永遠の謎
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73部分:第五話 喜びて我等はその十一
第五話 喜びて我等はその十一
「歴史がだ。あの宮廷を縛り付けているのだ」
「神聖ローマ帝国皇帝であったその歴史がですか」
「そして今も皇帝であるということがなのですね」
「そうしたことが」
「そうだ。ヴィッテルスバッハもそうだが」
バイエルン王家も神聖ローマ帝国皇帝だったことがあるのだ。だがおおむねにおいて神聖ローマ帝国皇帝といえばだ。ハプスブルク家に他ならなかった。
王はこのことは誰よりもよくわかっていた。わかり過ぎる位にだ。だからこそ今言うのだった。
「縛られてしまうのだ」
「エリザベート様には合わないですか」
「あの宮廷は」
「結論から言おう」
王はまずはこう言葉を置いてから述べた。
「合いはしない」
「やはりですね」
「それは」
「どうしてもだ。それが運命だとしたら」
王はここでも遠いものを見る目で話していく。
「シシィにとっては悲劇だ」
「その通りですね」
「それにつきましては」
「あの時会ったが」
王の顔は曇ったままだった。
「皇帝陛下との仲は決して悪くはない」
「それ自体はなのですね」
「良好ですか」
「そうなのですか」
「あの皇帝陛下は」
フランツ=ヨーゼフ帝である。言わずと知れたオーストリア皇帝にしてそのエリザベートの夫である。ハプスブルク家の主でもある。
「悪い方ではない」
「かなり生真面目な方と聞いていますが」
「しかも質素だと」
「その通りだ。贅沢も好まれぬ」
王もそのことはわかっているのだった。
「そしてだ」
「そしてですか」
「何かがあるのですね」
「そうだ。人間としても素晴しい方だ」
そうであると。王は話す。
「温厚でだ。道を踏み外す様なことはされない」
「しかしその方と愛し合っていてもですか」
「それでのなのですね」
「宮廷とは」
「そうだ。ウィーンの宮廷とは合わないのだ」
やはりそうだというのである。
「それが問題なのだ」
「エリザベート様も苦しいところですね」
「ここは」
「どうされるべきか」
「私も何かと話を聞きたいが」
そのエリザベートの話だというのだ。
「少なくとも今の私はだ」
「はい、陛下は」
「どうなのでしょうか」
「ワーグナーがいてくれている」
その彼がだというのである。
「彼の芸術がだ」
「陛下を励まされていますか」
「その御心を」
「心だ。ワーグナーの心だ」
彼の心でもあるというのだった。
「それが素晴しい。何時までもワーグナーの芸術を傍に置いておきたいものだ」
これが彼の心からの願いだった。それが何時までも果たされることを願っていた。しかしであった。
ベルリンにおいてだ。ビスマルクは首相官邸においてだ。官僚達の話を聞いていたのだった。
「それではだ」
「はい、左様です」
「そうなっています」
「ミュンヘンでは」
「ワーグナーの話は聞いていた」
ビスマルクは己の机に座りその上に置かれている様々な書類を見ながらだ。そのうえで官僚達に対してこう返したのであった。
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