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永遠の謎

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531部分:第三十一話 ノートゥングその十二


第三十一話 ノートゥングその十二

「王弟殿下は大丈夫なのか」
「しきりに奇行を繰り返しておられるというが」
「ミサの時でも何かあらぬことを口ばしられたとか」
「その殿下を寄越されるとは」
「果たしていいのだろうか」
「しかし今は」
 どうかというのだ。今は。
「落ち着いておられますな」
「左様ですな。それでは」
「よしとするべきですね」
「我々としては」
 こう話してだった。諸侯達も着賊達もだ。
 今はいいとした。しかしだった。
 ビスマルク、白い軍服の彼だけはだ。冷静にだ。
 その中にいてだ。こう言うのだった。
「これでいいのだ」
「バイエルン王がおられずともですか」
「それでいいのですか」
「そうだ。これでいい」
 また言うのだった。側近達に。
「若しここにバイエルン王がおられればだ」
「その時はですか」
「かえってよくなかったですか」
「あの方はあまりにも麗し過ぎるのだ」
 バイエルン王の容姿だけでなくだ。内面まで話すのだった。
「それではだ」
「この場を支配してしまう」
「そうだというのですね」
「その通りだ。それにあの方はここにいてはあの方が傷つかれる」
 そうなるというのである。ビスマルクはここでも王を気遣っていた。
「それは避けたい」
「だからですか」
「あの方はあえてですか」
「来られなくてよかったのだ」
 ビスマルクは確かな声で言い切った。
「まことによかった」
「しかしオットー様ですが」
「あの方は」
「今は御心が平穏だな」
 ビスマルクもまたその彼を見る。そうしての言葉だった。
「ならそれでいい」
「それで宜しいですか」
「今は」
「そうだ。だが」
「だが?」
「だがといいますと」
「殿下はあの方の足枷になってしまっている」
 ビスマルクの顔は憂いのものになる。祝うべき場の中で。
 そうしてだった。ここではこんなことも話した。
「そしてあの方を苦しめられておられるのだ」
「だから玉座を降りられないのですか」
「退位を望まれているとも聞いていますが」
「人は全てを思い通りにはできない」
 ビスマルクは語る。人のそれを。
「それはとりわけ王ならばだ」
「王ならば余計にですか」
「思い通りにならない」
「そうなのですか」
「そうだ。愚か者は王は万能だと思っている」
 共産主義者のそうした主張はだ。ビスマルクにとっては全否定するものだった。
 その否定をだ。今言うのだった。
「権力にあるからだと。しかし」
「実のところは束縛されていますか」
「あらゆるものに」
「しかも常に誰かに見られている」
 ビスマルクは目も話に出した。
「それは非常に辛いものだ」
「ではその中で己の望むままに振る舞える者はおかしいのですか」
「歴史にある暴君達は」
「ルイ十四世にしてもだ」
 栄華を極めただ。あの太陽王、彼もだというのだ。
 
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