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永遠の謎

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621部分:第三十五話 葬送行進曲その二十


第三十五話 葬送行進曲その二十

「ヴェーヌスですね」
「そうです。マイスターはまた仰っていました」
「クンドリーは実は」
「ヴェーヌスでありエリザベートであると」
 タンホイザーの二人のヒロインだ。愛欲の女神と清純な乙女、その二人がだというのだ。
「クンドリーはそれだと仰っていました」
「その通りです。クンドリーは二つの存在が一つになったものです」
「不思議な存在ですね」
「はい、非常に」
 まさにそうだというのだ。
「マイスターも御自身でよく仰っていました」
「クンドリーのその不思議さを」
「そして。今こうしてですね」
「私の前に現れました」
 そのクンドリーが接吻をするとだ。パルジファルは。
 目覚めた。そしてなのだった。 
 何もかもが見える様になった。口調も変わり歌うのだった。その彼を見てだ。
 王はだ。静かに言ったのである。
「全てのはじまりです」
「今こそが」
「私はこの時からはじまったのです」
「出会いからですか」
「はい、クンドリーではなくローエングリンでしたが」
 この話はコジマにもわかった。だが深くはなかった。
 しかし王はそのコジマに対してだ。こう話すのだった。
「私は全てを知り、そしてはじめたのです」
「そのうえで今に至るのですね」
「まだ聖杯城には辿り着いていません」
 それが今の王でありパルジファルだというのだ。その王の前でだ。
 パルジファルは虚構の城を崩した。投げられた槍をその手に掴んで。
 槍はロンギヌスの槍だ。その槍を振ったのだ。
 それによって虚構の世界が崩れる。それが終わってからだ。
 パルジファルはクンドリーに対して宣言するのだった。
「何処に行けば私に会えるかわかっていよう!」
 この言葉を告げて世界を去る。そこで幕が降りる。ここでだった。王ははじめて拍手をした。
 一人だけの拍手だがそれは確かに劇場に鳴り響いた。それを自分でも聴きながらだ。王は言うのだった。
「ここで、ですね」
「そうです。はじめて拍手をするものです」
「今私は目覚めました」
 ここでも王自身として話すのだった。
「だからこそです」
「御自身への拍手ですね」
「ワーグナーはどう言っていたでしょうか」
「はい、マイスターもです」
 コジマはそのワーグナーのことも話す。他ならぬ彼のことをだ。
「陛下こそがパルジファルと仰っていましたから」
「だからこそそうなりますね。ただ」
「ただ、とは?」
「私は個人崇拝の類には興味がありません」
 それはないというのだ。
「確かに王ですがそれでもです」
「個人崇拝よりもですね」
「はい、私自身を観ているのです」
 パルジファルは崇拝されるものだが王はそれを望んでいないというのだ。
「パルジファルは聖人ではないのです」
「では何なのでしょうか」
「王です」
 それだというのだ。
「城の王なのです」
「モンサルヴァートのですね」
「はい、ですから崇拝される聖人ではありません」
「聖杯やロンギヌスの槍を持っていてもですね」
「むしろそちらが崇拝されるべきなのです」
 そういった聖遺物こそがだというのだ。
 
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