組みかは知らないけれど、雷そのもののようね?」

 「!」

 「フフ、図星ね? ところで、今私たちの目の前にいる貴方は、貴方の能力で作った分身かしら?」

 「違うと言ったら?」

 ニヤリと口角をあげ、手に持った桃を握り潰し、電熱で炭にするエネル。その顔にはまだ余裕があった。

 「殺すだけよ」

 そう言って、豊姫はポケットから取り出した扇子をゆっくりと上にあげる。 心網(マントラ)で攻撃を読んだエネルは、堪らずに振り向く。

 (何か来る! マズイ、避けねば!!)

 「この扇子は、森を一瞬で素粒子レベルにまで分解できる。人に使ったことは無いけれど、貴方ちょっと危険だし、いいわよね?」

 「させるものか!" 稲妻(サンゴ)"!!」

 「こちらのセリフです」 

 そう言って、依姫がエネルの真正面に一瞬にして移動し、攻撃を叩き斬る。豊姫が先程見せた能力によるものとは違い、脚力のみによる移動である。そして、依姫は扇子の攻撃範囲外から逃れるために横に移動した。
 それを見逃すエネルではない。雷速で依姫の後を追い、常にエネルと豊姫の間に依姫が来るように移動する。

 「あらら、これじゃ攻撃できないわね」
 
 仕方なく、豊姫は扇子を閉じる。それを合図に、再三剣と棒をぶつける二人。

 「くっ! 猪口才な!!」

 「ヤハハハハ! そのソリュウシだか何だかよくわからんセンスとやらは使わせん!」

 依姫は光すらも斬ることができる。だが、光の速度で動けるかどうかは別のこと。同様に、光速ほどでないにせよ、人間には捉えられない速度で動くエネルの速さは、依姫の数段上を行く。

 「お前の剣では私に攻撃出来んことがまだ分からんか! ゴムで出来た剣でもあるまいに!」

 「ゴムならば攻撃できると? いいことを聞きました。まぁ生憎、貴方の言う通り私の剣はゴムで出来ていません。ですが、それならそれなりの、戦い方がある!」

 「……何を?」

 「へぇ、考えたわね。流石よっちゃん!」

 姉の言葉に、それはやめてくださいといった顔をしながら、剣に水を纏わせる依姫。この行動の意味が豊姫には理解できたらしい。

 「知っていますか? 水は電気を通しますが、それは、水中に肉眼では捉えられない不純物が電気を通すからです。そして、一切不純物が無い純粋な水であれば、電気は通らない!」

 「何!?」

 能力で、自身の体に水を操れる神と、穢れを取り除く神を憑依させる。この二柱の力により、依姫は、純水を手に入れることができる。これでエネルはアドバンテージを一つ失う。

 そして――――

 「タケミカヅチ様の力!!」

 依姫は、自分の知る中でも最強に近い神を憑依させ、体に青白い雷を纏う。
 タケミカヅチノミコト。その一柱が司るは"雷"。これにより、依姫は雷速の世界に足を踏み入れる。

 「もう逃しません!」

 一歩踏み込むだけで、エネルは依姫を見失う。

 (速い!! どこに!?)

 「ここです」

 声は下から聞こえ、エネルが下を見たとき、彼の視界には、水に覆われて怪しく光る刃が迫っていた。避けることも叶わず、エネルの体に深々と剣撃が入る。

 「ぐうぅ!? お、おのれ……! 小娘がぁ!!」

 「……そのような呼ばれ方は久しぶりです」

 月の民は、"穢れ"を嫌う。嫌いに嫌って行き着いたのが、この月だった。

 「私達は穢れから隔離されたことにより、年を取ることがありません。こう見えて、貴方の数千万倍は生きているのですよ」

 「ハァ……ハァ…グッ、ガハッ!」

 堪らず、吐血しながら膝をつくエネル。

 「だから何だと言うのだ……! 私は、神……だ!」

 「……哀れね。貴方は神ではないわ。ただの、少し強い人間よ」
 
 「黙、れ! 邪魔だ、ハァ、お前ら……ハァ、ウグゥ!」

 「死になさい」

 「ま、待て……ェ……!」

 問答無用。と言わんばかりに剣を振り上げる依姫。そこに、慈悲など無い。

 「この場所は、この 限りない大地(フェアリーヴァース)は……」

 二度も地に這いつくばり、今度は殺されるだろう。だが、エネルは諦めない。彼は今もまだ、"夢"を見ているのだ。

 

 「……おれのものだ!!!」

 

 その時、豊姫は見た。
 まさに奇跡。エネルの首に刃が降り下ろされる寸前に、まるで主を助けんがために、その"舟"は堕ちてきた。

 「マク……シム……!!?」

 方舟マクシム。エネルがスカイピアの兵士達に作らせた、世界で唯一の空飛ぶ舟。

 「何故ここに……」

 それは、単なるエネルギー切れ。エネルの雷を動力源とするその舟にとってエネルは謂わば必要不可欠な"電池"。それを抜いた道具は、動きを止める。

 「ヤ、ハハハッ。仕方……ない。ここは一旦、ハァ、引くしかなさそうだ……!」

 「させるとでも?」

 「 "雷仰(らいごう)"……! ヤハハ、ハ。女、急がねば、ここが、ハァ、消し飛ぶぞ……」

 「依姫! あれを!!」

 「なっ!?」

 上空の雷雲が形を球状にしていく。エネルの最後の抵抗にして、最強の切り札。その威力は、空島スカイピアで放たれたものとは桁違いのもの。大きさは十倍以上にもなる。

 「覚えておけ、ハァ……必ず、必ずこの 限りない大地(フェアリーヴァース)を手に入れる。ハァ、必ずだ!!」

 彼は、今の状態で戦いを挑むほど馬鹿ではない。時には退くことも重要であることを、彼は学んだ。

 「今以上の力をつけて、おれはここに戻ってくる。その時が、貴様らの最後だ……」


     ☆★☆★☆


 「厄介ね。あの人」

 「ええ。ですが……」




     ☆★☆★☆
 
 
 エネルは、その身を赤く染めながら段々と離れていく月を睨み、言った

 「……次は勝つ!!」


     ☆★☆★☆


 依姫は、空に浮かぶ不気味な球状の雷雲に向かって言った。

 「……次も勝ちます」








 新たな決意を胸に、彼らは互いに背を向ける

 
 

 
後書き
プロローグ終わり!!
次回、幻の楽園 
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