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永遠の謎

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71部分:第五話 喜びて我等はその九


第五話 喜びて我等はその九

「そうでなければわかりはしないものだ」
「では。その音楽もまた」
「聴かれるのですね」
「舞台と共に」
「舞台もだ。ワーグナーは目にも訴えるものだ」
 舞台そのものにも非常な魅力があるというのであった。王はここでだ。あのローエングリン、そしてタンホイザーについて語るのであった。
「白鳥の騎士が水の世界から白鳥に曳かれた小舟に乗り現れる」
 そこに見る色は。
「青の中に。白銀の彼が出て来るのだ」
「その白鳥の騎士が」
「清らかなる姫を救いに」
「そうだ。そしてタンホイザーだ」
 この騎士についても語る王であった。
「あの騎士もまた」
「あの騎士は」
「どの世界にいた時でしょうか」
「ワルトブルグもいい」
 第二幕のだ。歌合戦の場であった。チューリンゲンにある城である。
「だが私は第一幕も好きだ」
「ヴェーヌスベルグ」
「あの場ですね」
「美しい」
 王のここでの言葉は一言だった。
「幻想の美がそこにある」
「地下の泉の中で踊る精霊達ですね」
「そして恋人達」
「泉の青と洞窟の白。花々の赤の中で」
「ヴェーヌスの世界の中で」
「あれもまた現実のものとは思えない」
 ここでもこう言う王だった。
「ワーグナーは。夢にあるものを現実に出せる芸術家なのだ」
「それができる数少ない存在ですね」
「まさに」
「そういうことだ。だからこそ」
 王は言う。
「私は彼の全てを愛するのだ」
「愛するとは」
「まさか」
「勘違いすることはない」
 同性を愛する王はだ。ここで己の言葉への誤解を解いた。そうしてだった。
「私は彼にはそうした愛情は抱いてはいない」
「といいますと」
「その愛情は」
「何だというのでしょうか」
「心だ」
 それだとだ。王は語った。
「私は彼を心で愛しているのだ」
「心で、ですか」
「それによってですか」
「彼を」
「そうだ。私は心で彼を愛している」
 王はまた言った。その中に静かだが深く熱いものを感じながらだ。そのうえで述べたのである。
 そしてであった。王はある人物の名前を出してきたのだった。
「そう、彼女と同じだ」
「彼女といいますと」
「あの方ですね」
「そうなのですね」
 周りの者達もだ。それでわかったのだった。
「エリザベート様」
「あの方ですね」
「あの方と同じですか」
「シシィ」
 王はその名前を出した。
「彼女と同じだ」
「そのエリザベート様ですが」
「あの方は旅を続けられています」
「今もです」
「欧州の各地を」
 そうしているというのである。そしてそれを聞いてだ。王も悩ましげな顔になってそのうえでだ。憂いに満ちた声で話してきた。
「ウィーンの宮殿から離れられてです」
「そうされています」
「残念なことだ」
 王はその憂いに満ちた声で言った。
 
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