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戦国異伝供書

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第二十五話 天下の政その八

「そうしてです」
「生きていきまする」
「竹千代を見るのじゃ」
 家康をというのだ。
「よく身を慎んでおるな」
「ですな、あの方は」
「常にそうされておられます」
「何事においても」
「そうせよ、竹千代はな」
 家康、彼はというのだ。
「何事においてもじゃ」
「鏡ですな」
 信忠が言ってきた。
「それになる方ですな」
「そうじゃ、今や百六十万石じゃ」
 それだけの大身になったというのだ。
「天下一の大名じゃ」
「そうなられましたな」
「三国を治めるな」
 駿河、遠江、三河のだ。
「そうなったが」
「それでもですな」
「あの様にじゃ」
「身を慎んでおられますな」
「あれでおなごが好きじゃが」
 それでもというのだ。
「花柳の病には気をつけておる」
「用心されて」
「酒も深酒はせぬ」
「その毒もわかっておられて」
「最初からな、暮らし自体がな」 
「質素であられ」
「あれはよい者じゃ、しかも律儀じゃ」
 家康のこの徳分もよしとするのだった。
「実にな」
「まさに天下一のですな」
「律儀と言われておるな」
「はい」
 信忠もそうだと答えた。
「あの方は」
「天下人はやはりな」
「律儀でないとですか」
「ならぬ、謀を使えど」
 それでもというのだ。
「守るべきものは守る」
「義をですな」
「それでじゃ」
「それがし達は徳川殿をですか」
「手本とせよ。ただな」
「ただ、とは」
「竹千代も人じゃ」
 こうも言う信長だった。
「若し手の届くところに天下があれば」
「天下を望まれますか」
「そうなるやも知れぬ、信頼出来る者じゃが」
「そうしたことはですか」
「気をつけよ、天下の大身になって宰相となってもな」
 それでもというのだ。
「天下を奪える様なな」
「地位にはですか」
「誰も置いてはならぬ」
「織田家以外のものは」
「絶対にな」
「そこは守らねばなりませぬか」
「また源氏の様にはじゃ」
 信長は息子達にさらに言った。
「なるでない」
「源氏ですか」
「あの身内で殺し合った」
「あの家の様にはですな」
「なるでない、また北条家も作るな」
「北条家といいますと」
「鎌倉殿の外戚であった」
「あの家ですな」
 三人の息子達もそれはわかった。
「源氏を乗っ取る形になった」
「鎌倉の二代殿を暗殺したという」
「そして執権として幕府を動かしていた」
「あの様な家もじゃ」
 決してというのだ。 
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