ランス ~another story~ IF
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第18話 にーちゃん
第壱階級悪魔 ネプラカスは姿を晦まし、そして新たな来訪者が眼下でこちら側を見上げていた。
「……ダークランス」
そう、彼は現魔王ランスの第一子。
母の名は悪魔フェリス。
LP期に生を受けた魔王の子達の長男だ。
ダークランスは、ネプラカスが消えた事対し、怒りをあらわに、憎悪を滾らせていたが……それは直ぐに消失。代わりに満面の笑みを浮かべ、白い歯、悪魔のトレードマーク? でもある八重歯を剥き出しにて上を見た。その時に、丁度目が合った。
「……もう随分となる。――久しいな」
『ああ。もういったい何年になるか。……だが ついこの間の事の様に感じるよ。本当に大きくなった。……容姿は見紛うこと無い程に、似てるな』
「名の通り……な」
名の通り、ランスの子供達の長男がダークランス。そして、その容姿はランスに瓜二つだ。当の本人はそれだけは嫌だった、と嘆いているがもう仕様がない、とあきらめてもいる。
そしてここで解説をしよう。
ダークランスは先の大戦において中心となって闘い続けていたが、長年の無理がたたり、心身共に衰弱し休養をしていたのだが、先ほど現れ そして現在暗躍を続けているネプラカスの存在がまた彼を奮い立たせたのだ。
かの悪魔とは、それ程までに 因縁深い相手であるために。
そして、関係性と言えばゾロとて同じだ。
ダークランスが奮い立った戦いこそ参加はしていないのだが、その後の勇者災害の時期よりこの世界に降り立ち、力を握りしめ戦いに出た。切っ掛けはたった1度の邂逅。そして、共通点。
それだけで十分だった。……何よりもダークランスは、強く想うようになった。
「おーーーい! おおーーーーーいっ!!」
両手をぶんぶん、と振って声を張り上げていた。
笑顔が光る、まるで子供の様な笑顔。親に会えてうれしくて仕方がない子供、と言わんばかりだった。
「……仕方ないか」
『それに、ここで無視するとか最悪で最低だしな』
「判っている、が……。あいつは加減と言うのを学んでもらいたい」
ゾロは観念した様に、ゆっくりと力を抜いて 下へと降りた。
地面に到着するや否や、ダークランスは飛びついてきそうな勢いで……、いや、きそうではない。本当に飛びついてきた。
「うわー、会いたかった! 会いたかったんだよ! にーちゃん、にーちゃんっ!! ひっさしぶりだなーーー! うわーー」
「……にーちゃんは もう止めておけ。それに、それしきで喜ぶ様な歳でもないだろう?」
「えー、オレは何時だって喜ぶし、嬉しいぜ? 大好きな人に会えたんだから、家族に会えたんだから、猶更だ」
「……何度も違うと言った筈だがな」
ゾロはため息をした。
先の戦いでの邂逅。ゾロはしっかりとマスクをしていたのだが、何かを感じ取った、とでも言うのだろうか。魔人ホーネットと似通った能力の様なものを発揮し、ダークランスは照準を合わせた。間違いない、と、心の中で。
鬼畜王戦争の際、仲間たちと袂を分かつも同然だった結果を受けても尚、彼の事を追い続ける内の1人なのだ。
「もうっ、ダークランス。ちょっと落ち着きなさいよ」
「待っててくれ、ヌーク。もうちょっとにーちゃんの匂いを……」
「それ、メチャ気色悪いわよ……。流石に」
「良いじゃねーーか。ほんと久しぶりなんだからよ!」
「判ったから判ったから、ほんと落ち着いて」
ダークランスは1人ではなく、共に同行している者がいる。
それが彼女 ヌーク。ヌークは天使。現在神異変の為、神はおろか天使も姿を消しているのだが、とある事件でこの世界に舞い降り……そしてダークランスに出会った。
見た通りダークランスに惚れており、一途に想っている様だが、今のダークランスの視界にはゾロしかいないのが可哀想な所でもある。
「お久しぶり、で良いかしら? えっと、ゾロさん」
「天使ヌーク77……。ああ。違いない。久しいな」
「ふふ。でも 元、よ。元天使」
「そうだったな。ダークランスと共にいることを選び、堕天したんだった」
「ッ! そ、そんなんじゃないわよっ! た、ただ ダークランスには仮もあるし、その……」
