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永遠の謎

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623部分:第三十五話 葬送行進曲その二十二


第三十五話 葬送行進曲その二十二

「私が旅に出るまでにすべきことは」
「パルジファルを観ることが」
「それが遂に終わりました。ワーグナーは私に全てを見せてくれました」
 そのことに感謝しつつだった。
「では最早です」
「アルプスに戻られてですか」
「旅に向かいます。ではフラウ」
 コジマをそう呼び。そのうえで告げる言葉はこれだった。
「バイロイトをお願いします」
「マイスターの世界をですね」
「ワーグナーの世界を御護り下さい。そう」
 コジマにだ。言った言葉は。
「女性的なものにより」
「それがマイスターの世界の中心だからですね」
「女性的なものによる救済は護られなければなりません」
 王の考えだった。ワーグナーに対する。
「その為にも」
「ですがバイロイトは」
 バイエルンにある。それならばというコジマだった。
「陛下のお国ですが」
「そうですね。しかしです」
「しかしですか」
「バイロイトの芸術には巫女も必要なのです」
 宗教的なものはそこにあるというのだ。ワーグナーの芸術には。
 そしてその巫女は誰なのか。王は今言うのであった。
「それこそがです」
「私なのですか」
「だからこそです。バイロイトを御護り下さい」
「わかりました。それでは」
「バイロイトはお任せします」
 まるで遺言の様に。王はコジマに告げた。
「それではです」
「陛下はアルプスにですか」
「帰ります。そしてそこから」
 ここでもだった。遠くを見る目になりそのうえでだ。王は話すのだった。
「旅に出ます。あの城に赴く旅を」
 カーテンコールは今は目に入っていなかった。王は王が辿り着くその世界を見てだ。そのうえで舞台の余韻も感じていた。この世に戻る前に。


第三十五話   完


                2011・11・28
 
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