ゴロゴロ幻想郷生活記
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溺れし神は何を見るか
第一話:"神"と呼ばれた男
「さあ行こう"マクシム"」
かつて神と呼ばれていた男は、その絶対的な力で空に浮かぶ島国"スカイピア"を支配していた。その時兵士達に作らせた空を飛ぶ舟、"方舟マクシム"に乗りながら、彼は夜空を見上げる。
「空に目映く浮かぶ、あの神の世界へ…」
彼の名は"エネル"。自身が生まれた故郷を消滅させ、スカイピアをも消滅させようとして、ある海賊に激戦の果てに敗北した。それでも尚、彼は諦めない。どこまでも続く果てしない大地、神の行くべき場所を目指して。
「"限りない大地"へ…!」
虚ろな目を輝かせながら、彼は少年のように夢を追う。
第一話:"神"と呼ばれた男
「レーダーに反応あり!」
月の都には、防衛機関が存在する。名を"月の使者"。その司令塔のレーダーに"突如として"現れた謎の飛行物体。一人の兎耳少女オペレーターから発せられた声に、室内は一瞬にして緊張が張り詰めた。
「やけに久しぶりの襲撃ですね?」
月の使者のリーダー、綿月依姫が声を漏らす。今まではかなりの頻度で宇宙海賊からの襲撃を受けていた月の都。何故かぱったりと襲撃が無くなってから、実に二百年ぶりである。
「いえ、これは恐らく、今までとは全くの別物よ」
それに答えたのは、依姫の姉、綿月豊姫。依姫が何故そう思うのかと問う前に、超小型カメラが、敵の全体像を映し出す。
「やっぱり……って想像以上に変なのが来たわね」
そこには、なんとも趣味の悪い空飛ぶ舟があった。所々に損傷が見られるが、それに目が行くことはないだろう。黄金で作られた顔に、船室の屋根にはデカデカと"神"と書かれている。前後左右にそれぞれ三つのプロペラが回っており、その様は不気味の一言に限るだろう。
「敵船に高エネルギー反応!」
「…まずい!」
完全に見た目に気を取られていた。それこそ、一種の作戦なのかと彼女らが邪推するほどに。
☆★☆★☆
マクシムの上で、エネルは苛立っていた。理由は単純。自分だけの物と思っていた大地に先客がいたからだ。
「ようやく私の大地に到着したかと思えば……、なんたる不届き!」
無意識のうちに体が青白い光を帯びる。エネルは悪魔の実、自然系ゴロゴロの実を食べた雷人間だ。彼の戦闘力は、まさに最強と言っても過言ではない。それ故に彼は慢心し、敗北した。彼は今、かつて無いほどの悔しさと焦燥感に苛まれている。
「おのれ! どれだけ私の邪魔をする……!」
こんな気持ちは初めてだった。だから、ついつい攻撃的になってしまうのも、仕方の無いことであった。
「私は神だ! 何事も、意のままにする! "神の裁き" !!」
彼の左腕に雷が集中する。次の瞬間、彼の左腕が雷に変化し、莫大なエネルギーが撃ち出された。その光は一瞬にして月の都の市街地に到達し、家屋を貫く。勿論それだけでは終わらない。更に連続で撃ち出される極光は、建ち並ぶビルや家を焼き払っていく。エネルにとって興味をそそられるものもいくつかあったが、それ以上に彼の頭は怒りで一杯だった。そしてついに、彼は"ある装置"を起動させる。
「"デスピア"起動! ヤハハハハハハ! このまま滅ぼし尽くしてやる!!」
マクシムの煙突から、黒い雷雲が放たれる。エネルがここに来るまでに修復しておいたのだ。この装置が無ければ、彼の力は十全に発揮されない。
――――"宴"が始まろうとしていた。
☆★☆★☆
月の使者、本部。
「総員、第一種戦闘配置!」
「それ言いたいだけでしょ、姉さん」
「いいじゃない! 雰囲気も大事なのよ?」
「ちょ、ちょっと!? 余裕ぶってないで速くアレ止めてくれませんか!!?」
兎耳少女のうちの一人が叫ぶ。いつも通りのマイペースな二人に我慢できなかったようだ。
「ちょっと待って。今、モモニウム接種中なのよ」
「な、何ですか、モモニウムって!」
ただの桃である。
何を隠そうこの豊姫、桃が大の大好物である。それはもはや中毒の域に達しており、以前見兼ねた依姫に桃をすべて没収されたところ、狂乱状態で町中をさ迷った挙げ句に、気付けば何故か宇宙空間で背泳ぎをしていたという過去を持つ。
そんな豊姫に依姫の方が折れ、今では姉が桃を食べ終わるのを静かに待つことが習慣になってしまった。
「ふぅ~。食べた食べた! さ、行きましょうか!」
「では、先に行ってきますので、姉さんは後で」
「分かったわ。よろしく♪」
そう言った直後に、とんでもない速度で飛んでいった依姫を見て兎耳少女達が、相変わらずの化け物っぷりだと畏怖する中、豊姫は、何故か依姫が向かった方向とは別の方向に向かってゆっくりと歩いて行った。
☆★☆★☆
「百万ボルト・放電!」
一方その頃エネルは、この月の空を覆う雷雲を見て満足げに笑う。先程から果敢に攻撃を仕掛けてくる"月の使者"達を相手してはいるが、そのあまりの呆気なさに、エネルは先程とはうってかわって退屈を感じていた。だが、それももう終わる。
「……そろそろだな」
エネルは一旦攻撃を中止し、体を青白く発光させる。少しして、月の使者達は奇妙な音を聴いた。まるで、雷が何本も落ちているかのような。
否。"まるで"などではない。本当に何本も、いや、何十何百と雷が降り注いでいる。
「……嘘……でしょ」
たったの数分で仲間達のほとんどを失った兎耳少女の一人が、顔を絶望に染めながらポツリと言った。その小さな呟きが聞こえたのか、エネルは上機嫌に答える。
「残念ながら本当だ。大地に住み着く不届き者共よ! さぁ喜べ、宴の始まりだ! ヤッハハハハハハ!!」
その雷は、時を経て強く、大きくなってゆく。終焉の宴に相応しい"絶景"。
町は燃え、人は逃げ惑う。その力はまさに神の所業。その名は――――
「"万雷"!!」
―――絶望は、まだ続く。
後書き
次回、絶望死す。エネルスタンバイッ!!
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