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輪入道

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第五章

「名物カレー何杯食べよか」
「虎は死んで皮を残す織田作死んでカレーを残す」
「あれ自由軒に書いてる言葉よ」 
 麻弥子は坊主が言っている言葉を聞いて二人に話した。
「難波のね」
「あっ、そういえば」
「確かに」
 二人も言われて思い出した、実は二人共ある料理番組に出てその店に入ったことがあるのだ。それで織田作之助も知ったのだ。
「あの言葉書いてました」
「そのまま」
「あれよ。今日はね」
「織田作之助さんの命日で」
「それで、ですか」
「多分ね。一月十日はね」
 まさに今日がというのだ。
「あの人の命日だから」
「織田作って織田作之助さんの通称ですし」
「そのままですね」
「ええ、ちなみにあの妖怪は輪入道よ」 
 麻弥子は自分達の正面に来た妖怪を棒で指差して説明した。
「所謂付喪神みたいね、ああしてね」
「夜の街を転がるんですか」
「そうなんですね」
「見ても何もないみたいね」
 実際に見た二人は何もない、そして妖怪も三人に興味を示さない。
「ああした妖怪も多いけれどね」
「そうですよね」
「ただいるだけの妖怪も」
「それであの妖怪もですか」
「いるだけで」
「何もしてこないみたいね、けれど」 
 麻弥子はここで首を傾げさせてこうも言った。
「織田作さんの命日にしても何でここで転がって言うのか」
「ここで昔織田作さんと何かあったとか」
「そうなんでしょうか」
「それはわからないわね、けれど今度ね」
 麻弥子は二人にあらためて話した。
「難波に行きましょう、それでね」
「自由軒で、ですね」
「名物カレー食べるんですね」
「そうしましょう、三人でね。それじゃあ」
 既に妖怪は三人の前を通り過ぎて左の方に行っている、その間もずっと自由軒に書いてある文章を口ずさんでいた。
 そうして何処かへと去っていった、麻弥子は二人と一緒に妖怪が去ったのを見届けてから彼女達に話した。
「帰るわよ」
「そうしてですね」
「歯を磨いて寝ることですね」
「そうよ、明日も仕事があるから」
 だからだというのだ。
「ゆっくり休んでね。学校もあるしね」
「そうします」
「どっちも頑張らないといけないですからね」
 リィナとマリンは二人共麻弥子の言葉に笑顔で答えた、真夜中まで仕事があって疲れていてもだった。
 二人はアイドルとして笑顔は忘れなかった、そうしてだった。
 この日は家に戻って休んだ、二人はやがて武道館でコンサートをするまでになり幸せな芸能生活を送ることが出来た、だが二人は時折あの妖怪と織田作之助の関係を調べたがどうしてもわからなかった。だがそのこと以外は幸せな芸能生活を二人で過ごすことが出来た。


輪入道   完


                   2018・12・19 
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