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永遠の謎

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66部分:第五話 喜びて我等はその四


第五話 喜びて我等はその四

 だが今は会えない。王は仕方なく自室に入りそこで一人黙々と本を読んだ。読むのはワーグナーの本、彼にそこで会うのだった。
 場所は大広間である。青の綾錦が壁を飾り黄金の装飾はバロック様式のものである。その二色が大広間を飾っていた。
 まさに宮殿であった。それもルイ十四世のそれを彷彿とさせながらそのうえで青い静かな美しさもたたえた。ワーグナーは今そこに入ったのだ。
「間も無くです」
「王がなのですね」
「はい、来られます」
 男爵がワーグナーに告げていた。
「もう暫くお待ち下さい」
「時間をこれだけ長く感じたことはありません」
 黒い礼服に身を包み白いネクタイの姿でだ。ワーグナーは言うのであった。
「まことに」
「そこまで思われていますか」
「はい、バイエルン王が私に会われる」
 そのことを思うとであった。そうならざるを得なかった。
「夢ではありませんね」
「はい、これは現実です」
 何度目かのやり取りであった。
「ですから。御安心下さい」
「わかりました」
 ワーグナーは男爵の言葉に頷いた。そうしてであった。
 暫くしてであった。大広間に控える侍従長が言った。
「陛下が来られます」
 それを聞くとだった。控えている他の侍従も兵達も姿勢を正す。無論男爵もだ。
 ワーグナーもまだ反射的に姿勢を正す。そうしてであった。
 青と白の見事な服を着た長身の王が姿を現した。彼は静かに玉座に座る。そうしてそこからワーグナーを見て言うのであった。
「リヒャルト=ワーグナー」
「はい」
「ようこそ、バイエルンに」
 微笑んで親しげに声をかける。
「私は貴方を待っていました」
「有り難き御言葉」
「では」
 ワーグナーの言葉を受けてだ。王はさらに告げた。
「傍に」
「王のお傍に」
「はい。では接吻を」 
 王は立ち上がりそのうえでワーグナーを迎える。ワーグナーはぎこちない動きで王の足下に向かいそこに跪く。そして差し出されていたその右手に接吻するのだった。
 これが二人の運命の出会いであった。王はすぐにワーグナーに見事な屋敷と年金を与えそのうえで借金を肩代わりすることを取り決めた。即ちワーグナーの全てを支えることにしたのである。
 そのうえでだ。王は周りの者達に話すのだった。
「私の夢が適えられた」
「ワーグナー氏と会い」
「そしてですね」
「彼と出会えてどれだけ嬉しいか」
 恍惚として語るのだった。
「言葉では到底言い表せない」
「そこまで思われていますか」
「今日の出会いを」
「そこまで」
「思わないではいられない」
 これが王の今の言葉だった。
「まことにな」
「それでは陛下」
「これからもワーグナー氏とですか」
「御会いになられますね」
「会わないではいわれない」
 王はこうも言った。
「とてもだ」
「左様ですか。それでは」
「これからもですね」
「ワーグナー氏の音楽も」
「それもだ」
 王の言葉が続く。
「全てを愛さずにいられない」
「では陛下。明日にでも」
「ワーグナーとまた話したい」
 話もだった。彼は望んでいるのだった。彼の運命の出会いは果たされたのだった。
 
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