もごもごと、口を動かすヌーク。好意を頑張って隠そうと躍起にはなっているが、バレバレである。
「にーちゃんっ、にーちゃんっ!」
でも、当のダークランスは どちらかと言えば ゾロにメロメロ? である。不吉な影を落としながらも、ヌークは生気が抜けたような目をしていた。
「落ち着けダークランス。それに、グラムが危ない」
「おっとっ」
ダークランスはグラムを鞘へと納めた。
自身の身体よりも巨大な剣だったが、まるで意思があるかの様に、みるみる内に小さくなり、鞘へと収まる。
「それで、にーちゃんはどうしてここに? ひょっとしてリセットやヒトミに会いに来たとか? 絶対喜ぶぜ! だって、にーちゃんだもん」
「……目的は、アレを見に来た。恐らくはここに来るとふんでいたからな」
ゾロは、ダークランスの問いに答える。
その答えは、ダークランスが言う様に、彼にとっての姉妹に会いに来た、と言うものではなかった。言葉には出していないが、ゾロの視線の先にその答えはある。
かの存在が通った道は、全てが削れる。何も残らない。そう、大怪獣クエルプランだ。
「あいつを、……なのか?」
「残念そうな顔をするな。シャングリラにも足を運ぶ予定ではあった。……そうだ。ダークランスは会わなかったか? エールと言う少年に。この辺りに来ているだろう、と予測はしていたが」
「えーる?」
誰の事だ? と首を傾げるダークランス。
その時、横にいたヌークは大体の予想がついたのか、先に答えた。
「ひょっとして、さっきネプラカスに襲われてた子たち? ハニーとかいろいろいたけど」
「あの悪魔は、エールたちを襲っていたのか。………(ここで仕留めておくべきだったかもしれんな。ダークランスには悪いが)」
少々表情を険しくさせながらゾロはつぶやいた。
同じ場所にいる以上、その可能性を考えてなかった訳ではないが、やはり直接その事実を聞いてしまうと、そう思ってしまう。
クルック―の家で、あの子の事を見守る、とは言ったものの やはり情が思いのほか強い様だ。
……なぜなのかは、今 語られることは無いが。
『不器用だな。……互いに』
「(無論だ。……それこそ仕様がない。……――――しい、のだから)」
『……そう、だな。否定はしないよ』
難しそうな、それでいて何処か上の空なゾロの顔をダークランスは覗き込んだ。
「どーしたんだ? にーちゃん」
「いや、何でもない。……そろそろにーちゃんと言うのを……、いや、まぁ 良い。言って治るのなら もうとっくに治ってる筈だからな」
「にっひっひー。オレらにとっては、にーちゃんはいつでもにーちゃんだ。ヒトミ姉がお兄ちゃん、っていうみたいに、ずーっとにーちゃんだ!」
「あー……―――、口調も完全におかしくなっちゃって。私が会う以前はずーーっとこんな感じだったの? ゾロ」
「私と出会った時は既にこの調子だ。………それ以前、と言うのなら私に聞かれても困る。だが、判る事はあるよ。それ程までに、かの男は慕われていた。ただ、それだけの事だろう」
「そう。(……私なりのかまかけのつもりだったんだけどー、ま うまくいかないわよね。と言うより、ダークランスは間違いない、って言ってるけど、本当の本当、100%とは言えないし。そもそも、私会った事無いから何とも言えないのよね……)」
ヌークは何処か諦めた様子をしていた。それは、追及をなのか、ダークランスの事を、なのかは正確には判らないが。……いや、どちらもだろう。
「んじゃあ、にーちゃんもリセットとヒトミ姉のトコに行こうぜ!」
「悪いが、少々野暮用が出来た」
「そんなこと言って、逃げるつもりだろっ! もう逃がさないもんね。……絶対、ヒトミ姉には会ってもらう。また、会ってもらう」
ダークランスは、魔剣グラムを地に捨てて、ゾロの腕を取った。
先ほどまでの甘えた表情は完全に消え失せ、真剣な顔つきになっている。
ダークランスは、何よりも家族を大切にしている。
先の戦い。己の精神と身体を限界以上にまで酷使し、戦い続ける事が出来た理由もここにあった。家族を魔王から守る為に。……あの魔の手から逃すために。
英雄ユーリを慕う者はこの世界にはたくさんいる。そして、子供もいる。つまり皆が家族だ。ダークランスは ユーリではなく、ランスの子だから 少々やきもちを妬いた事もあったが、今は全員分け隔てなく愛している。愛おしいと心から思っている。……兄馬鹿だと周囲から言われるが、何のその、である。
