戦国異伝供書
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第二十七話 幸村と茶その三
「その天命を果たされることはよきことかと」
「ですな、天命を果たすことは」
「人としてのある道ですな」
「まさに。それとですが」
幸村は茶を飲みつつその茶を煎れてくれた慶次に尋ねることがあった。それは一体どういったものかというと。
「前田殿はあの松永弾正殿ともお付き合いがありますな」
「ははは、そのことでありますか」
「お付き合いがですか」
「はい、あります」
実際にという返事だった。
「よい方ですぞ」
「よい方なのですか」
「気さくで飄々としていて」
「羽柴殿もそうだと聞いていますが」
しかしとだ、幸村は慶次に怪訝な顔で述べた。
「松永殿といえば」
「天下の大悪人ですか」
「奸悪無限の」
「そうですか、しかしです」
「前田殿が見られる限りでは」
「ご安心下され」
これが慶次の返事だった。
「悪い方ではありませぬぞ」
「噂と違い」
「おそらく武田家の方々もそれがしとは違うお考えでしょうが」
「高坂殿が言われるには」
武田家の中でも文武両道と言われる彼はというのだ。
「天下の為にです」
「即座にですな」
「切り捨てるべきとです」
高坂がそう言っていることをだ、幸村は慶次に話した。
「山県殿や内藤殿もです」
「左様でありますか」
「信玄様も」
流石に今はお館様とは呼ばないが敬意は忘れていない。
「天下の為にとご自身がです」
「切られるとですか」
「言っておられます」
「ううむ、信玄殿までもが」
「とかく赤備え衆もです」
武田家と二十四将の者達を一括りにしてこう呼んでいる。幸村は二十四将ではないがこの中に入っている。
「あの御仁については」
「天下の為にと」
「切るべきだと言われています」
「織田家と同じですな、そして」
「他の色の方々もですか」
「上杉家も毛利家も北条家も同じです」
それぞれの色は黒、緑、白でそれぞれの備え衆と言われている。長曾我部は紫で浅井は紺、徳川が黄色なのは変わらない。そこに伊達の水色も加わっている。
「やはり」
「松永殿を切るべし」
「まさに大合唱です」
「織田家が特にですな」
「最早素振りを見せるだけで」
謀反のそれをだ。
「切れとです」
「平手殿や柴田殿がですか」
「言われています」
実際にというのだ。
「そうしてもう何年も経っています」
「そして今に至りますか」
「はい」
実際にというのだ。
「左様です」
「よくそれで松永殿もご無事ですな」
「叔父上にしましても」
前田利家、彼もというのだ。
「何かあればとです」
「言われていて」
「槍を持たれています」
「槍の又左殿といえば天下の豪傑」
「実はそれがしにも引けを取りませぬ」
そこまでの強さだというのだ。
「ですから」
「その時は」
「他の織田家のお歴々もいるので」
「松永殿も」
「その首を取られるでしょう」
「ですか、しかし実はそれがし松永殿とは」
どうにもという顔でだ、幸村は慶次に述べた。
「これまでです」
「お会いしたことはありませぬか」
「直接は」
そうだったというのだ。
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