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永遠の謎

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568部分:第三十三話 星はあらたにその十三


第三十三話 星はあらたにその十三

「そしてその彼は」
「歌劇の主人公ですか」
「そのジークフリートは何なのでしょうか」
「タンホイザーでもあり」
 まずはこのだ。歌の騎士だった。
「そして」
「そしてですか」
「さらになのですね」
「トリスタンであり」
 愛の中に死ぬこの騎士も挙げられた。
「ヴァルターであり」
「マイスターになる若き騎士もですか」
「ジークフリートだと」
「さらにジークムントもです」
 ジークフリートの父でもある。その英雄だ。
「これから上演されるであろうパルジファルもまた」
「あれは随分変わった作品になる様ですね」
「その様ですね」
 王は侍従の一人の言葉にこう述べた。
「どうやら」
「その聖杯の騎士もジークフリートだと」
「そう仰るのですね」
「そして最後に」
 王にとって最も重要な存在だった。最後の彼は。
「ローエングリンでもあるのです」
「ではワーグナー氏の作品の全ての主人公はですか」
「同じ存在だというのですか」
「そうです。前にも何処かで話したことですが」
 そうした輪廻めいたものも感じながら。王は述べていく。
「そうなのです」
「そしてそのうちの一人がですか」
「ジークフリートですか」
「ヘルデンテノールはそれぞれの世界にいる同じ人物なのです」
 王はそのことを見ていた。彼等は同じだとだ。
「ですから。ジークフリートはローエングリンでもあるのです」
「あの白鳥の騎士でもあるのですか」
「パルジファルの息子でもある」
「無論パルジファルとローエングリンも同じです」
 父子の関係にあるがそれでも彼等は同じだというのだ。考えてみれば不思議なことに。
「同じ人間なのです」
「確か愛による救済でしたね」
 侍従の一人がワーグナーの作品のテーマを話に出した。
「そうでしたね」
「そうです。それがワーグナーの作品の主題です」
「彼等は常に救済されていますが」
「しかし最後ではです」
 パルジファルのことだった。まだ上演どころか完成もされていない作品だ。
「彼は聖杯城とその王を救いますね」
「あら筋はそうなっている様ですね」
「彼はそれが可能になったのです」
 同じ存在である。ヘルデンテノールはだというのだ。
「そうなります」
「女性ではないのにですか」
「女性ですか」
「オランダ人からですが」
 この侍従はワーグナーに詳しかった。彼の作品のはじまりと言ってもいいそのオランダ人から話すのだった。王もそれを聞いていた。
「女性が苦しみ悩む者を救っていますね」
「はい、タンホイザーでもトリスタンでも」
 この場合死は救いでもあった。ショーペンハウアーそのままのだ。
「そうなっていますね」
「それなら何故パルジファルは」
「彼はクンドリーの接吻によって目覚めます」
 聖杯城の周りにいる妖女、彼女のことだ。
「そしてその時にです」
「ただ目覚めたのではなくですか」
「女性的な。人を救済するものをです」
「備えるのですね」
「そうです」
 その通りだと。王は語る。
 
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