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永遠の謎

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75部分:第五話 喜びて我等はその十三


第五話 喜びて我等はその十三

 だからこそだ。彼もまた今それを話すのだった。
「その彼の芸術を理解して護るバイエルン王はだ」
「正しいのですか」
「今は」
「そうなのですか」
「それがわかる者は少ない」
 遠い目をしていた。彼にしては珍しくだ。
「このドイツにもな」
「少ないですか」
「ではミュンヘンにもそれがわかる者は」
「少ないのですね」
「私はわかるが」
 彼自身はだという。しかしその顔は苦いものだった。
「他にわかる者はだ」
「誰でしょうか、他には」
「それがわかる方は」
「どなたが」
「オーストリア皇后か」
 エリザベートだというのだ。ビスマルクもまた彼女を知っていた。
「ワーグナー自身の他には」
「あの方とだけですか」
「三人だけですね」
「それだけなのですね」
「それがあの方にとっての不幸にならなければいいが」
 バイエルン王をだ。心から気にかけての言葉であった。
「本当にな」
「閣下、まさか」
「まさかと思いますが」
 そしてビスマルクの今の言葉と表情でだ。官僚達も気付いたのであった。
 それで懸念する顔になってだ。その彼に問うた。
「閣下はバイエルン王は」
「お嫌いではないのですか?」
「むしろ好きだ」
 そうだというのだった。
「好きだ。よい方だ」
「そうなのですか」
「よい方なのですか」
「そう言われますか」
「人柄だけではない」
 それに止まらないというのだ。
「資質も素晴しい方だ」
「王としての資質もですか」
「それもまた、ですか」
「素晴しい方ですか」
 彼等は驚きを隠せなかった。ビスマルクの人物評は辛辣なことで知られているからだ。無論彼等もそれを知っている。しかしなのだった。
 今ビスマルクはだ。明らかに好意を見せていた。そしてそのバイエルン王に対して高い評価を見せているのであった。
 そのことに驚きながらだ。彼に問うのだった。
「ワーグナーを見つけたからですか」
「だからこそですか」
「ワーグナーはドイツの芸術を永遠に輝かせる者だ」
 ビスマルクはこう言ってワーグナーを高く評価する言葉も出した。
「その彼を護っていることは素晴しい」
「だからですね」
「それでなのですね」
「それであの方を」
「だが違う」
 それとは違うというのであった。
「それとは違うのだ」
「といいますと」
「どういうことでしょうか」
「あの方自身にあるものだ」
 それだと。ビスマルクは話した。
「それこそがだ」
「王としての資質ですか」
「それなのですね」
「カリスマもある」
 王のそうしたところも認めている彼だった。
 
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