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蒼穹のカンヘル

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三十六枚目

風呂に入る事になった。

勿論男女別れてだ。

「はふぅ…」

風呂は好きだ。

一人で入ればゆっくりできる。

数人で入れば仲が深まる。

「ん? だれかはいっておるのか?」

え? 誰?

「まぁ、よい。はいるぞ」

入ってきたのは、俺より更に小さい女の子だ。

金髪で、狐耳と狐尻尾……。

あ、この子って確か……。

「んー? 初めて見るのぅ」

「君は……」

「九重は九重という! お主は雷光の『娘』の篝であっておるか?」

「あ、あぁ、俺は篝で合って……」

ん? 今コイツ娘って言わなかったか?

「ま、待て! 俺は!」

「ん? 話なら後で聞こう。せっかく母上がお主と親睦を深めるようにと男湯を貸し切ってくれたからの」

もしかして八坂……

悪戯にしては悪質すぎるぞ…!

もし俺が九重に手を出したらどうするつもりなんだ…!

ん? それとも俺が九重に手を出すような奴なら追い払う気で……って無いか。

体を洗う九重の後ろ姿を見る。

うん。さすがにあの体に欲情すんのは無理。

思考を巡らせていると、隣にチャポと九重が入ってきた。

「く、九重。近い」

「母上にお主と仲を深めるよう言われておる。九重も同年代の友達が居らぬからうれしいのじゃ!」

成る程ねぇ……。

「ところで篝」

「なんだ九重?」

「その羽はどうなっておるのか見てもいいかの?」

「いいよ」

九重に背を向け、翼を広げる。

二対四枚の龍天使の羽だ。

悪魔と堕天使はともかくこの四枚隠せない。

「はわぁ…! さわってもいいかのぅ?」

「いいよ」

九重は嬉しそうに俺の羽に抱きついた。

「もっふもふなのじゃ! 母上の尻尾にも負けず劣らずじゃ!」

それは嬉しい事を聞いた。

九重は一通り羽を触って満足したのか、手を止めた。

「篝。九重ばかり触ってはずるになる。篝も九重の尻尾をさわってもよいぞ!」

九重が背を向けて立ち上がる。

色々見えてるので、羽でそっと湯船に浸からせる。

「俺も触りたいけどねぇ、この手だからさ」

九重に、龍の手を見せる。

鎧のような腕だ。

「むぅ…残念じゃ…。しかし篝は変化を習いにきたのであろう?」

「そうだよ。俺は人間だけど、この体じゃ不便だろうって魔王様がね」

「ふーん…」

九重が頤に手を当てて考え込む。

「よし! 篝よ! 良いことを思い付いたのじゃ!」

「なに?」

「九重の尻尾を触りたいと思うのじゃ! 九重を傷付けず触るにはヒトに変化するほかない!」

「成る程?」

ぴょこっと九重が尻尾を俺に向ける。

「さぁ! やってみるのじゃ!」

目の前には、九重のモフモフの尻尾…。

右手をだして…止める。

触りたい…けど龍の腕じゃダメだ。

傷付けてしまう…!

だから…だから!

「この手が戻らなければ…九重の尻尾を触れない…!」

手が、縮んでいく。

龍の手が、縮んでいく。

刺々しい凹凸が消え、滑らかなシルエットへと変貌する。

やがて、色が変わった。

銀色から、肌色へ。

「や……やった! 変化できた! 人間だ! 人間の腕だ!」

左手も、人間の腕にする。

「く、九重! 本当にさわってもいいか!? 九重のモフモフの尻尾触ってもいいか?」

「勿論じゃ!」

九重の尻尾に、触れる。

ふわふわして、柔らかくて、モフモフだ。

最上級のシルクように滑らかなで、金糸のように輝いている。

「んぅっ…」

「ご、ごめんっ! 痛かったか九重?」

「全然! 篝のさわりかた、優しくて気持ちいいのじゃ!」

「そりゃよかった…」

しばらく九重の尻尾を堪能した後、今度は全身変化をしてみる事にした。

感覚は掴めた。

あとはやるだけだ。

「変化」

肩甲骨が、むずむずする。

翼と尻尾が、縮んだ。

脚も龍の脚じゃなくなった。

首の鱗も肌に沈んだ。

髪は銀のままだが、まぁ、仕方ない。

「やった! やったぞ九重!」

立ち上がり、九重とハイタッチする。

「ん?」

九重の視線がなぜか下へ…………………。

あ。

「ぴゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

一つだけ言っておく。

俺は悪くねぇ。 
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