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永遠の謎

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85部分:第六話 森のささやきその八


第六話 森のささやきその八

「そして演出はです」
「誰が務めるのですか?」
「ワーグナー自身が」
 他ならぬだ。彼自身がだというのである。
「彼自ら申し出ました。そして私はです」
「それを認めたのですね」
「彼の芸術は彼が最もよく理解しています」
 だからだというのである。
「ですから」
「ワーグナーに入れ込んでいますね」
「入れ込んでいますか」
「貴方らしいです」
 皇后はそれは認めた。だが、だ。ふとそのあまりにも美麗な、絵画を思わせる目に憂いを含ませてだ。王に対してこう話したのであった。
「ですがその貴方らしさが」
「私らしさが」
「よくない結果にならなければいいのですが」
 こう言うのであった。
「それを思います」
「何故かよく言われます」
 それを否定しない、できない王だった。それで今こう言うのだった。
「誰からも」
「思うことは同じなのですね」
 そう聞いてだ。皇后もその整った目に悩ましさを含ませて述べた。
「誰もが貴方を」
「私を」
「心から心配しているからこそ」
 だからだというのだった。
「それでなのです」
「心からですか」
「はい、そうです」
 まさにその通りだった。
「貴女は人を惹き付けずにはいられない方です」
「私は。その様な」
「いえ、それはその通りです」
 皇后だけではないというのだ。確かに王は魅力に溢れている。その容姿だけでなく気品に人柄に。そうしたものによってである。
 それを今その目で観ているからこそ。皇后は王に対して語るのだった。
「貴女は誰もに見られる方なのです」
「誰もに」
「そして誰もに愛される方なのです」
「見られ愛される」
「そうした方です。だからこそ」
「気遣ってもらえるのですね」
「それはとても幸せなこと」
 皇后は述べた。
「忌み嫌われるよりも」
「それはですか」
「はい、そうです。ですが」
「ですが、ですね」
「貴方のその貴方らしさが」
 話が戻った。そちらにだ。
「純粋さと無垢さが。貴方であるのですが」
「それによってですか」
「貴方がその気遣いと目に耐えられれば」
 皇后の目には今度は悲しさが宿った。
「私は。できませんでした」
「だからこそ旅を」
「はい。宮廷のこともありますが」
 言外にあった。彼女はどうしてもなのだった。ウィーンの宮廷に馴染めないでいた。表向きはそれが彼女の旅の理由だとされていた。
 しかしだ。ここで彼女はだ。こう話すのだった。
「ですが私は」
「それ以上にですか」
「貴方には言えます。私は人の視線と心がです」
 皇后ならばば。そこから逃れられない。人の視線も心もいやおうなしに集まる。それが皇后、このエリザベートの悩みなのだった。
「どうしても。耐えられなく」
「私もまたそうなると」
「ならなければいいのですが。今の貴方には」
 従弟を見続けている。そのうえでの言葉だった。
「あの芸術家が常に傍にいることが」
「今の私の全てです」
「それが最後まで適うことを願います」
 彼の為にであった。その彼のだ。
 
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