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社会人共がクトゥルフやった時のリプレイ

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おまえがちょうどいい
  Part.2

 時間を進めて1限目終了。気を付け礼の号令を委員長が終えると歴史の教師は教室を後にする。さて10分間の休憩時間だ。好きにロールプレイして構わないよ。頃合い見て時間進めるつもりだけど、やることなくなったら呼んでくれ。

「さっきの授業での文の身に何が起きたか聞きたいわ。くるっと回って文の方を見る」

「俺も聞きたい。席から立って話しかけよう。どうしたんだ文。尋常じゃない様子だったが、そんなに怖い夢を見たのか?」

「あやや……いやー、ははは。夢だったんですかねぇ。転寝(うたたね)してたんではっきりしないんですよ、と苦笑いしながら叩かれた肩を擦ります」

「ボケていたと言えばあの歴史の先生もそうよ。素で間違えていたみたいよ? あんたの名前」

「え? そうなんですか?」

「マジか。てっきりウケ狙いでわざと言い間違えたと思ったんだが……射命丸なんて名前のどこをどう間違えたんだ」

「しかもなんでしたっけ? よ……なんでしたっけ?」

 予坂だよ。

「そうそう予坂なんて、それもまた珍しい苗字ですし……変なこともあるんですね」

「変なことと言ったら俺も昨日変な出来事があったんだ」

「お、なんですかなんですか。せっかくですし新聞のネタにしちゃいましょう。自分の実体験もありますし、結構リアルに書けそうです」

「昨日の放課後のことなんだがな、廊下で変な視線を感じたんだ。でも周りを見ても誰もいない。そしたらなんか、妙に甘い匂いがしたと思ったら後ろから聞こえたんだ。『おまえはダメだ』って男の声がな。それで振り返ったら誰もいないんだ。なんというか、気味が悪かったな」

「あ、それと似たようなことが今朝あったわ。登校中に体育館の方に全身真っ黒な変な人がいてね、話しかけて目が合ったと思ったらもういなくて。それで真横から、真横からよ? 男の人の声で『おまえもダメだ』って。何かを探していたみたいだったわ」

「え、ちょっと待ってください待ってくださいよ。なんですか今の話物凄い共通点多いじゃないですか。え、私『おまえがちょうどいい』って言われたんですけど!?」

 あ、そうだ。今の話を聞いた射命丸は《聞き耳》で判定してくれ。

 射命丸《聞き耳》53 → 29 成功

 じゃあ射命丸は自分の掌から甘い匂いが漂ってくるのに気が付くよ。

「え!? くんくん、うわっ、何ですかこの甘い匂い!」

「ちょっと嗅がせて。すんすん……GM、この匂いは今朝私が嗅いだ匂いと同じ?」

 同じ匂いだねい。何かの植物のような、甘い匂いだ。

「だが一体どこでそんな匂いが付いたんだ。授業中はないからこの休憩中ということだ。……そういえばさっき、肩を擦っていたな?」

「あ、そこかもしれないわね。私が嗅ぐわ。どう、GM?」

 射命丸の肩にしっかりとその甘い匂いが付いていたよ。

「そ、そんなっ!? 自分も匂いを嗅ぎます!……う、うわっ!? 本当に匂ってます!」

 てなわけで射命丸。《SAN》チェックだ。0/1な。

 射命丸《SAN》55 → 43 成功

「特に心は揺るぎませんね。ま、まぁ、誰かとぶつかって偶然その人が付けていた香水が付いただけかもしれませんよ。うん、そうに違いありません」

「そ、そうだな。きっと偶然だ」

「だったらいいんだけどね……」

 とここで予鈴が鳴る。2時間目開始だ。一気に場面を飛ばすぞ。
 今は昼休みだ。1限目に変なことが起きたがそれからは特にこれといった異変はない。時間が経つにつれ朝の一件もただの勘違い、夢を見ていたと思うことだろう。
 さて、今おまえらは昼食を終えて適当に駄弁っている。そのときピンポンパンポーンと黒板の中央上に設置されたスピーカーから音がした。校内放送の時に使われるものだ。

「GM、俺は耳を抑えて聞こえないようにする」

 あん?

