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永遠の謎

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543部分:第三十二話 遥かな昔からその四


第三十二話 遥かな昔からその四

「そして御会いできてもだ」
「近頃は何か我々の言葉にも何処かうわの空です」
「御心あらずといった様子で」
「そうもなっておられます」
「バイエルンがドイツの中に入る」
 ホルンシュタインは政治から考えて述べた。
「それは必然だったのだが」
「バイエルンは確かに昔のバイエルンではなくなりました」
「ドイツの中に入りそうして終わりました」
「しかしそれでもです」
「かなりの権利が認められてはいますが」
「そうだ。プロイセンも譲歩してくれたのだ」
 ホルンシュタインとてバイエルンの者だからだ。バイエルンの為には動いている。
 しかしそれでもだ。王はだというのだ。
「しかし陛下はそれでもか」
「やはり今のバイエルンに憂いを感じておられますね」
「そしてそれにより塞ぎ込んでおられる」
「そうなっている様です」
「選択肢はなかった」
 ホルンシュタインはまた言った。
「それでもか」
「はい、それでもです」
「あの方は憂いを感じられそのうえで」
「ああしてアルプスに入られてです」
「そのうえでお一人になられています」
「夜の中に」
 そうしてミュンヘンにいてもだった。その時もだった。
「お一人の観劇ですが」
「あれは費用がかかります」
「しかも陛下は歌手や俳優達への贈りものがかなりです」
「かなりのものになっていますから」
「浪費は忌むべきものだ」
 また政治的に話すホルンシュタインだった。
「元から陛下にはその傾向があったが」
「それがさらにです」
「酷くなってきています」
「それもまた問題です」
「そうだ。それをどうするか」
 ホルンシュタインも悩んでいた。そのことに。
 そうしてだ。彼は言うのだった。
「必要とあらばだが」
「必要とあらば」
「どうされるのですか」
「一世陛下の様にだ」
 ルートヴィヒ一世、王の祖父である。孫と同じく芸術を愛していた。
「そうして頂くか」
「しかしそれはです」
「やはり。どうにも」
「よくありませんが」
「私もそう思う」
 それを言ったホルンシュタイン自身もだった。
 浮かない、その顔で言うのである。
「だがそれでもだ」
「バイエルンの為ですか」
「その為にも」
「そうだ。あくまで最後の選択だ」
 退位、それはだというのだ。
「あの方程の王はおられない」
「はい、麗しい方です」
「何もかもが」
「どの国におられてもあれだけ麗しい方はおられない」
 王についてだ。肯定するのだった。それはどうしても否定できなかった。
「だが。それでもバイエルンの為ならばだ」
「あの方でもですね」
「あえて」
「王とは何か」
 ホルンシュタインは近代における王の存在について言及した。
「国家の為の機関だ」
「王室、それもですね」
「あくまでそうなのですね」
「そうだ。あの方ですらだ」
 機関だというのだ。国家の為の。
 
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