永遠の謎
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68部分:第五話 喜びて我等はその六
第五話 喜びて我等はその六
「では彼に批評されてか」
「それで嫌っているというのか」
「ではそれは」
「個人的怨恨か」
「それによって嫌っているのか」
ワーグナーのこのことについても考えられたのだった。
「あまり褒められたものではないな」
「いや、あまりどころではないぞ」
「とんでもない話だぞ」
「そうだ、金銭問題や女性問題と並んでだ」
「ワーグナーの由々しき点だ」
とりわけそのユダヤ系の者達、ミュンヘンにも多くいる彼等が危惧を覚えたのであった。
「そうした人物か」
「音楽はいいとして」
「とんでもないことにならなければいいがな」
「いや、なるぞ」
「必ずなるぞ」
こうも話されるのだった。
「このままではだ。陛下はワーグナーに心酔しておられる」
「そしてワーグナーは遠慮を知らない」
「だとするとか」
「充分以上に有り得るか」
「このままでは」
「どうすればいい、それでは」
ここまで話されたうえでだった。具体的にどうすべきかという話になった。
「あの男については」
「取り返しのつかないことになる前に」
「何をすれば」
彼等は真剣に危惧を覚えていた。ワーグナーのその人間性から来る問題とそれを原因として起こるかも知れない騒ぎにだ。しかしであった。
王はだ。全く動じてはいないのだった。それを聞いてもだ。
「そうか」
「えっ、そうかとは」
「あの」
「それがどうかしたのか」
こう言うだけであったのだ。
「全ては」
「しかしです。陛下」
「金銭だけでなく」
「女性も」
「それにユダヤ人嫌いもです」
「問題ではありませんか」
「それもかなり」
「金銭については最早何の問題もない」
王はまずこのことについて述べたのだった。
「私が全てだ」
「受け持たれるのですね」
「そちらは」
「そうだ、それは全て私が援助する」
ワーグナーの借金や生活のことはというのだ。全てだったのである。
王についてはそれはだ。実に下らないことだった。金のことはだ。
「そんなことはだ」
「何でもありませんか」
「彼の浪費癖は」
「借金も」
「個人のことなぞどうとでもなる」
王はまた答えた。
「大した問題ではない筈だ」
「確かに。その通りですが」
「それは」
「個人のことなぞ」
「そうだ。何ということはない」
王の言葉はここでは変わらない。全くである。
「偉大な芸術家一人を助けることなぞ。バイエルンにとってはな」
「ではそれについてはですね」
「何ともないですか」
「全く」
「しかしです」
「女性は」
「噂ではないだろうか」
王は金銭以上にだ。女性については素っ気無いのだった。
その理由もだ。王も話すのだった。
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