その家族が、皆が会いたいと心から願う男が。家族の中心に位置する男が現在目の前にいるのだ。どれだけ否定しても信じているから。
「―――幸せ者だ。お前の様な弟を持つ兄は。きっと」
「ッ……。にーちゃんは、幸せ者?」
「間違いない。……だが、悪いな。ダークランス。……いや、フェブリル・フェレス」
「ッ!!」
ダークランスは目を見開いた。
それは、その名は――誰も知らない名前のハズだったから。そう名を授けてくれた母フェリス以外誰も知らない名前。勿論、ユーリでさえ知らない名前のハズだった。
「そう遠くない時期。全ての兄弟、姉妹たちが集まるだろう。ランスと、お前の最愛の兄のな。そして――ユーリ・ローランドに代わって、伝えよう。……家族を、これからも宜しく頼む」
「…………」
ダークランスはただただ驚き、何も言えなかった。そのせいか、力を入れていた手も抜け落ち、そして今度はゾロが、ダークランスの頭を撫でた。
「頼むぞ。皆の兄、ダークランス」
その言葉と共に、目の前にいた筈のゾロの姿は消失した。
「ダークランス? ダークランス! ほーらしっかりしなさい」
「ッ……。判ってるさ。大丈夫だ」
いなくなってしまった事に落胆を隠せれなかったダークランスだが、直ぐにいつもの様子を取り戻した。幼さが全面に出ていた先ほどよりも更に前。普段のダークランスへ。
「最後何を話してたの? ちょっと聞こえなかったけど」
「いや。……流石にーちゃんだな。オレの真名も知ってたみたいだ」
「へー……、って、えええ!! 真名!? そんなの知られちゃってたのっ! やばいじゃん!!」
「何がやばいんだ?」
「い、いやいや、天使や悪魔って、真名知られちゃったら……」
悪魔、天使、そして妖精に属する者は、真名を知られた相手の意思1つで僕に出来る。そして、最初にこれらを知られた相手に、絶対の服従を誓わねばならない、と言うルールがあるのだ。
そして、僕となったものは、主の名に背けば 灰となって散る。命と共に――。
ダークランスは 悪魔と人間のハーフ。何処までそのルールが適用されるのかは判らないが、実験する訳にもいかないから、母親のフェリスでさえ知らない事である。
そしてヌーク77は天使。堕天したとは言え、それを知っているからこその心配だった。だが、ダークランスは一笑し、その心配を一蹴した。
「にーちゃんがそんな事すると思うか?」
「……もう、今更だけど その、にーちゃんって決まった訳じゃないんでしょ? 何度も違うって言ってたし」
「……かもしれないな」
「へ?」
絶対に信じてる! と疑わないダークランス。他の誰が違うと言っても、本人が違うと言っても、絶対にめげるコトない、とヌークは思っていたのだが、まさかの発言に驚いてしまった様だ。
「でも、それでも言い。『……もう、いなくなってしまった。もう会えない』そうずっと考えて、ふさぎ込んでたあの頃に比べたら全然良い。……違うかもしれない? 上等。そっちの方が断然良い。例え本当に違ったとしても――」
ダークランスは空を見上げた。きっと、何処かでまた会えるだろう。必ず会える、と信じながら。
「あの人は良い人だ。にーちゃんに似てるんだから。同じ気配を感じるんだから当然。オレは最後の最後まで信じるぞ」
「そう。……良いんじゃない? それで。そっちの方が私も良いと思うわ」
落ち込むダークランスを見るよりは一番良い、とヌークは思う。
ずっと傍にいたいし、何より彼にはずっと笑顔でいて欲しいから。
「じゃあ、これからはどうする? ネプラカスとクエルプラン、やることはまだ多いんだけど」
「にーちゃんに頼まれたからな、とりあえず、優先は家族。……それに、オレも久しぶりに妹や弟たちには会いたい。勿論、にーちゃんの子供は皆オレにとって妹や弟と一緒だ」
「だね。了解」
「じゃあ、行くか」
「ええ」
そして、ダークランスはグラムを拾い上げて、先へと向かう。
家族の為に。そして、きっと、その先に、―――ずっと先に待ってくれているであろう人を求めて。
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