「いや、なんでもない」

 さてと、んじゃあスピーカーから男の声でアナウンスが流れる。

『2年D組、予坂文さん。2年D組、予坂文さん。お母さんが待っています。行ってあげてください』

 ピーンポーンパーンポーン、とここで校内放送が終わった。

「なんだ今の放送は。今どき小学校でもこんな放送しないと思うぞ」

「内容も変だけど確認しないといけないところもいくつかあるわ。まず始めに、2年D組って私たちの教室?」

 そうだよ。おまえさんたちのいるクラスは2年D組だ。

「俺たちの教室か。じゃあ予坂文なんて名前のクラスメイトはいるのか?」

 うんにゃ、そんな名前のやつはいないねい。

「……私以外に文って名前のクラスメイトはいますか?」

 いんや、おまえさん以外に文なんて名前の生徒はいない。もっと言うならここに通う2年生の中に『予坂』なんて苗字のやつはいないし、『文』という名前も射命丸、おまえさん以外にいない。いやぁ、不思議だねい?

「……なぁ、文」

「言わないでください遊星さん。大丈夫。私は平常です。今の放送はアレですよ。ただの間違い、そうに決まっています」

 じゃあ何もアクションを起こさないんだな? だったら5分後、また校内放送が流れる。

「ほうら。きっと間違いです失礼しましたとかなんかそんな感じのアナウンスですよ。間違いない」

『予坂文さん、予坂文さん、早く会いに行きなさい』

 以上、校内放送終わり。

「…………」

「黙っちゃったわね。ねぇGM、今の放送の声、もしかして私たちに心当たりあるんじゃない?」

 あるねい。この声は遊星と萩村に『おまえはダメだ』と言い、『おまえがちょうどいい』と射命丸に言った声と同一のものだ。

「ええ……ええっ!?」

「落ち着きなさい。誰もあんたのこととは言ってないわ」

「で、でも歴史の授業で先生が私のこと……」

「偶然よ、偶然」

 じゃあ3分後、また校内放送が流れる。さらに2分経ったらまた、1分経ったらまた。更にまた。更に更にまた。ダメ押しするように、何回も何回も何回も流れる。

『予坂文、早く会いに行け』

『早く、早く行くんだ! 予坂文!』

『予坂文! おまえが、おまえがちょうどいいんだ! さっさと行けっ!』

 最初こそ事務的な丁寧語を使った校内放送だったが徐々に大きく、荒く、切羽詰まったような、何かに取り憑かれてしまっているかのような、そして何かに言いつけるかのような、怒号のようなものへと変貌していった。
 誰かもわからない得体のしれない男の声は学校全体に響き渡り、アナウンスの間隔が短くなるごとに自分たちのいる教室に向かって近づいてくるような、気が付いたときには目と鼻の先まで迫ってきているような、そんな恐怖を味わい背筋が凍る。
 萩村と遊星は1/1D3、射命丸は1D3/1D6の《SAN》チェックだ。

 射命丸《SAN》55 → 56 失敗
 萩村 《SAN》49 → 87 失敗
 遊星 《SAN》59 → 82 失敗

「(コロコロ)……あ、5です」

「(コロコロ)……最大値、3」

「(コロコロ)……俺は2だ」

 5点以上減少した射命丸、《アイデア》で判定してくれ。

 射命丸《アイデア》55 → 91 失敗

 ちぇっ、一時的発狂は回避しやがった。

「だとしても5点の正気度喪失はデカいな」

「発狂しない正気度喪失ロールですか。やりにくいですね。とりあえず恐怖のあまり顔面蒼白にしつつ目尻に涙を滲ませて震えます」

「バンッと机を叩いて立ち上がるわ。気分は最悪、あんまりすぎる質の悪さに憤慨する。もうあったまきたわ! ちょっと放送室に行ってやめさせてくる!」

「俺は文を気遣いながら背中を擦ろう。大丈夫、大丈夫だ」

「うう、遊星さん……」

「遊星は文をお願い。私は放送室にカチコムから。生徒会役員としても友達としても看過できないわ。というわけでGM、私はダッシュで放送室に向かうわ。その前に、ここは何階?」

 2階だな。

「放送室があるのは?」

 3階だ。走れば2分もかからないで着く程度の距離だ。

「放送室に向かう手段は何通り?」

 右奥の階段、左奥の階段、中央階段、非常階段の4通りだねい。今おまえさんたちのいる教室から見て一番近い階段は左奥の階段だけど、放送室は右奥にあるから階段的には右奥階段と非常階段が一番近い。一方、左奥階段だと放送室から見て真逆の方向に走らないといけないから、僅かだがタイムロスが発生する。まぁ、あんまり気にしなくていいかもしれんがね。

