永遠の謎
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78部分:第六話 森のささやきその一
第六話 森のささやきその一
第六話 森のささやき
ビスマルクは首相官邸においてだ。鷲鼻の痩せた顔の男と向かい合ってそのうえで食事を摂っていた。見ればその男は厳しい、独特の灰色の軍服を着ている。乗馬のそれを思わせるズボンと黒いブーツがよく似合っている。
その彼がビスマルクと共にいる。だが彼は話そうとはしない。
しかしだ。ビスマルクが先に口を開いてきた。
「参謀総長はこの料理がお好きか」
「牡蠣ですか」
「そうだ。それは好きか」
見れば二人は今生牡蠣を食べている。殻から出したそれを食べながらだ。ビスマルクはこうその男モルトケに対して問うのであった。
「牡蠣は」
「嫌いではありません」
モルトケは静かにこう返した。
「私もまた」
「そうか。それは何よりだ」
ビスマルクは彼の今の言葉にまずは微笑んだ。そしてであった。
自分の皿の上の牡蠣は全て食べ終えた。そのうえで周りの者に言うのだった。
「お代わりだ」
「わかりました」
こうしてだ。すぐに別の皿から牡蠣が出された。見ればその殻から出した牡蠣にはレモンが添えられている。すぐにそのレモンが絞られ牡蠣の上にかけられる。
それを見ながらだ。ビスマルクは満足した顔で言うのだった。
「牡蠣はいい」
「そういえば宰相殿は」
「前にあれだったな」
モルトケの言葉に応えてだ。楽しげに話しはじめた。
「百個食べたことがあったな」
「それ以上だったのでは?」
「百七十個程だったか」
それだけ食べたというのである。
「あの牡蠣は実に美味かった」
「成程、そうでしたか」
「それでだが」
一旦シャンパンを飲んでからだ。ビスマルクはモルトケに対してあらためて言ってきた。
「一つ聞きたいことがあるのだが」
「シュレスヴィヒとホルシュタインのことですね」
モルトケはすぐに答えたのだった。
「あの場所のことですね」
「話が早いな。その通りだ」
「オーストリアと共に介入する」
モルトケは淡々とした口調で話していく。
「そうされるのですね」
「準備はできているか」
「はい」
即答であった。
「何時でも」
「早いな」
「何時何があるかわかりませんから」
これがモルトケの返答であった。
「ですから」
「有事は何時でもだな」
「その通りです。それで閣下」
「何だ」
「戦争をされても。オーストリアはいいのですが」
「わかっている。あの国だな」
ここでだ。彼は言った。
「バイエルンのことだな」
「その通りです。あの国はどう動くでしょうか」
モルトケは冷静な顔で問うた。戦争はプロイセンとオーストリアだけでやるものではない。彼はただの軍人ではないのであった。
政治もわかっている。だからこその言葉であった。
「私が思うにはだ」
「どう思うか、バイエルンについて」
「カトリックです」
それが大きいのだった。カトリックであることがだ。
「オーストリアと同じ」
「そうだな。それに対して我がプロイセンは」
「プロテスタントです」
この二つが大きかった。実にだ。宗教はこの時代においても大きな意味を持っていた。ドイツはそういった意味では三十年戦争の頃から変わってはいなかった。
「その二つの問題があります」
「この二つだな」
「そうだ、その二つだ」
ビスマルクもだ。それがわかっているのだった。
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