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永遠の謎

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613部分:第三十五話 葬送行進曲その十二


第三十五話 葬送行進曲その十二

「築城、特にそれだが」
「世間ではそう言っていますね」
「それが為に私の周囲は動いているな」
「そうです。官邸もまた」
「ここは静かに見ているだけでいいのだろうか」
「いえ、動かれるべきです」
 座すことはすべきでないとだ。騎士は王に述べた。
「陛下はまだです。動かれるべきです」
「彼等に対するべきか。既に周囲に二心がある者達が来ているというのに」
「陛下はその時に色々なものを御覧になられるのですから」
「私は。最後に何を観るのだ」
「パルジファルの旅を」
 またしてもワーグナーだった。ここでもだ。
 騎士は微笑み王にだ。そのことを告げだ。王もだ。
 そのパルジファルのことを思いながらだ。そうしてこんなことを話した。
「あの旅を私自身がか」
「行われるからです」
「彼は聖杯城に戻るまでに多くのものを観る」
「聖杯城の主となる為に」
「それか」
「はい、そうです」
 騎士はまた王に告げる。
「ですからその時はです」
「動くべきか」
「そうされて下さい」
「私の果たすべきことはそれもあるのか」
 王はそのことを知った。実はだ。
 そのまま静かに過ごすつもりだった。だがそれは今はだ。
 騎士に言われそのうえでだ。こう言うのだった。
「無駄なことだと思っていたが」
「いえ、無駄ではありません」
 騎士はそのことを否定した。
「陛下がこれから為される。そのあがきと思われることはです」
「むしろしなければならないことだと言うが」
「そうです。是非共彼等と対峙して下さい」
「だが私はそうすればだ」
「退位ですか」
「最終的にはそれを告げられる」
 王にとっては屈辱なことにだ。王はあがらってまでそれをするつもりはなかった。
 そしてだ。現実も述べるのだった。
「若し私がミュンヘンに戻り無事な姿を民衆や軍に見せればだ」
「それで陛下は王のままでいられます」
「彼等は私を愛してくれている」
 そのことはよくわかっていた。王もだ。
 そしてだ。王はさらに述べたのだった。
「ホルニヒや他の私に忠誠を誓い続けてくれている者達、それにシシィにビスマルク卿」
「皇后様とビスマルク卿は陛下の理解者でもあられます」
「彼等が私を救おうとしてくれるだろう」
 王にとっては有り難いことに。しかしだった。
 今の王はそのことについて、まずはミュンヘンの彼等についてだ。苦りきった顔で述べるのだった。その述べる言葉はどういったものかというと。
「だが。私はミュンヘンにはもう」
「戻りたくないですか」
「あの一人での観劇だけが救いだったのだ」
 ミュンヘンにいてはだ。そうだったというのだ。
「あの街はワーグナーを。彼の芸術を拒んだのだ」
 王にとって全てとも言えるだ。それをだというのだ。
「何故その街にいて助けを求められようか」
「それ故にですか」
「そうだ。ミュンヘンにはどうしても助けを求めたくない」
 王は苦い声で述べた。
「何があろうともだ」
「ではそれはされませんか」
「何があってもミュンヘンでは助けを求めない。いや」
 王は言葉を換えた。その換えた言葉はというと。
「誰にも助けは求めない」
「王としてですか」
「卿は誰かに助けを求めるだろうか」
 騎士に顔を向けてだ。そうして彼に問い返したのだ。
「そうするか。卿は」
「私の窮地にですか」
「そうだ。そうするのか」
「いえ」
 騎士は首を横に振りだ。そのうえで王の問いに答えた。
 
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