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獣篇Ⅲ

作者:Gabriella
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46 夢の中の夢の夢。


ありがとうございます。とお礼を言うと当時に彼らもその場を去ったので、私たちはお言葉に甘えて、入浴などの寝る準備を整えてから敷かれた上等なお布団の上に体を横たえた。暫くの沈黙の後、晋助(かれ)が沈黙に耐え切れなかったのか、先に口を開いた。

_「…お前、『見廻組』の新設についての話、聞いたか?」

_「…ええ。聞いたわ。どうしたの?」

_「…いや、ただその話をされてなァ…鬼兵隊(オレたち)も警護やらなんやらで色々と手伝ってほしいことがあるそうだ。」

_「…へぇ、警護、ねぇ。なんだか裏が透けて見え見えなんだけど。…何を警護すればいいんでしょうねぇ。」

_「…さァな。そのうち連絡が来るだろうよ。さてところで。迎えはもうすでに着いたそうだ。そして、明日は幹部のメンツもこの屋敷に来ることになった。」

_「…そう。…明日が楽しみだわね。」

さて、寝るとするかねェ。とか言って晋助(かれ)はさっさと布団に横になった。帯を解いて襦袢姿になり、持っていたバッグからコンパクトな櫛を取り出し、さっと解かした。背後から視線を感じたので、ゆっくりそちらを振りかえると、晋助(かれ)がこちらを見ていた。

具合はどうだ?と訊かれたのでまぁなんとか。と答えると、彼はふっと微笑んだ。そして、手招きしている。
思いきってダイブしてみた。

_「随分と、甘えたさんだなァ…零杏?…どうかしたのか?」

晋助(かれ)の膝枕に収まった。疲れが出てきたのか、少し眠くなってきた。最近ずっと悪夢が続くので、ここは思いきって言ってみるべきか、少し迷う。

_「…晋助、寝物語でいいから小耳に挟みながら聞いててね。…そう言えば私、この間倒れたでしょう?…その後くらいから嫌な夢を見るようになったの。ちょっと冷や汗をかくような、、、なんと言えばいいのかしら…なんとも言えず気持ちの悪い夢よ。でも、毎回同じ夢を見るの。そして毎回ちょっとずつ進むんだけど、いざクライマックスになると目が覚めるの。…気持ちが悪いったら…言葉に表せないわ。」


背中をさすられながら、どんな夢を見るんだ?と聞かれた。

_「…双子の夢よ…。」

_「双子?」

_「ええ。多分私が思うに彼らはお腹の子たちだわ。」

_「それがどうして?」

さぁね、分からないわ。とだけ言って、夢を少しばかり思い返してみる。

_「双子が誰かに抱っこされてるの。で、二人とも私の方を見てるんだけどね、なんか赤ん坊にしてはすべてを悟ったような遠い目をしてるわ。そしてじっとこちらを見てるの。」

_「ほォ…で、一つ疑問なんだが、その…抱っこしてるヤツの顔は見えねェのか?」

_「…ええ。見えないわ。誰が抱っこしてるのか、分からないの。」

だが実際、これは半分嘘で半分本当の話である。ここでその人は私、だなんて言ったら後がどうなるか。考えただけでも背筋が凍りつく。…一体私に何が起きるのか気にはなるが。

晋助(かれ)はただ、そうか。としか言わず、ただひたすら私の背中をさすっている。

_「まぁ、とりあえず寝ましょ。寝ないことには明日は来ないし。」

と言って、布団を被った。


暗闇の中…またもや双子の夢である。相変わらず彼らは抱っこされて私を凝視しているし、だからと言って何も起こらない。またこのまま目が覚めるのかと思いきや、今回はそこで急展開を迎えた。双子を抱っこしていた彼女(わたし)が急に変化を始め、誰かに変わっていく。変化しながら回転しているので丁度影になってしまい、誰になったのかは分からない。しばらく様子を見ていると、その姿は松陽先生だった。懐かしさのあまり近づこうとするが、わたしの体はなぜか動かない。どう頑張っても動かないので、もがいていると、後ろから声が聞こえた。

_「動こうとしてもそれは決して動きませんよ。だってそれは…」

危うく聞き逃しそうになったが、この声には聞き覚えがある。…そう、松陽先生の声だ。だが松陽先生(かれ)にしてはどこか闇を含んでいる。なぜ、彼がここにいるのか…。

_「あなたのために私がわざわざ作って差し上げたのですから。…もうどこにも行かせない。娘よ…」

は?娘?

_「やっと見つけた。◯◯…”わたし”の愛した彼女の娘…そして私の娘。…道理で似ているはずだ。…私と共に行くのです…。」


背筋が凍るような感覚がして、目が覚めた。冷や汗をびっしょりかいている。呼吸が荒く、まだあの声が耳にこびりついて離れない。

_「どうした?…零杏…?」

静かに半ばパニック状態だったので、言葉が上手く口から出ない。

_「(私は一体何者?彼は誰?私の知らない人が…突然!なぜ?)?」

_「零杏、落ち着け。どうした、何があった?…ゆっくりでいいから、話してくれ。」


そう、彼の声は聞こえるのだが、私は私だけれど私ではない声で何かを話し始めた。

_「…お茶を頂けないかしら。」


そう、それは確かに私の声なのだ。だがそれは私の意志ではない。すると不意に声が響く。

_「安心して。私はあなたの味方よ。アンナ・イェラノヴァ…あなたも聞き覚えがあるでしょう?…あなたの演じていたもう一人の人格よ。獣とは違うわ。」


そう言って、後ろから足音がした。振り返ってみてみると、確かにそこには”わたし”が立っていた。…ただし目の色が(あお)いところが違うので判別がついた。

_「安心して。今は仮の夢状態にあるわ。もうじき目が覚めるでしょう。…私は獣ではないから、あなたを全力で獣から守る。そしてあなたはこの先、大変なことに巻き込まれるでしょう。その時は私があなたを演じることがあるかもしれない。…その時はよろしくね。」


そう彼女(アンナ)が言うや否や目が覚めそうな感覚に陥った。

_「零杏…零杏…」

声が響く。何事かと目を開けると、視界に晋助がドアップで写り込んだ。


_「大丈夫か…?」

支えられるがままに起き上がると、すでに夜は明けていた。遠くから鳥のさえずりが聞こえてくる。悪夢にうなされてなかった…?とさりげなく聞いてみると、あァ。と端的な返事が返ってきた。

_「冷や汗をかいて…譫言を言ってたなァ…。実際何語か分からなくて…日本語でもねェからなァ。焦ったぜェ。…顔も手も冷たいしよォ…。」

_「そう…迷惑をかけたわね。…看病してくれて…ありがとう。」


冷や汗の感覚が今更になって感じられる。
なぜアンナが出たのか…。いずれ巻き込まれることとはなにか…。
正直、嫌な予感しかしない。

だがおちおち夢ばかりにも構っていられない。

_「…ところで、今日は鬼兵隊のみんなと落ち合うんでしょう?…楽しみね。」

_「あァ。そうだなァ。」

ゆっくりと背中をさすられる。それがまた中々に心地よいのが憎らしい。

_「そろそろ起きた方がよいわね。」

と言って体を起こし、身支度と整えた。
 
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