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戦国異伝供書

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第二十七話 幸村と茶その五

「刺してきますので」
「用心すべきですか」
「断じて、あの御仁は茶に毒を入れることも」
 それもというのだ。
「有り得ます」
「そうなのですか」
「実際にです」
 松永の周りではというのだ。
「そうした話が多いのですから」
「ううむ、では」
「真田殿には十勇士がおられますな」
「それがしの臣であり友です」
 その二人はというのだ。
「まさに」
「それではです」
「あの者達がですか」
「真田殿はどうもある種の謀には疎いです」
 正の軍略については相当だ、それだけに信玄も彼を若いながらも先陣に用いてきたのだ。また謀も知ってはいる。
 だがそれでもとだ、利休は言うのだった。
「あの御仁の様なそれは」
「疎いと」
「そう見ます」
「確かに。それがし知略も学んできましたが」 
 幸村自身も思い至るものがあり述べた。
「あの御仁が得意とする様なことは」
「讒言や毒を使う術は」
「縁がありませぬ」
「十勇士の方々もですな」
「あの者達は忍なれど」
 それでもというのだ。
「はっきりとした、斬り合い等が得意で」
「それで、ですな」
「あまり毒殺等は」
 十勇士達もというのだ。
「得手ではなくしたこともです」
「真田殿が命じたこともありませぬな」
「一度も、探らせたり戦に加わることを命じてばかりで」
 己の手足としてだ、彼等と共に戦ってきたのだ。
「そうした命は出したこともなく」
「ではです」
「松永殿が謀を使われるとすれば」
「真田殿では太刀打ち出来ませぬ」
「だからですか」
「会われるとしましても」
 それでもというのだ。
「決してお二人だけでは会われぬことです」
「では」
「羽柴殿か前田慶次殿がご一緒なら」
「よいですか」
「はい」
 利休は幸村に茶を煎れつつ落ち着いた声で話した。
「真田殿のことを思えば」
「それがしのことを」
「それがしは人相見も出来ますが」
 それで幸村の顔を見ればというのだ。
「天下に大きなことを為される相です」
「それがしが」
「天下一の武士となられましょう」
 それが幸村が為すことだというのだ。
「ですから」
「それで、ですか」
「はい、あの様な危うい御仁と関わり何かあれば」
「それで天下一の武士になれぬので」
「それがしとしては頷けませぬ」
 幸村が松永と会うことはというのだ。
「どうにも」
「左様でありますか」
「織田家の主な方々も言われます、むしろ」
「むしろといいますと」
「上杉謙信殿は」
 これ以上はないまでに高潔な心を持つ彼はというのだ。
「あの御仁と会われますとその場で刀を抜かれかねません」
「天下の奸悪とみなされて」
「それで、です」
 まさにそれが為にというのだ。
「刀を抜かれ」
「そのうえで、ですか」
「切られるやも知れませぬ」
「確かに。上杉殿ならば」
 幸村も謙信の気質は知っている、実に生真面目で卑怯未練そして悪辣なことを憎む気質を持っている。
「その様にされることも」
「間違いなくですな」
「そう思います」
「それがしも同じです、他にもあの御仁をどうかという方は多いです」
「命を狙うまでに」
「それがあの御仁のこれまでの行い故」
 天下によく知られるその悪行からというのだ。 
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