戦国異伝供書
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第二十四話 奥羽仕置きその十一
「だからじゃ」
「そのことはですか」
「そうじゃ、だからじゃ」
それ故にというのだ。
「もうわかっていてじゃ」
「それで、ですか」
「前に部屋を寒くしておった」
信長が来るまで衾も障子も全て開けていたのだ。
「ではここでじゃ」
「風呂となりますと」
「これはよいと思ってじゃ」
「入りますな」
「そこで水風呂にしておくとな」
まさにというのだ。
「かかる、そうなるからな」
「お見抜きで」
「気をつけておった、そしてじゃ」
「まさにですか」
「その通りでな」
それ故にというのだ。
「助かったわ」
「いやいや、殿にはそれがしの悪戯は通じませぬな」
「全く、困った奴じゃ」
「それで、であったな」
今度は柴田が言ってきた。
「わしがお主の頭をしこたま殴ったな」
「いやあ、痛かったですな」
「戒めの拳じゃ」
柴田は慶次に湯舟の中で言った。
「あの時もな」
「他の時もですな」
「お主が子供の頃からな」
「権六殿はそれがしに対しては厳しく」
「当然じゃ」
それはというのだ。
「織田家の者としてな」
「左様でありますか」
「昔からそうしておるのじゃ」
「やれやれですな」
「やれやれではない、殿に水風呂を用意するなぞじゃ」
柴田は慶次に怒った声で告げた。
「普通は切腹では済まぬぞ」
「その場で手討ちですか」
「そうじゃ」
そうなっても文句は言えぬというのだ。
「殿だから事前に気付かれ悪戯で済ませたが」
「それでもですか」
「他の家なら手討ちじゃ」
間違いなくそうなるというのだ。
「わしでもお主が気絶するまで殴っておったわ」
「ううむ、流石は権六殿」
「刀を抜かぬだけましと思え」
その時はというのだ。
「全く、一体幾つまで悪戯をするのじゃ」
「まあ一生傾き続けるので」
「それでか」
「一生するつもりです」
悪戯、それをというのだ。
「これからも」
「全く、お主と言う者は」
「これは童心というものじゃが」
林も慶次にどうかという顔で言う。
「慶次はそれがあまりにもじゃ」
「強いですか」
「天下一の傾奇者になりたいな」
「それがそれがしの願いです」
「だから悪戯もするのじゃな」
童心、それの赴くままにだ。
「そうじゃな」
「今申し上げた通りで」
「全く、どうしたものじゃ」
「お主も大名になれるが」
ここで言ったのは丹羽だった。
「それになるつもりはか」
「大名になれば何かと堅苦しいので」
そのことがわかっているからだとだ、慶次は丹羽にも答えた。
「だからです」
「そのままか」
「旗本のままでよいです」
「だから万石取り、大名にはか」
「はい、どうかと言われましても」
それはというのだ。
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