戦国異伝供書
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第二十三話 東国入りその五
「それもじゃ」
「そうはいかぬとですな」
「見せてやる」
北条氏康、彼にというのだ。
「そして勝つのじゃ」
「北条家の者達の心も攻めて」
「そうしてな」
これが信長の考えだった、彼は甲斐に入ってからも進軍を遅くすることなく大軍を順調に進ませてだった。
遂に武蔵に入った、すると。
すぐに関東の大名や国人達が帰順を申し出てきた、信長はこのことに気をよくはしたが。
それでもだ、すぐにこう言った。
「いつものことの様だからな」
「いつも?」
「いつもといいますと」
「関東の者達は北条家が強ければ北条家についてじゃ」
そしてというのだ。
「上杉家が強ければな」
「上杉家についた」
「それを繰り返したとですか」
「そう言われますか」
「そうじゃ」
その通りだというのだ。
「だからな」
「基準が続いていますが」
「それでもですな」
「このことに気をよくしながらも」
「安心はしない」
「やはり全てが決まるのは」
「うむ、北条家を降してじゃ」
そうしてというのだ。
「我等が関東も治める公儀となった」
「そのことを確かにしてですな」
「それでようやく決まりますな」
「北条家に勝ってから」
「全てはそれからですな」
「そうじゃ、だからじゃ」
それ故にというのだ。
「よいな、お主達はじゃ」
「それぞれの城を攻め」
「そうして降していく」
「そして殿ご自身は」
「小田原に向かわれますな」
「そうする、では任せたぞ」
北条家の多くの城はとだ、信長は主な家臣達に告げた。そうして彼自身は小田原に向かうことになった。
小田原への進軍自体は楽だった、北条家は主な軍勢を城の中に入れ積極的に戦おうとしなかった。それでだった。
信長も楽に進めた、それで鎌倉にも入り。
そこの八幡宮にも参拝した、その時に周りに言ったことはというと。
「ここにも一度来たかったが」
「はい、今遂にですな」
「鎌倉に入られて」
「そして参ることが出来ましたな」
「それは何よりじゃ」
明るい笑顔での言葉だった。
「源公の場所にな。しかしな」
「しかし?」
「しかしといいますと」
「源殿はどうも暗いのう」
源頼朝についてはだ、信長は微妙な顔で述べた。
「そう思わぬか」
「そう言われますと」
「九郎判官殿のことがありますし」
「実の弟君でありましたが」
「ああしたこともあって」
「木曽殿もじゃ」
木曽義仲、頼朝から見れば従兄弟である彼もというのだ。
「殺しておる、家臣も多く殺しておる」
「源氏には付きものですが」
「とかく身内同士で殺し合っていますな」
「源殿はその中心におられて」
「暗いと申されますか」
「あの様なことではいかん」
頼朝、彼はというのだ。
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