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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第6章:束の間の期間
  第189話「見えない脅威」

 
前書き
有耶無耶になって終わらせられる会談。
管理局としては助かった一面もありますが、それ以上の難題が増えました。
 

 







       =司side=





「………」

 ……その生放送は、見ていたほぼ全ての人に衝撃を与えたと思う。
 実際、その場にいた人達も驚いていたのだから。

「司、今の……どう思う?」

「今のって……紫陽さんが言っていた事……だよね?」

 アリシアちゃんが、早速私に話しかけてくる。
 少し見渡してみれば、いつもの霊術特訓のメンバーが集まっている。

「うん。幽世と現世の境界が薄れているとか、まだ何かあるとか……」

「……実の所さ、私と奏ちゃんは、皆が一度学校に戻った時に優輝君や鈴さんと一緒に大門があった場所に行ってたんだ」

「……あの時の……」

「その時に、境界が薄れている事は知ってた。……でも、紫陽さん……幽世の神がここまで警戒する程なんてね……」

「知っていた……でも、何も出来なかったって事?」

「時間もなかったし、当初は椿ちゃんと葵ちゃんを再召喚出来るかとか、他の目的もあったからね。後回しにしてたんだけど……」

 様子を見るしかないと思っていた。
 そこへ、幽世側からの“注意するように”と言うお達しだった。

「……いえ、それだけならまだマシよ」

「え……?」

「とこよも、幽世の神も気づいていた。となれば、現世と幽世の境界に干渉する術式ぐらいなら、何とかなるでしょう。お互い協力し合えば、世界の融合は止められるわ」

 鈴さんが、そういう。
 ……確かに、融合だけなら何とかなるかもしれない。
 実際、大門が開いたのも似たような事象だからね。

「……問題となるのは、この現象を引き起こした存在……」

「そう。幽世の神は、そちらで言うロストロギアを持ち込んだ男から聞き出していたわよね。……転移に干渉したって」

「……この状況に誘導した存在がいるって訳ね……」

 ぽつりと呟いた奏ちゃんの言葉を鈴さんは拾う。
 そして、アリサちゃんが理解したように、言葉を続けた。

「境界が薄くなった所までは司達と調査しに行った時にわかっていたのだけど……本当に、突拍子もなく衝撃の事実が判明したわね……」

「そう言えば、さっきそんな事言ってたね……」

 鈴さんもさすがに想定外のようで、片手で顔を覆って溜息を吐いていた。

「……それにしても……これからどうするんだろう……」

「そうだよね……ただでさえ、大門の件でごちゃごちゃしてるのに……」

「これ以上の脅威に備えろと言われても、どうしようもないわよ……」

 すずかちゃんの言葉から、皆に不安が伝播する。
 かくいう私も、十分に不安に思っている。
 これからどうしていくべきか、どうすればいいのか、全く分からなくなってきた。

「(……パンドラの箱は、優輝君にしか解析出来なかった。それに……パンドラの箱が境界を薄くしている原因なら、本当に人智を超えたモノになる)」

 私は私で、一度情報を整理する。

「(優輝君は推測していた。記憶にはない……それこそ、いくつも前の人生で神に関わっていた可能性があると。それが原因で、自分が狙われているかもしれないと。……私は優輝君が悪いとは微塵も思わないけど……)」

 優輝君を標的にしていた可能性があると露見すれば、今まで以上……いや、それこそ管理局からも疑念の目が向けられるだろう。
 優輝君が元凶だと、まるで生贄のように批難の対象にすると思う。

「(……ううん、それは後回し。今は来るかもしれない“脅威”にどうするべきか。パンドラの箱は、以前のあの男と繋がりがあるかもしれない。そもそも、あの男も優輝君そっくりで、何より“造られた存在”だった。……下手人は、同じ……?)」

 断片的な情報が繋がっていく。
 あの男を造った存在。パンドラの箱を仕掛けた存在。
 その二つが線で繋がる。恐らく同じ存在だと、推測とはいえ考えられた。

「(だとしたら、どうすればいいの……?敵は、最低でもあの男と同じ性質……つまり、普通の攻撃は一切通じない……)」

 そう。あの時、あの男との戦いでは、一切攻撃が通じなかった。
 存在の格が違うらしく、優輝君が反動を覚悟してようやく当てられた程だ。

「(……通じるのは、優輝君か、同じような事が出来る私だけ……)」

 無理矢理望んだ効果を引き寄せた優輝君と違い、祈りを実現する私の方が、存在の格を上げる際の反動は少ないだろう。
 でも、そんなのは焼け石に水。
 相手は一人だと考えるのは早計だし、何より攻撃を通じるようにしたとしても、勝てるかどうかは完全に別なのだから。