「よし。だったら走って放送室に向かうわ。階段は中央階段を使う」

 おっと、んじゃあ《幸運》で判定してくれ。

 萩村 《幸運》50 → 07 成功

 成功か。なら何事もなく放送室に辿り着く。ちなみにまだ校内放送は続いているよ。

「ドアノブを回す」

 鍵が掛かっていて入ることは出来ないねい。

「《鍵開け》なんて技能取ってないし、職員室に行って鍵を取ってくる……と見せかけて物陰に隠れて放送室から誰か出てくるまで待つ」

 ああ、その必要はないよい。おまえさんが放送室のドアノブをガチャガチャしているときに何人かの先生たちが駆けつけてくる。おまえさん同様、この異常な校内放送をやめさせるべくこうして赴いたんだろうねい。全員物凄い表情をしている。先頭を走っていた体育の先生の手には鍵が握られていた。

「んっ!? おまえは萩村か! この悪戯はおまえの仕業か!?」

 ちなみにおまえさんがドアノブに手をかけてから校内放送はぱったりと止んだよ。放送室の真ん前にいた、しかもドアノブに手をかけていたおまえさんを先生たちが疑うのは当然だよねい?

「んなわけないでしょうが! 放送で流れていたのは男だったでしょう! 女子の私がどうやってあんな声出すってんのよ! 疑うなら調べてみてください! ボイスレコーダーはおろか、携帯電話もこの放送室の鍵も持っていませんから! 《説得》で判定!」

 萩村 《説得》70 → 57 成功

「む、むぅ……それもそうか」

「萩村さん、あなたが来たときに誰か放送室から出てきたかしら?」

「いいえ、ですから犯人はまだこの放送室に籠城していると思われます」

「よし、じゃあ入るぞ」

 体育教師が持っていた鍵を鍵穴に刺す。くるりと180度問題なく回転した。普通に開錠したようだ。扉を開けて先生たちが放送室になだれ込む。

「私も入るわ。で、誰がいるの?」

 それがどっこい、不思議なことに誰もいない。放送に使う機械類は動きっぱなしでほんの少し前までここで誰かがこの機器を使って校内放送していた痕跡こそ残っているが、その肝心の犯人の姿がない。

「放送室に窓はある?」

 校庭に面したところに1つだけ。でも鍵が掛かっているし、ここは3階だ。仮にそこから外に出ようものなら地面に向かって真っ逆さま。ベランダはないから壁をつたって隣の教室に逃げ込むことなんて出来ない。

「いったいどういうことよ……」

 きっとおまえさんと同じことを思ったんだろう、先生たちも困惑した様子だ。でもいくら考えてもわからず諦めたように放送室から出て行く。

「萩村さん、もう行きましょうか」

「あ、はい……戸惑いつつ放送室から出るわ。教室に戻る。今度は左奥の階段を使うわ」

 そうかい。んじゃあもう1回《幸運》で判定な。

 萩村 《幸運》50 → 74 失敗

 おっと、失敗かい。じゃあ萩村は教室に戻る途中の階段を下っている途中、背中をトンと叩かれる。階段を下っているときにそんなことをされたら、当然足を踏み外して落っこちまうだろうねい。《跳躍》で判定しな。成功で無傷、失敗でダメージ判定だ。あ、痛い目に遭いたいってんなら振らんでも構わんよ?

「当然《跳躍》するわ! 初期値で25パーセントもある!」

 萩村 《跳躍》25 → 05 クリティカル

「お、クリティカル! 犯人くらいわかるんじゃない?」

 そうだねい。そんじゃあ《跳躍》成功ついでに《目星》成功でわかる情報を公開しようかねい。
 すかさず跳躍し、着地に成功した萩村は自分の背中を押して階段から突き落とそうとした犯人が誰なのかを見るべく振り返る。
 振り返った先にあるのは階段中間地点の踊り場。そこには今朝萩村が目撃したあの影法師がいた。影法師は僅かに目線を動かすとその姿を晦ました。逃げたというより消えちまったという表現が正しいかな。煙のようにフッと消えちまったよ。追跡は不可能だねい。
 さて、この現象を目撃した萩村は0/1の《SAN》チェックだ。

