永遠の謎
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517部分:第三十話 ワルキューレの騎行その十六
第三十話 ワルキューレの騎行その十六
「しかしフランスもまただ」
「その文化と芸術を御存知だからこそ」
「そのドイツとフランスが戦う」
「しかしそれは決して避けられるものではありませんでした」
「ドイツの統一の為には」
王はまた湖に顔をやっていた。そうして湖の青い静かな水面を見ながら。そうして騎士に対して言うのだった。王が思うそのことを。
「フランスとの戦いは絶対に必要だった」
「ハプスブルク、ヴァロワの因縁からですから」
「フランスは常にドイツ統一を妨害してきた」
「フランスにとって東に強大な国ができることは避けなくてはなりません」
「だからだ。フランスとは戦わなくてならなかった」
王は述べる。その必然を。
「しかしだ。わかってはいてもだ」
「御心はですね」
「それを受け入れられない。できれば避けてもらいたかった」
「しかし避けられず」
「今に至る。私は戦い自体を好まない」
軍服を来てもだ。それでもだというのだ。
「それでどうして今を受け入れられるのだ」
「しかしこの戦いの後ではです」
「ドイツは一つになり平和が訪れるな」
「はい、そうなります」
「では受け入れられるのではないですか?」
「無理だ。それが終わればだ」
次はどうなるのかも。王は騎士に語る。
「バイエルンは。私の国は」
「ドイツの中に入ってしまいますね」
「プロイセンのドイツにだ」
「それは陛下としては受け入れられませんね」
「このこともわかっている」
何処までも何もかもだ。王はわかっている。
しかしわかっているからこそだ。王は。
「バイエルンの運命も」
「国としては生きます」
「空虚な。名前と玉座があるだけの国がな」
「バイエルンはプロイセンからかなりも譲歩をもらえますが」
「しかしドイツの中で。ドイツという国の中で名前だけになる」
最早だ。バイエルンではなくだ。ドイツという国の中にあるだ。そうしたバイエルンになるというのだ。王が言うのはこのことだった。
「そうした存在になってしまうのだ」
「ですがそれも必然ですね」
「政治と軍事がそうなることはわかっていた」
必然だったと。そうだというのだ。
「だが。文化や芸術はバイエルン、そしてミュンヘンとしたかった」
「文化、芸術によるドイツ統一ですね」
「バイエルンはその中心となる筈だった」
「政治はベルリン、産業はルールが中心になっていきますが」
「文化はそうなるべきだった。だが」
その軸となるべき彼がだ。ミュンヘンから去りだ。王はそのことからだった。
「ワーグナーはもうミュンヘンにはいない」
「他ならぬミュンヘンが彼を追い出してしまいました」
「そのミュンヘンはもう」
「芸術の都足り得ない」
「私はそう思う」
王はだ。憂いの顔で述べた。
「だからだ。もうあの町とはだ」
「決別されたいですか」
「離れたい」
夢破れた。そうした言葉だった。
「あの町には現実しかない」
「現実ですか」
「昼だ」
そしてその昼とは。
「企み深い昼だ」
「トリスタンとイゾルデの言葉ですね」
「そうだ。私にとってもだ」
そのだ。王にとってもだというのだ。
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