「(そもそも、今回の事もその存在が誘導した事。……紫陽さんは、転移に干渉した事しか言ってなかった。でも、パンドラの箱みたいなものを仕掛けられたのだとしたら……)」

 そこまで考えてさらに血の気が引く思いをする。
 容易くこの世界に干渉し、状況を誘導したのだ。
 ……その気になれば、さらに酷い状況へと誘導されるかもしれない。

「(私達は、相手の正体を掴めていない。対して、相手側は私達を把握しているかもしれない。……うん、控え目に言って不味いよね、これ……)」

 焦る思いが募る。
 だけど、こういう時こそ冷静に、的確に判断して行動しないといけない。

「(相手の正体は掴めていない。なら、逆に分かっている事は……)」

 分からない事は多い。
 だったら、逆に分かっている事から纏めていけばいい。

「(存在の“格”が私達と違う。最低でも、神と同等以上の……。優輝君の神降しでも通用しなかったから、相応の神としての格も必要かな。そして、何より重要なのは、その“格”に通用する程の“格”を、私達も用意しなければいけないという事)」

 一番重要で、そして一番難しい事でもある。
 何せ、具体的な方法が一切わからないだから。

「(……それに、何故か優輝君をターゲットにしている)」

 理由は分からない。
 でも、優輝君や鈴さんが言っていた通りに、覚えていないいつかの人生で接触があったのだと考えるのが妥当だろう。

「(……最後に、その存在と敵対しているであろう暫定“天使”の存在)」

 こっちもこっちで重要だと思う。
 敵の敵は味方……なんて容易に言えるかは分からない。
 でも、もし味方であれば、敵の情報を知り得るチャンスともなる。

「(帝君が確認した“天使”は二人。その二人はなのはちゃんと奏ちゃんに宿っている。そして、その強さはあの時の男を圧倒的に上回る……うん、味方に引き込みたいね)」

 味方にしたいのは山々。
 でも、二人は多分私達をあまり意に介していない。
 守護者との戦いで、呼びかけても一切反応してくれなかったしね。

「……分かってるのは、こんな所かな……」

 情報は本当に僅かにしかない。
 所謂“見えない脅威”だ。
 でも、何かしら対策はしておかないと、本当に取り返しがつかないかもしれない。
 優輝君程ではないけど、私もこれには嫌な予感がした。

「何がー?」

「あ、アリシアちゃん」

「ずっと考え事してたみたいだけど……?」

 考え事をしながらも、私は行動をしていた。
 衝撃の事実が知らされて、皆浮足が立っている。
 その中でも、私達管理局は復興における支援をしなくちゃいけないからね。
 幸い、簡単な炊き出しの手伝いだったから、ミスするような事は起きていない。
 でも、私がずっと黙っていたからか、アリシアちゃんは気になっていたみたいだ。

「ちょっと、ね。私なりに、紫陽さんの言っていた事整理してたの。……これから来るかもしれない“脅威”とか……」

「……十中八九、前のあの男とかに関係するよね……?」

「アリシアちゃんも、同じ考えだったんだ」

 どうやら、アリシアちゃんも同じ考えに至っていたみたいだ。
 もしかしたら、口に出していないだけで、他にも同じ考えの人がいるかもしれない。

「……関係するなら、非常にまずいよね。これ……」

「うん。攻撃は通じない、正体も分からない、何人いるかも分からない、どれほど強いのかも分からない。……ほとんどの事が分かっていないし、わかっている事だけでも厄介過ぎて……」

「理論上、攻撃を通じるように出来るのは、優輝か司だけだもんね……」

 どれほどの“格”が必要なのか、具体的には分からない。
 でも、優輝君の神降しでは足りなかった。
 少なくとも、私達の最大戦力の一つが、一切通じなかった。
 ……それだけでも、非常に厄介だ。

