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許されない罪、救われる心

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169部分:第十五話 許される心その十


第十五話 許される心その十

「一体」
「少しな」
「少しって?」
「コンビニに行く」
 妹に背を向けたまま言うのだった。
「今からな」
「本当に?」
「何が言いたいんだ?」
「コンビニに行くのよね」
 神無が問うのはこのことだった。
「そうなのよね」
「ああ、そうだ」
「それだったら」
 怪訝な顔でだ。兄にさらに問う。
「その手にあるものは何なの?」
「何でもない」
「それよね」
 だが、だった。神無は咎める目でまた兄に問うた。
「それで城崎さんを」
「知らないな」
「今度は誰なの?また城崎さん?それとも」
「御前には関係のないことだ」
「関係ないことないわよ」
 妹は強い言葉で兄を咎めた。
「そんなこと。ないわよ」
「御前をいじめた連中だぞ」
 兄はここで後ろを振り向いた。そうしてだった。
 妹に対してだ。強い目で見据えて言葉を返すのだった。
「そんな連中をあのままにしていいのか」
「もうそれはいいのよ」
「いい訳ないだろ」
「お兄ちゃん見てたじゃない。あの娘達が私に謝るところ」
「謝って済む話か」
 これが兄の言い分だった。
「あんなことをしてきたな」
「私はもういいのよ」
「だからいい訳ないだろ」
「あの娘達お兄ちゃんに何かしたの?」
「御前にした」
「だから私はもういいの」
 神無も引かなかった。何があろうともという感じだった。
「それを言ってるじゃない」
「じゃああの連中があのまま何もなくていいの」
「お兄ちゃんあの娘をそれで入院させたじゃない」
「死ねばよかったんだよ」
 憎悪に満ちた言葉だった。
「あのままな」
「それでまたなの」
「御前の為なんだぞ」
「それでもよ。私はもういいのよ」
「よくない、御前を傷つけた奴等は絶対に許さないからな」
 兄としての絶対の言葉だった。
「昔からそうだったな」
「それであの娘達を」
「今度こそな」
「どうしてもって言うのね」
「ああ、そうだ」
 さらに強い、憎悪そのものの光を目に宿していた。
「何があってもだ」
「それならね」
 神無は兄の今の言葉にだ。怒ってだった。
「私だってお兄ちゃんを絶対に止めるわ」
「何だ、警察位で俺はだ」
「警察じゃないわよ」
「じゃあ何だ」
「私が。お兄ちゃんに何かしてでも」
 今にもその何かを出さんばかりになっての言葉だった。
「それでもよ」
「止めるのか」
「お兄ちゃんがどうしてもっていうのなら」
 神無はまた言った。
「私だって」
「そう言うか」
「ええ、絶対によ」
「くっ・・・・・・」
 妹のその強い言葉にだ。兄は止まった。
 そしてだった。身体も完全に振り向いてだ。玄関からあがったのだった。
 そのうえで神無の方を進んでだ。言うのだった。
「勝手にしろ」
「誰でも」
 神無は顔を向けない。言葉だけだった。
 だがその言葉でだ。兄に言うのだった。
「もう。あんなことしたらいけないから」
「悪い奴でもか」
「誰だって悪くなったりよくなったりするから」
 これが神無の考えだった。
「だから」
「悪い奴はどこまでも悪いんだよ」
 だが極月は言い返した。ここでもだ。
「そういうものなんだよ」
「そんな筈ないから」
 二人の言葉は交差した。そしてそれは決して交わるものではなかった。それが今の二人の言葉だった。それは心もだった。
 だがそれでも神無は決めた。そのままに動くのだった。


第十五話   完


                  2010・10・20
 
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