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永遠の謎

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580部分:第三十四話 夜と霧とその三


第三十四話 夜と霧とその三

「あの方には今のこの世は生きにくいものなのです」
「ですがあの方は王です」
「バイエルン王です」
 侍女達はその皇后に怪訝な顔で述べる。
「ですから人前に出られてです」
「政務にあたらなければなりませんが」
「そうしなくともドイツは動いています」
 その侍女達にだ。こう返す皇后だった。
「ベルリンから全てが動いていますね」
「それはそうですが」
「その通りですが」
「バイエルンはドイツの中にあります」
 そうなってしまったのだ。そのことは皇后もよくわかっていた。
「そしてあの方は何かと見られます」
「王ですから、それは」
「当然です」
「仕方ないことでは」
「普通の人なら仕方ないことです」
 ここでだ。皇后はこう侍女達に述べた。
「ですがそれでもあの方は繊細なのです」
「それも御聞きしていますが」
「それ故にですか」
「ロマンを愛し。とても繊細な方なのです」
 そしてだ。その繊細故だというのだ。
「人の目や言葉には耐えられないのです」
「それを耐えるのが王では」
「違うのでしょうか」
「人に押し付けるには酷なことがあります」
 王とて人だ。ならばだった。
「特にあの方は繊細なのですから」
「そっとしておくべきですか」
「そうだというのですか」
「私はそう考えます」
 これが皇后の王への考えだった。そのことを実際に述べたのであるy。
「あの方は。まことに」
「しかし王です」
「王ならばどうしてもです」
「一人になることは」
「できないものですね。わかります」
 そのこともまたわかっている皇后だった。何故なら自分も同じだからだ。
 それでだ。こうも言うのだった。
「私もまた。それでこうしているのですから」
「旅を」
「それをですか」
「ウィーンは私には辛い町です」
 簡単に言えば合わなかった。皇后にはだ。
「ハプスブルク家の宮廷もです」
「ですが陛下は皇后様を愛しておられます」
「そのことは皇后様もおわかりですね」
「そのことは」
「はい、そうです」
 その通りだとだ。皇后も答える。
「そのことは私もわかっています」
「しかしそれでもですか」
「こうして旅を続けられますか」
「皇后様は」
「陛下には申し訳ないと思っています」
 それはなのだった。だが、だった。
「しかしそれでも」
「こうして旅を続けられますか」
「今も」
「はい、そうしないと耐えられないのです」
 こう話してだった。皇后は今ヘーレンキムゼーに向かっていた。そして城に着きだ。
 最初に案内されたのは鏡の間だった。その鏡の間は部屋の左右に鏡が連なっている。黒い部屋の中にその鏡達が連なり天井は黄金と絵画に飾られている。
 神の世界を描いたその宮殿に入りだ。皇后はまずこう言った。皇后を照らしているのは黄金だった。それはまさにロココの絵画も照らしていた。
 その黄金に照らされる中でだ。皇后は言ったのである。
「広過ぎますね」
「広過ぎますか」
「そう言われるのですか」
「はい、ベルサイユの鏡の間ですね」
 何を元としているのかはすぐにわかることだった。鏡の間といえばだ。
 
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