提督はBarにいる・外伝
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その頃艦娘達は
「……では、この編成でいいのね?金剛」
「Yes。perfectではないけれど、バランスを考えればMore betterだと思うネ」
出撃前に艦娘達が待機する待機室。そこに金剛の姿はあった。傍らには加賀……提督の信頼が“自分の次”に厚い鎮守府の艦娘達の中の実質No.2。そんな2人が顔を突き合わせて相談していたのは、出撃する艦隊の陣容をどうするか?という事だ。
「第一艦隊は先行して、敵の直俺の艦載機を潰しマス。その上で、適宜『リバースド・ナイン』の動きを牽制しつつ、遊撃。その場に奴を釘付けにします」
「……そこに後続の第二艦隊の火力をぶつける、という訳ね?」
「流石、加賀は理解が早くて助かるネー」
金剛は微笑んでみせるが、加賀はなんとも微妙な表情だ。何しろ、金剛の思考を読んだのではなく『こういう状況下では提督ならばどんな戦略を立てるか?』を考えて発言しただけなのだ。良くも悪くも、金剛の根底には提督の陰がちらつく。戦い方を仕込んだのは提督なのだから当然だろうとは思うが、兵士としての自分ではなく、女としての自分が不満を訴えている。……少し妬けているのだ。離れていても確かな繋がりを感じる2人の関係に。自分の入り込む隙間など、無いと思えてしまうから。
「どしたの?」
「……なんでもないわ」
金剛は加賀に思う所は無い。同じ男に従い、同じ男を愛する者として、姉妹以上に繋がりを感じる時すらある。その為、意識せずに砕けた口調で話しかける事も多い。その度、加賀の顔に陰が射すので心の中では首を傾げているのだが。
「では、出撃メンバーを発表しマース!」
パンパンと手を叩いて待機室にいた艦娘達の注目を集めた上で、金剛は加賀と取り決めた編成表を読み上げた。
第一艦隊……金剛(旗艦)、加賀、赤城、秋月、夕立、神通
敵が空母である事を考えた上で、バランスよく配置をした。総旗艦の金剛は全体の指揮を執る為に必要不可欠だし、制空権を争う為に実力・登載機数の観点から赤城、加賀の一航戦を採用。そこに対空のスペシャリスト、秋月を加えて防空を任せる。負担は大きいが、秋月ならばやってくれるだろうとの判断だ。そして夕立と神通。護衛の居ない空母だからこそ、懐に潜り込んでの近接格闘が出来る者が必要だった。その中でも鎮守府のツートップを持ってきた。対空母戦を想定した、バランスのよい編成といえる。
第二艦隊……武蔵、扶桑、山城、隼鷹、飛鷹、摩耶
第一艦隊に対してこちらは、巡航速度よりも火力を重視した編成である。大和型を2人共投入する事も考えたが、万が一鎮守府が再び狙われる事も想定して攻める方が得意な武蔵のみを採用。足は遅いが火力はある上、水上機である程度の防空が可能な扶桑型の2人の採用もそういった理由からだ。そこに飛鷹型軽空母の2人。正規空母の投入も思案されたが、道中に潜水艦の存在も懸念された為に対潜戦闘が出来る軽空母を採用。エアカバーの層の薄さは、秋月以上の手数が出せる防空巡洋艦の摩耶がフォローする形だ。
指揮艦護衛艦隊……那珂、照月、凉月、瑞鳳、サラトガ、ジャーヴィス
金城提督の乗る指揮艦を護衛する為の艦隊である。先行する第一・第二艦隊に大方の露払いは任せ、航空機と潜水艦からの奇襲に目を光らせる事に重きを置く。その為、対空・対潜を意識した編成になっている。そこに金剛の要請でサラトガとジャーヴィスが加えられている。
大和をはじめとして主力の半数以上は鎮守府に残される形だ。この数でネームレベルを相手にして足りなくはないのか?という懸念もあるが、通常艦隊でも撃沈記録のある相手ならば、大丈夫だろうという判断から二艦隊での攻撃と相成った。それに、可能性は低いが再び鎮守府が狙われる事も想定して、守りも固めなくてはならない。
