| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

アイテム収集家の異世界冒険話

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
< 前ページ 目次
 

01話 プロローグ

「こんちは栄一。いやぁ、久しぶりだね!」

 靴を片方ずつ両手に持って、なぜか窓から二階にある部屋の中に入ってきたのは、朝霧志陽(あさぎりしょう)という名の青年だった。部屋の主である人物に挨拶をしながら、自然な様子で部屋の中に足を踏み入れる。

 その部屋の壁には、アニメやゲームに登場する美少女キャラクターのポスターが貼られていて、本棚の中には漫画がギッシリと。ゲーム機やソフトケースが床の上に乱雑に置かれていた。いわゆる、ひと目見てオタクの部屋だと言えるような構えの部屋だった。

「志陽。家に来るんなら、ちゃんと玄関から入ってこいって。いつも言ってるじゃないか!」
「いや~、ごめんごめん」

 部屋の主である朽葉栄一(くちばえいいち)が、当たり前のように窓から入ってきた志陽を軽く非難した。窓から入ってくるんじゃなくて、玄関から家に入ってくるのが当然の常識だと説く。

「近所の人に見られでもしたら、何か言われるのは僕なんだから」
「大丈夫だって、誰にも入る姿は見られてないから」

 胸を張って、そう言い切った志陽。本当にこれっぽっちも見つかるなんて可能性は無い、と断言していた。

「まぁ、志陽がそう言うんなら本当に見つからないんだろうけど。気分的に心配になっちゃうから」
「わかった、もっと注意して誰にも見られないようにするよ」
「いや、普通に玄関から入ってきて欲しいんだけど……」

 あまり悪びれたり反省する様子もない志陽に、普通じゃない方法で部屋の中に侵入された栄一の方が諦めてため息をつく。

 何度か注意しているけれど、直そうとする気配は一向に無い。ただ志陽が、自信満々になって見つかる事は無いと言いきっているから、本当に見つかる可能性は無いのだと理解していて、それ以上は言わない栄一であった。

「はぁ……それで。久しぶりって言うことは、またどっか行ってたの?」

 今日も朝から学校で一緒に授業を受けていた、今は放課後。学校で顔を合わせてもいたので、久しぶりという言葉は本来なら相応しくないだろう。

 だがしかし、志陽が”久しぶり”という言葉を口にする事情を栄一はよく知っていた。だから、何処か行っていたのかと尋ねる栄一。志陽は肯定する。

「そう、さっきね。はいどうぞ、お土産」
「これは?」

 志陽は両手に持っていた靴を懐にしまってから、代わりに何かを取り出してソレをハイと栄一に渡した。栄一が受け取ったのは、透明で細長いガラスの中に液体が入っている、ワインボトルよりかは一回り小さい瓶であった。

 そして中に入っている液体は、緑色で薄く光っているようにも見える蛍光色。それが何なのかを志陽が説明を加える。

「ポーション。前にやってたゲームで飲んでみたいって言ってたでしょ?」
「まぁ言ったけど」

 以前プレイしていたゲーム、そしてポーションという言葉を聞いた栄一は、とある超有名なゲームタイトルを思い出していた。

 志陽が贈り物について説明をしながら別のもう一本を懐から取り出してくると、封を切った。そして説明を聞いていた栄一の方に向けて、差し出す。

「じゃ乾杯」
「うん乾杯」

 二人は乾杯の言葉と共に手に持った瓶をチンと合わせて、飲んでみた。志陽にとっては飲み慣れた薬だったので軽く一気に飲み干したが、栄一は初めて口にしてみて想像していたモノとは違った味に顔をしかめていた。

「うぐっ……。コレがポーション……。本物は、やっぱり苦いな」
「まぁコレは、回復薬だからね」

 以前に栄一は、商品化されたこともある清涼飲料水のポーションという名の付けられた飲み物を買って飲んだことが有った。その時の事を思い出していたが、あの時に飲んだアレと比較してみると違う全く味だった。

 本物はもっと草っぽい青臭い味に渋みがあって、舌の先に強烈な苦味を感じる。喉も飲み込むのに拒否反応を示して吐き出しそうになっている。

 しかし栄一は吐き出さず、なんとか頑張って飲み込んで液体は胃にまで到達。その瞬間に、体がとても軽くなったような気がした。口にするだけで自分の体の変化が分かるほどの効果を発揮する飲み物。それが本物だという証明のように栄一は感じていた。

「他に欲しいのがあるなら、例えばマテリアとかもゲットして用意してあるよ。この魔法マテリアならダブってるから、お土産としてプレゼントしてあげようか?」

「バカ。僕が貰っても使いようがないだろうに。どうせなら、リボンとか指輪とか身に着けるだけで効果があるアクセサリー装備とかの方が良いよ」
「リボンならあるよ、ほらあげる」

 あの世界のアイテムと言えば。プレイしていた頃の記憶を思い出して、冗談半分で言ってみた栄一の言葉に、志陽は即座に反応すると収集してあったリボンを本当に懐から取り出してきた。それをホイと気軽に、栄一へプレゼントする。

「うわ、マジで持ってるの? でも、これは男の僕なんかには似合わないよ」
「クラウドは、普通に身につけて冒険してたけど」
「えぇ、マジ?」
「うん。マジ」

 手元にある少女趣味全開というような赤い蝶々型のリボンを見つめながら、金髪のチョコボ頭にコレを身に着けている主人公の姿を想像した栄一は笑った。

「それで、今回はどんな冒険だったの?」
「いやぁ、それがけっこう大変だったんだよ」

 お土産を貰って、それなりに興味が出てきた栄一は冒険話を聞きたくなって、そう尋ねた。

 興味を持ってくれた栄一に、いつものように志陽は語り始める。今回の、ファイナルファンタジー7の世界で旅をしてきた時の話を。 
< 前ページ 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