| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

永遠の謎

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

549部分:第三十二話 遥かな昔からその十


第三十二話 遥かな昔からその十

「是非そうするべきだ。あの方が金銭的に困っておられるのなら」
「ですがバイエルンではです」
「今宮廷がそれで頭を抱えています」
「この時代に中世の、しかも過度に装飾の多い城の築城なぞ意味はないと」
「それに加えて観劇への浪費も」
「あの方はまずドイツの偉大な芸術家を保護された」
 ワーグナーのことに他ならない。ワーグナーは最早ベートーベンに匹敵するドイツの楽聖となっていた。確かにその素行は褒められたものではないが。
「そしてその次にドイツに残されるものは」
「その城達だと」
「そう仰るのですか」
「バイエルン王が築かれた城達はドイツの偉大な財産になっていく」 
 ビスマルクは断言した。
「そのことを今わかるのはあの方の真の理解者達だけだ」
「それが閣下だと」
「そのうちのお一人ですか」
「そうだ。私もなのだ」
 ビスマルクは強く確かな自負と共に言い切る。
「私もまたあの方を理解できる」
「バイエルン王を」
「左様ですか」
「私とオーストリア皇后」
 その王を理解できる者達の名を挙げていく。
「ワーグナー氏、そして」
「そして?」
「そしてといいますと」
「ローエングリンか」
 架空の存在の筈であるこの騎士の名前も出すのだった。
「あの騎士もだ」
「最後の彼は架空ですね」
「この世にはいませんね」
「そうだ。彼は確かにこの世にはいない」
 ビスマルクもそのことは否定しない。しかしそれと共に言うのだった。
「だが。違う世界にはいる」
「それはどの世界でしょうか」
「この世界ではないとすると」
「この世界は現実の世界だ」
 まずはこう述べるビスマルクだった。
「しかし世界は一つだけではない」
「神のおられる天界でしょうか」
「そして地獄もでしょうか」
「天界、そうだな」
 ビスマルクは挙げられた二つの世界のうち一つの世界を見た。
 そうしてだ。こう述べたのである。
「天界に連なる世界か」
「そうした世界ですか」
「天界に連なる」
「おおまかに言うとそうだ」
 ビスマルクには見えていた。その世界がだ。
 そしてその世界がどうした世界なのか。彼は言うのである。
「あの世界。聖杯の世界はな」
「モンサルヴァートですか」
「そのパルジファルのいる世界」
「そしてローエングリンもいる世界ですか」
「聖盃はこの世界にはない」 
 それは伝説だった。かつて多くの者が伝説のプレスター=ジョンの国と共に探し求めたが遂に見つからなかった。アーサー王の中にもあるその聖杯はだ。
 遂になかった。だが彼は言うのだった。
「しかしあるのだ」
「この世界とは別の世界にですか」
「それはありますか」
「そういうことだ。そのモンサルヴァートにある」
 天界の系譜にあるだ。その城にだというのだ。
「そして騎士はその世界にいるのだ」
「バイエルン王を理解できるその騎士」
「彼はそこにいますか」
「そういうことだ。彼等はそこにいる」
 ビスマルクはまた言う。
「そしてその彼もまた、だ」
「バイエルン王を理解できる」
「そうした存在ですか」
「あの方を理解できる者は僅かだ」
 そのことにだ。ビスマルクは残念なものを感じていた。それが王にとって幸せなことにはならないことがわかっているからだ。それでこう述べたのである。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