「……考えるのは、休憩時間にしよう。今は、目の前の事に……」

「……もう、何度も後回しにしてるね……」

「それだけ、切羽詰まってるからね……」

 私も自覚している。次から次へと問題が発生するからと、後回しにしているのは。
 でも、そうでもしないと、すぐにでも私達はプレッシャーに押し潰される。

「深く考えるのは、クロノ君とかが戻って来てからの方がいいかもね」

「確かに。優輝や椿の意見も聞きたいしね」

 私達は所詮一個人でしかない。
 一人一人で考える事には限界がある。
 こういう時は、何人も集まって一緒に考えないとね。

「アリシア!司!早くこっちで手伝いなさい!」

「あ……っと、アリサに怒られちゃった」

「この話はまた後で……だね」

 とりあえずは、私達も手伝いに戻る。
 頭の隅でさっきの事を考えてしまうけど、何とか思考を切り替えてやる事をやろう。















       =エアside=







「……なぁ、エア。これから、どうするべきなんだ……?」

 元気のない声で、マスターは言います。
 それに、私は正確な答えを返す事が出来ません。
 ……それを、歯痒く思いました。

〈私には……分かりかねます。判断材料が、少なすぎるので……〉

「そう、か……」

 幽世の神が言っていた事を気にしているのか、マスターの動きは緩慢でした。
 それだけ、目の前の事に気が入らないのでしょう。

〈マスター、とにかくいつも通りにしてください。私は、貴方の頭脳の代わりでもあります。……考え事は、私に任せてください〉

「……お前が、そういうなんてな。……まぁ、でも、任せる」

 そう言って、マスターは私に考えるのを任せます。

〈任されました。マスターは以前みたいに無駄に元気でいるのがちょうどいいんです。……行動さえ自重していればですけど〉

「もう黒歴史だから思い出させるのやめてくれ……!」

 とりあえず軽口を挟み、私は私で色々シミュレートする事にします。

〈(……人智を超えた干渉。と言った所ですか。転移先を誘導されたとの事ですが、おそらくはそれだけではないはず。……本人が気づいていないだけで、ロストロギアを盗み、地球に持ち込むまでの全てが誘導されていたかもしれませんね……)」

 思考に没頭していく。
 デバイスとして造られたとはいえ、私は人間に酷似した機能を多く備えています。
 デバイスとしても、既存のどのデバイスよりも万能になっています。
 その万能さを活かし、あらゆる観点から、推測を重ねていきます。

〈(それが出来るとすれば、“機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)”のような神か……少なくとも、最高神に匹敵する神、または神々ですね。後は……)〉

 探る。探る。
 あの時、パンドラの箱をマスターに黙って解析しようとした事を。
 おそらく関係があるだろう、以前襲撃して来た男の事を。
 デバイスにあるまじき“感覚”と“直感”で、探る……!

〈(……やはり、同じです。私を造った神と、その存在の“在り方”が)〉

 感覚と言うよりも、朧気にそう思うと言うべきでしょう。
 もはや何の根拠もないが、私にはそう思えました。

〈(……私だけでは限界がありますね。助力を……)〉

 マスターは考えるのに向きません。
 それに、他の方達にも手間を取らせる訳にもいきません。
 ……となれば、助力になりそうなのは……。

〈『エンジェルハート、少しよろしいでしょうか?』〉

『何でしょうか?そちらからコンタクトを取るとは珍しい』

 同じく神によって造られたエンジェルハートが妥当だと考えられます。
 フュールング・リヒトや、シュライン・メイデンでもいいと考えましたが、そちらは元々この世界に存在していたデバイス。
 神に造られたデバイスだからこそ、聞ける意見が欲しいから除外しました。

〈『幽世の神が言っていた件です。……来るかもしれない“脅威”。貴女はどう見ていますか?私は転生させた神に連なる存在だと思いますが……』〉

『……なるほど、その可能性が高いのは同意見です。ただ、同等の力を持っているとしても、その性質はおそらく……』

〈『邪悪なモノ……でしょうね。以前襲撃したあの男の様子からして、まず間違いないでしょう。邪神の類でしょうか……』〉

 具体的な詳細は未だにわからず。
 しかし、私達の創造主に連なる存在だという事は分かりました。

『……一つ、デバイスにあるまじき“感覚”に頼った事ですが……』

〈『言ってください。ただの演算だけでは分からない事はあります』〉

 一つ、エンジェルハートに気になる事があるらしい。
 今は何か些細な事でも助けになるので、私はその事を尋ねます。

『マスターがまだ魅了されていた時の話です。魅了に関して、私でも解析だけはしていたのですが……なんというか、どこか似ているのです。あの男や、パンドラの箱に』

〈『魅了に関しては織崎神夜が持っていた能力だったはず。いえ、正しくは“持たされていた”能力ですが……なるほど、同一犯と言う事ですか』〉

 魅了の力を与えた存在。あの男やパンドラの箱の裏で糸を引いていた存在。
 その二つは同一だと考えるのが妥当でしょう。
 ……ただ、正体に関しては何もわかりませんでしたが。

