悲しい浪漫西
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第一章
悲しい浪漫西
ある話を聞いた、それはとても悲しい物語だった。
恋人が他の相手のところに行ってしまって何とか自分のところに留まって欲しいと懇願したけれどそれは適わなかった、そうして彼は恋人と別れることになった。捨てられる形で。
中原中也のその話を聞いてだ、私はその話をしてくれた友人に言った。
「教科書の写真では凄い美男子なのにね」
「ええ、頭もよくてね」
「それでもなのね」
「恋人には振られてしまってね」
「その恋人が行った場所は」
「そう、小林秀雄の下よ」
あの文壇でかなりの影響を持っていた文芸評論家と聞いているけれどまだこの人の本は読んでいないのでどうも言えない。
それで今は置いておいてだ、私は友人にその小林秀雄のことを聞いた。
「何が凄い人みたいね」
「ええ、保守論壇の大物でね」
友人はこう私に答えてくれた。
「もうその教養と文章が凄くて」
「そんなになの」
「いや、これお父さんに言われたのよ」
「小林秀雄がそうした人だって」
「何でも高校生が詠むには教養が足りないって言われたの」
高校生が備えている教養では読めない様な文章を書いている人だというのだ。
「けれど吉本隆明は読まなくて構わないけれどね」
「小林秀雄って人はなの」
「詠むといいって言われたは」
「そうなの」
「それでその小林秀雄って人のところにね」
「中原中也の恋人が行ったのね」
「何かあまり生活力のない人で」
どうも女優だったらしい、その女優の人と十代で同棲するとか一体どんな不良少年なのかもともここで考えた。
「色々あったみたいよ」
「というかあれ?」
私はその中原中也の詩集、文庫本のそれを手に教室で私の席のところに来て話をしてくれている友人に言葉を返した。
「その人イケメン好きで」
「今で言うとそうね」
「中原中也はイケメンだったし」
写真を見るとかなりのものだ、何でも背は当時でもかなり小さかったらしいけれど美男子なのは確かだ。
「その小林秀雄って人も」
「これがね」
友人は私に小声で囁く様に言ってきた。
「若い頃の写真見たらね」
「イケメンだったの」
「そうだったの」
「そう、しかも東大のフランス文学科よ」
「うわ、文学青年だったの」
「中原中也さんと同じタイプでしょ」
言われてみれば同じだ、中原中也もフランス文学でランボーの詩集を翻訳しているし今の東京外国語大学のフランス語学科を卒業している。
「それでね」
「いいかもって思ってなの」
「小林秀雄さんのところに走ったそうよ」
まさにというのだ。
「それでね」
「中原中也は失恋したのね」
「相当に堪えたそうよ」
「そうでしょうね、失恋ってどうやらね」
私はその経験はまだない、けれど知り合いにそれをずっと囃し立てられてもう二度と恋愛なんかしないと言ってずっと一人の人がいる。
その人のことを想いつつだ、私は友人に話した。
「物凄く傷つくらしいから」
「そう、だからね」
「中原中也も傷ついたのね」
「それで傷ついてね」
「今もお話に残ってるのね」
「そうなの」
実際にというのだ。
「これがね」
「何かね、悲しいし」
私は中原中也の身になって思った、小林秀雄のことは知らないのでそれでついつい彼の身になって思ったのだ。
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