 萩村 《SAN》46 → 10 成功

「特にビビったりしないわね。……ああそうそう。さっき押されたところに何か匂いとかついてない? 《聞き耳》してもいいかしら?」

 ああ、《聞き耳》はしないでいいよい。萩村は叩かれたところから仄かに甘い匂いがすることに気付いた。そいつはやっぱり、おまえさんが不審者を見つけ、そいつがいた場所に残っていた何かの植物の匂いと同じだ。

「やっぱりね。この一連の騒動の黒幕はその影法師と見て間違いはなさそうね。今度こそ教室に戻って2人と合流するわ。情報共有しないと」

 あ、その前にだ。叩かれた場所に匂いが付いていたことに気付いた萩村は0/1の《SAN》チェックだ。

「待ちなさいGM。私は確認するために匂いを嗅いだのよ。文の時とは違ってある程度確信した上で行動したわ」

 それもそうか。んじゃあ正気度喪失はなくていいや。教室に戻るんだっけか? だったら何事もなく2年D組に辿り着いたねい。

「おかえり萩村、どうだった?」

「一言で言い表すことはできないから順番に話すわ。ところで文は大丈夫?」

「は、はい。大丈夫です。あはは」

「空元気だがまぁ、落ち着いてはくれたぞ。おまえは唯一の《精神分析》持ちなんだから頑張ってくれ」

「厳しいですねぇ」

「というわけで私が体験したことを2人に伝えるわ」

 特に正気度喪失は発生しないかな。2人はそれを知った上でロールプレイしていいよ。
 ああそうだ。ここで遊星、おまえさんの携帯のバイブレーション機能が作動した。どうやら誰かからの着信が来ているようだねい。

「スマホを取り出して確認する。誰からの通知が来ている?」

 発信者不明と表示されているから誰から電話が来ているのかはわからないねい。で、どうする? 出るかい?

「明らかに罠だが出よう。ただしスピーカー機能を使って射命丸と萩村にも聞こえるようにする。もしもし」

 遊星が電話に出ると、男の声でこんなことを問いかけられる。

『おまえは予坂の友達だよな?』

「予坂? 誰だそいつは。そんなやつは友達にいないぞ。というかおまえは誰――」

 おっと、遊星がセリフを言い終える前に電話の男が叫ぶように言い放つ。

『そんなはずはない! あれは予坂だ! そうするんだ!』

 ここで電話が切れる。

「なんだったんだ今のは」

「今の男の声に聞き覚えは?」

 あるよ。おまえさんたちが聞こえた謎の声と酷似していたねい。まぁ、そんなことはもう気付いていると思うし、あんまし驚かないだろう。だが電話が切れた後スマホを見た遊星は驚愕に包まれる。あ、スピーカー機能使ってるってことは他の2人もスマホを見てるよねい?
 電話が終わった後に表示される着信履歴欄。そこには『予坂文』の文字がいくつか表示されていた。勿論遊星はそんなやつの電話番号を登録していない。んじゃあなぜ履歴欄にその文字があったのか。簡単さ。なんせ、その『予坂文』の電話番号は友人の射命丸文のものだったんだからねい。

「GM! 私も自分のスマホを取り出して確認するわ! どうなってる!?」

 萩村のスマホも遊星のやつと同様、射命丸文の名前が予坂文の名前に変わっていた。そんな風に登録した覚えも設定し直した覚えもないのに、いつの間にか名前が変わっていたんだ。まるでどこかの誰かが射命丸、おまえさんを『予坂』という人間に仕立て上げようと、じわりじわりと、洗脳するかのごとく働きかけているかのように。
 さぁ《SAN》チェックの時間だ。萩村と遊星は0/1D3、射命丸は1/1D6で判定してくれ。