『もう一つ。こちらは敵には関係ないのですが……』

〈『なんでしょうか?』〉

 まだ気になる事があるらしい。
 ただ、こちらは敵とは関係ない事のようですが……。

『マスターとなのは様が、不可解な言動を取った時の事です。なのは様は分かりませんでしたが、マスターの中から、強い“光”のような力が……』

〈………!〉

 それは、マスター達が“天使”と仮称している存在の事でしょう。
 中から感じられたのは、その存在の力の可能性が高いかもしれません。

〈『“天使”……』〉

『“天使”ですか?』

〈『マスター達が仮称しているだけですが、奏様となのは様に宿っているであろう、別の存在です。その“光”のような力は、“天使”達の物でしょう』〉

『なるほど。確かに妥当な考えですね』

 それにしても、“光”のような力……。
 ますます“天使”らしい特徴が出てきました。

『……気になる事は、これぐらいですね』

〈『そうですか……。やはり、そう簡単にはわかりませんね』〉

 マスターにも言っていましたが、やはり判断材料が少なすぎます。
 情報もごく僅かなため、碌に推測も出来ません。

『お力になれず、すみません』

〈『構いませんよ。……あ、一つ、聞いておきたいのですが……』〉

 ふと、他のデバイスにも聞いておきたい事があったのを思い出します。
 それは、今回とはまた別件ですが、気になっていた事。

『なんでしょうか?』

〈『優輝様が無茶をする時、何か観測しませんでしたか?』〉

『何か……ですか』

 司様を助ける時や、守護者との戦いの時。
 何度も優輝様は無茶をしていました。
 そして、その時に観測した“何か”。
 それは、優輝様からしか観測出来ず、また私が神謹製だから観測出来た事でした。

『……心当たりは、あります』

〈『やはり……しかし、詳細は……』〉

『わかりません』

〈『そうですか……。こちらも同じです。優輝様から“何か”……力のようなものは観測しましたが、詳細も分からず。と言った感じです』〉

 フュールング・リヒトに、一度尋ねた事はありました。
 しかし、彼女は何も観測していないとの事。
 他のデバイスにも尋ねましたが、皆何も観測出来ていませんでした。
 やはり、神に造られたデバイスだからこそ、感じ取れるようです。

〈『私達のように、神に造られたからこそ、観測できる……と言う事は、優輝様も神に関係する何かがあるのかもしれません』〉

『なるほど……こちらでも、少し調べてみます』

〈『お願いします。手間を取らせました』〉

 そういって、通信を切断しました。
 わかる事はほとんどありませんでしたが、それでも収穫はありました。

〈(“脅威”に関しては何も分かりませんが、優輝様に関して……)〉

 関わっていれば、自ずと不可思議な事が判明してきます。
 そして、先程の観測出来た“何か”については、その代表格とも言えます。
 
〈(優輝様……貴方は、一体……)〉

 彼自身だけではありません。
 彼に関わりがあるであろう、“優奈”と名乗った彼女……。
 表に出ている不可思議さでは、彼女の方が上です。

〈(……完全に無警戒になるのは、悪手ですね)〉

 何かがあるのは確実です。
 それが良い結果に繋がるか不明なため、警戒しない訳にはいきません。

〈(尤も、今は見えない“脅威”への対策が先ですが……)〉

 デバイスでありながら、次から次へと舞い込む問題に憤りすら感じます。
 しかし、マスターのためにも、何かしらの対策を考えなければ……。

















       =緋雪side=





「……皆、凄い慌てていましたね」

「まぁ、まだ危険に晒されるかもしれないと言われればね。信じない奴はこの際どうでもいいけど」

「それはそれでどうかと思うけど……」

 現世に届けていた術式を破棄した後、私達はそんな会話をしていた。

「……お兄ちゃん……」

「お兄さんが気になるの?」

「うん、ちょっとね……」

 映像越しに、私はお兄ちゃんを見ていた。
 最初は会釈したりしたけど、すぐに異常に気付いた。

「(……感情が……)」

「……感情を失ってたね」

「っ……!」

 私が考えた事を見抜くように、とこよさんは言った。

「……気づいてたんですね」

「まぁ、色んな式姫を見てきたから、観察眼はあるよ」

「(この分だと、紫陽さんも気づいているだろうなぁ……)」

 お兄ちゃんの異常。
 それは感情の喪失だった。
 紫陽さんが喋っている間、何度かお兄ちゃんを見たけど、明らかに感情がなかった。
 いくら境界が薄くなっていた事を知っていたとしても、あんな無表情にはならない。

