| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

永遠の謎

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

594部分:第三十四話 夜と霧とその十七


第三十四話 夜と霧とその十七

 そのワーグナーへの情熱を冷まさない王にもだ。ホルンシュタインは言及した。
「あまりにも。のめり込み過ぎています」
「確かに。それは」
「そしてワーグナー氏に遠慮があれば」
「残念だがそれはな」
「はい、ありません」
 そうした人物ではなかった。ワーグナーは。
 だからこそホルンシュタインもだ。こう言うのだった。
「陛下御自身の情熱だけなら救いはあったのです」
「しかしワーグナー氏自身がそこに加わるとだな」
「はい、いけません」
 そうなるのだった。ホルンシュタインはそう見ていた。
「バイロイトに去ってもらって何よりです」
「最悪の自体は避けられるからだな」
「そうです。ですから」
「だが。最悪の事態は」
 どうかとだ。大公は不吉なものを感じてだった。ホルンシュタインに述べた。
「陛下があそこまで人を避けられる様になったのはだ」
「ワーグナー氏と別れられてからだというのですね」
「そう思うのだが」
「そもそもです。あの時もです」
「彼の浪費と女性問題だな」
「しかも余計な騒動まで起こしていました」
 反ユダヤ主義に批判派に対する姑息な攻撃、そうしたものによってだ。
「あのままミュンヘンにはいてもらえませんでした」
「それはそうだが」
「だからあれもよかったのです」
「バイエルンの為にか」
「そうです。我が国にとってです」
 よかったと。ホルンシュタインは述べる。しかしだ。
 そこには国家はあれど王はなかった。しかし彼はそのことに気付いていない。そうしてまたこんなことを言う。気付かないまま。
「芸術で国を傾けさせるなぞ聞いたことがありません」
「贅沢や戦争はあってもだな」
「陛下の贅沢は国家として許容できるものです」
 豊かになったからだ。社会全体が。
「そして戦争を嫌われています」
「あの方はそうした方ではないからな」
「それに女性問題もありません」
 そもそも女性を愛せない。だからこれはどうでもよかった。
 しかしなのだった。王の、今話されている問題は。
「ですが芸術、それが建築への情熱につながっています」
「建築、それは」
「古来より権力者の病と言われています」
 秦の始皇帝が特に有名である。彼は多くの建築に国力を使い民を動員した。そしてその重圧に耐えかねた民衆が彼の死後反乱を起こし国は滅んだ。その頃から建築は権力者の深刻な病とされてきた。
 それは欧州でも同じでだ。王が敬愛する太陽王ルイ十四世もだ。ベルサイユ宮殿を建築させた。多くの予算と労力を使って。
 そのことについてだ。ホルンシュタインは危惧してなのだった。
「しかも中世の城なぞ。今は大砲と要塞の時代です」
「陛下は火薬にしてもだからな」
「はい、花火には使われますが」
「そうだ。そこでも戦いを好まれない」
「平和を愛することはいいことです」 
 誰もが認めることだった。これは。
「しかしそれでもです」
「建築は。戦いと同じだけ」
「芸術にしてもです。あの方の御満足だけですから」
「あの城についてだが」
 ふとだ。大公はここでだった。あの城達、王が築かせているその城について述べた。
「あの方の全てが投影されているな」
「あの方のご嗜好やそうしたものがですね」
「御趣味もな。だから全てだ」
「それが何か」
「あの城達はあのままでいいのではないだろうか」
「?といいますと」
 大公の今の言葉にだ。ホルンシュタインはだ。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