 射命丸《SAN》50 → 44 成功
 萩村 《SAN》46 → 88 失敗
 遊星 《SAN》57 → 35 成功

「(コロコロ)……1」

「あの一応聞いておきますが、2人とも……わざとやっていませんよね?」

「やるわけないだろうこんなこと。本当にどうなっているんだ。とりあえず今すぐ電話帳を編集して、苗字を射命丸に戻しておく」

「私もそうするわ。そして今のではっきりしたわね。どうやら『予坂』って人間がこの事件のカギを握っていると見て間違いないわ。GM、今は何時かしら?」

 もう少しで昼休みが終わる時間だ……っと、予鈴が鳴ったねい。今まで友達と話をしていたクラスメイト達も自分の席に着き始めたよ。

「それじゃあ調べるのは放課後になりそうね。気持ち悪いし、この事件の犯人をさっさと突き止めちゃいましょうか」

「そうだな。俺も今日はバイトないし、手伝おう」

「ありがとうございます、2人とも」

 よしよし。じゃあおまえさんたちは席に着いたということでいいかね?
 予鈴が鳴るといつも通り、連絡事項を伝えるために担任の先生が入ってくる。担任の先生は岸和田先生。優しく、授業もわかりやすいと評判の数学の男性教師だ。だけど様子がおかしい。いつもの朗らかな愛想のいい笑顔はどこへやら、やけに顔色が悪く、何かに怯えた様子だ。
 教壇に立った先生は手に持っていた出席簿を開いてショートホームルームを始めた。

「ホームルームを始める……前に、だ。ちょっと確認したいことがあるんだ」

 と言って射命丸、おまえさんの方に目線を移す。

「なぁ……おまえの名前なんだがその……予坂、だったよな?」

「!? 《心理学》で判定するわ!」

「同じく!」

「低いが俺も判定する!」

 あーいよ。《心理学》の結果は公開しないよい(コロコロ)……おまえさんたちは明らかに先生の様子がおかしいことに気が付く。操られているというより、おかしなことが立て続けに起きて混乱しているみたいだ。具体的には《SAN》値が5くらい減ってる。

「これは成功したみたいですね。引き攣った表情で返事をします。そんな……私は射命丸です。予坂じゃありません」

 その言葉を聞いた先生はバンッと、手に持っていた出席簿を教壇に叩き付けた。勢いつけて叩き付けられた出席簿は宙を舞い、丁度遊星の席の近く辺りに落下する。
 普段は絶対にそんなことしないはずの先生は見る見るうちに表情が険しくなっていき、身体は震え大声を出してわめき始める。

「そんなはずはない! おまえは予坂だ! そうじゃなきゃダメなんだ!」

 見開かれた両目は血走り、口の端から泡を吹きながら先生は射命丸の座る席まで来ると、射命丸の肩を掴んで強く揺らす。それは射命丸に「自分は予坂です」と認めるように強要している一方で、どうして自分がこんなことをしているのかわからずに錯乱しているかのように見えた。
 温厚な先生の豹変ぶりを目撃したおまえさんたちは《SAN》チェックだ。萩村と遊星は0/1、射命丸は1/1D3の正気度喪失だ。

 射命丸《SAN》49 → 93 失敗
 萩村 《SAN》45 → 93 失敗
 遊星 《SAN》57 → 79 失敗

「うう、正気度がガンガン減っていきます(コロコロ)……うへぇ、3。あと1点で不定の狂気ですね。と、とりあえず動揺しながらも先生を正気に戻しましょう。《精神分析》を先生にかけます!」

 射命丸《精神分析》50 → 18 成功

「よし、成功です。先生落ち着いてください。私は射命丸ですよ? 予坂じゃありません。珍しい名前だなって言ってくれたじゃないですか」

「はぁ……はぁ……そ、そうだな……おまえは射命丸……だったな……はぁ……はぁ……」

「落ち着いたようだな」

 《精神分析》が済んだところで教室のドアが開かれる。すると2人の先生が入ってきた。さっきの騒ぎを聞いて隣の教室からすっ飛んできたんだろう。

「なんですか今の騒ぎは!」

「どうしたんだね!?」

「私が事情を説明するわ。《言いくるめ》と《説得》を併用して使う。両方成功で先生は悪くなく、ちょっと混乱していたように誤魔化す」

 いいだろう。じゃあその2つで判定な。結果次第で先生たちの対応が変わるぞ。

 萩村 《言いくるめ》70 → 89 失敗
 萩村 《説得》70 → 40 成功

 誤魔化しきることは出来なかったが《説得》には成功したか。それじゃあ……駆け付けた先生たちは萩村が担任教師を庇っていることに若干の違和感を抱くも納得はしたようだ。《精神分析》を受けて冷静になったとはいえまだ顔色の悪い担任教師を保健室に連れて行った。
 てなわけで今回はここまでだ。多分あと3話くらいで完結するんじゃないかねい?




     ――To be continued… 
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