「……一体、どれほどの無茶を……」

 いつ無茶をしたのかは、すぐに分かった。
 とこよさんと……大門の守護者と戦っている時だ。
 あの時、お兄ちゃんは導王流の極致に至った。
 でも、それまでも無茶していたのもあって、代償として感情を……。

「………」

「緋雪ちゃん……」

 悔しい思いが、胸中を駆け巡る。
 お兄ちゃんが極致に至った時、私は(シュネー)の時のようにはしゃいでいた。
 でも、その裏でお兄ちゃんは大きな代償を支払っていたのだ。
 ……その事に気付けていなかったのが、恥ずかしい。そして、悔しかった。

「……でも、どうして感情なのかな?」

「え……?」

「普通、代償っていうのは生贄みたいなの以外は互換性があるんだよ。分かりやすいので言えば、体を酷使すると、その酷使した部分が痛くなったりね」

 筋肉痛とか、そういうものに近いのだろう。
 確かに、とこよさんの言う通り、互換性はない。

「生贄以外は……」

「……そっか。考えてみれば、そうなるね」

 でもそれは、生贄以外の話。
 つまり、お兄ちゃんは生贄のように、感情を犠牲にしたのだ。
 同じように、私も片腕を犠牲にして大魔法を使っていたからね。
 あれも互換性はないけど、生贄のように片腕を代償としていた。

「でも、それでも感情を犠牲にするなんて……」

「……お兄ちゃん……!」

 心苦しさで、涙が出てくる。
 そんな事になるまで、お兄ちゃんは無茶し続けたんだ。

「とこよさん……!」

「……方法はあるよ。でも、誰が緋雪ちゃんの現界を維持するの?」

「ッ……!」

 “現世に行きたい”。そうとこよさんに言外に伝える。
 でも、その方法は厳しいと言われる。

「……方法は、あるんですね?」

「うん。式姫召喚を使えばいいんだよ。椿ちゃんと葵ちゃんを再召喚していたし、召喚するための環境は整っている。後は、緋雪ちゃんを式姫として召喚すれば終わり」

「……その維持の方法が、ない……」

 式姫を使役するには、霊力の持ち主と契約する必要がある。
 主がいなければ、はぐれの式姫と扱われ、霊力が枯渇すると、幽世に還ってしまう。
 使い魔や守護獣と似たようなものだ。

「でも、召喚自体は出来るんですよね?じゃあ、後は誰かと……」

「こっちから召喚しても意味ないよ。向こうから召喚してもらわないと。……守護者との戦いは、本当に特例だったんだよ」

 聞けば、守護者との戦いでの私は、苦肉の策のようなものだった。
 幽世から現世に幽世側から召喚しているため、霊力の供給も乏しく、さらには長時間現界し続けると、それこそ均衡を崩してしまう。
 だからこその、時間制限だったとの事。

「特に、今は異常事態。普通の召喚すら、無闇に試せないしね……」

「……そう、ですか……」

 結局、無闇に私が現世に行く事は許されないらしい。
 ……まぁ、本来死人の私が行く方法があるだけ、有情なんだけどね……。

「二人共、何やってるんだい!?こっち来て流れ着いてきた奴らの世話をしないと!」

「あ、ごめん!すぐ行くよ!」

「すみません!」

 紫陽さんに怒られ、私達はすぐに移動する。

「とりあえず、今は向こう側も警戒するように伝えられただけマシだよ」

「……はい」

 今は、とこよさんや紫陽さんにすら予想だにしない事が起きている。
 お兄ちゃんの事も気になるけど、状況としてはこっちの方が深刻だ。

「(現世と幽世が一つになってしまった時、一体何が起こるの……?)」

 均衡が崩れる事なく二つの世界が一つになろうとしている。
 それを止める術がない訳ではないらしいけど、その方法が使えるとも限らない。
 明らかに人智を超えた何かが干渉している。
 ……それが、とこよさんや紫陽さん、そして式姫達が出した結論だった。

「(……お兄ちゃん……)」

 不安の中、思わず心の中でお兄ちゃんを呼ぶ。
 無茶をして、大きな代償を支払っていたお兄ちゃん。
 ……でも、どうしてかな……?













 ……それでも、お兄ちゃんは“可能性を開いてくれる”。そんな気がするんだ。





















 
 

 
後書き
珍しくデバイスのエア視点。
神様謹製&インテリジェントデバイスなので、帝の頭脳の代わりを担っています。
と言うか、せっかくの神様謹製なので、出番を与えたかった……。 
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