「那珂ちゃ~ん、ちょっとこっち来るデース!」
皆忙しなく出撃準備を整えていく中、護衛艦隊の旗艦に命じられた那珂が金剛に呼び止められる。金剛は物凄い笑顔である。
「どしたの金剛ちゃ……っぐぇ!?」
那珂はヒキガエルが潰された時のような声を発した……というより、喉から漏れた。目の据わった金剛が左腕で那珂の首を押さえ付け、そのまま壁に密着する。さながら壁ドン状態だが、全く胸キュン出来る状態ではない。むしろ、酸欠で動機が激しくなりそうだ。
「アンタ、解ってるよね?責任重大だよ?」
「ちょ、金剛ちゃ、キャラ違っ……」
「キャラとか今どうでもいいから」
「アッハイ」
「いい?darlingを無事に現場海域まで連れてきて、無事に鎮守府まで連れ帰る事。出来なかった時は……私、アンタを許さないから」
目がマジである。普段は気さくで優しく、陽気な金剛の面影は全く無かった。付き合いの長い那珂でさえ、こんな姿は初めてだった。あまりの怖さにちょっぴりオイル漏れ(意味深)しちゃった位だ。
「イ……イエスマム」
息が出来ない状況では、そう返すのが精一杯だった。
「そう……解ってもらえたならそれでいいネ。お互い頑張りまショウ!」
そういって何事も無かったかのように、笑顔で那珂と握手を交わす金剛。対して那珂は、
『やべーよ金剛さんマジやべーよ、超こえーよ……あ、パンツ替えてきたい』
戦う前から小破してしまっていた(主にメンタルが)。そんな那珂をよそに、出撃メンバーに選ばれた艦娘の準備は着々と進んでいく。艤装への給油と弾薬の装填が終わった物から、順次艦娘への装着に入る。腰椎に取り付けられたアタッチメントに艤装を接続する事で、脳からの電気信号をダイレクトに艤装へと送り込み、加速、減速、操舵、砲塔の旋回などを正に自分の手足のように操る事が出来るのだ。……それぞれ主砲や電探等に憑いている妖精さんの補助なくしては、まともな戦闘は出来ないのだが。
金剛も艤装を装着し、機関始動と念じる。すると自分の体内にある艦霊と艤装が繋がったかのような感覚があり、艤装が重く低い唸りを上げ始める。その僅かな振動を背中に感じながら、舵や主砲、機銃等が自分の思い通りに動くかを確認する。整備班の腕を信頼していない訳ではないが、出撃前にチェックしておかなければ海に出てしまってからでは手遅れだ。他の面々も自分と同様にチェックしているのを確認し、
「準備はOK?」
横に控える他の5人が頷くのを確認し、
「では……第一艦隊、出撃するヨー!」
金剛は勢いよく、大海原へと蹴り出した。
海面は凪、風は微風ながら向かい風。今見える海は静寂そのものだ。しかし、この先には鎮守府を単騎で壊滅させようとした化け物が手ぐすね引いて待ち構えている。ここからは何が起きてもおかしくない、一寸先は闇の航路だ。
「……金剛さん?」
「あぁゴメン、聞いてなかった。それで?」
言い知れぬ不安で頭がモヤモヤしていた所に、神通が話しかけて来ていたらしい。
「偵察機を出そうと思うのですが……宜しいですか?」
「Oh!そうね、まずは私と神通が出しましょう!その次は赤城と加賀。ローテーションを組みマース!」
『リバースド・ナイン』が潜んでいると予想されるおおよその海域の情報は入っている。……が、その海域のどこにいるかは現場の艦隊が見つけなくてはならない。
「では……索敵機、発艦!」
「GO!」
バシュッ、と音を立ててカタパルトから偵察機を射出する。敵よりも先に敵の姿を捉える。それが出来れば先手を取って優位に立てる。カチリと無線のスイッチを入れて、金剛は叫ぶ。
「さぁ……Payback timeネ!」
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