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永遠の謎

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603部分:第三十五話 葬送行進曲その二


第三十五話 葬送行進曲その二

「確かに奇行だな」
「既にバイエルンの宮廷では問題になっていますが」
「それも極めて深刻な」
「バイエルンの財政は圧迫されている」
 結果としてそうなっている。ビスマルクはこのことも知っていた。
「あの国は危機的だな」
「はい、財政破綻寸前です」
「バイエルン王の築城によって」
「そう思われている」
 ビスマルクは言葉を一旦区切った。
 そのうえでだ。思われていると言うのだった。彼のその言葉にだ。
 周囲はすぐにだ。いぶかしむ顔になり問い返した。
「あの、思われているとは一体」
「どういうことでしょうか」
「財政なぞどうとでもなるのだ」
 それは小事だと。はっきりと言ったのである。
「そんなものはな」
「しかしバイエルンは今バイエルン王の浪費と資金の調達に混乱していますが」
「それはやはり危機なのでは」
「バイエルンが危機ならドイツが救おう」
 ビスマルクは実に素っ気無くだ。周囲に述べてみせた。
「そうするだけだ」
「ではバイエルンに資金援助をですか」
「そうされますか」
「そして陛下にも何でも相談すると伝えてくれ」
 バイエルン王にもだ。そうするというのだ。
「私はあの方をお救いする」
「そうされるのですか」
「バイエルン王の浪費を」
「あれは浪費ではないのだ」
 そのことを自体を否定するビスマルクだった。
「果たされるべきことを果たされているだけだ」
「果たされるべきこと」
「それをですか」
「それを理解できる者とできない者がいる」
 ビスマルクがどちらかはもう言うまでもなかった。
「私は幸いにして前者だ。あの方のことはわかるつもりだ」
「それでなのですか」
「そう仰るのですか」
「そうだ。芸術には金がかかる」
 この話もする。予算の話を。
「しかしそれは些細なことなのだ。よくその時代には浪費と言われることが後世では偉大な芸術、業績として残ることがある。そうだな」
「歴史を鑑みればですね」
「そうなると」
「そういうことだ。普通の者は経験に学ぶが」
 もっと言えば真の愚か者は経験にすら学ばない。
「私は歴史に学ぶ。歴史には既にそうしたことが書かれている」
「その視点からもバイエルン王をお助けする」
「そうされますか」
「そうだ。あの方の残されるものはドイツにとって偉大な財産になる」
 ビスマスクにはわかることだった。彼ならばこそ。
「私は常にドイツの為に考え動くのだから。ドイツの貴重な財産が偉大な財産を残されるのだ」
「バイエルン王もですか」
「ドイツにとって貴重な財産ですか」
「そうだ。このことは前にも言ったがな」
 こう前置きしてからの言葉だった。
「あの方もまたそうなのだ」
「ではあの方に何かあれば」
「その時は」
「助言させてもらう」
 まずはそうするというのだ。
 そしてさらにだった。ビスマルクは真剣な面持ちで話していく。
 
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