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Fate / the beelzebub comes.(魔王来たりて)

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第6話 暗中飛躍

 
前書き
連続引っ越しです。 

 



「それじゃ食事にしようか?」

テーブル一杯に広げられた料理の数々を目の前に、

シリウスは嬉々として手を合わせた。















(シリウスサイド)

バクバクバク!ガツガツガツ!モギュモギュモギュ!
俺はテーブル上にある料理を片っ端から口の中へと入れていった。
時折、自前の料理の味を批評して見たりしながらも、口と手は休めない。

「・・・・よく食うな(汗)」

「そうね・・・シリウス様は健啖家でもあるみたいで、昼間も山の様な川魚を食していたわ。」

「・・・・エンゲル係数が物凄い事になりそうだな。
 これで冷蔵庫にあった食材全部使いきっちまったし・・・また買出しに行かないといけないな・・・」

「んぐんぐ――――ちょっと待てシロウ。食材の貯蔵ならまだまだあるから安心していいぞ?」
俺は所持する位相空間――おれは“蔵”と呼んでいる――から向こうの世界の食材―――肉や魚、
野菜などをテーブル横に並べていく。
実は先程も少し“蔵”から食材を出して、料理に使っていた。

この“蔵”の中は時間という概念が無いから、
生ものでも腐らないし、いつも新鮮そのものの状態を保っている。
だから、何かと便利で重宝しているのだ。

「・・・この食料は何処から出したんだ?黒い穴から突然出てきたように見えたけど?」

「ま、俺の固有魔術だとでも思ってくれれば良い。細かく説明するのは面倒臭いし、
 基礎理論も知らないお前が理解出来るとも思えん。」

「・・・悪かったな、勉強不足で。
 ―――分かった。とりあえず、シリウスは大きな冷蔵庫を持ち歩いてるって認識しとく。」

「・・・・その例えもどうかと思うけどな?フ~、食った食った――――さて、後はデザートか。」

「って、早っ!?あれだけの量をもう食い終わったのか!?
 更にこれからデザートまで食うつもりなのかよ!?どんだけ!!」

「何だ、シロウはいらないのか?折角の俺特製林檎の砂糖漬けを使ったアップルパイなのに・・・
 キャスターは食べるよな?自慢じゃないが、かなり美味いぞ。知人にも評判だったしな。」

「じゃ、じゃあ・・戴きますわ。」

「え・・・・ちょ、ちょっと待ってくれ。食べないとは言ってないぞ?」

「分かった分かった。ちゃんと切り分けてやるから、そんなに物欲しそうな顔をするな。ホレッ!」
八つに切り分けた内のひと切れを乗せた皿を、シロウの目の前に置いてやる。
すると、最初の一口はゆっくりと咀嚼し、次第に食べるスピードが速くなり、直ぐに食べ終えてしまった。

「う、美味い・・・かなりの甘さなのにサッパリとした後味で、もう一個食いたい位だ・・・・」

「気に入って貰えて何よりだ。これは結構自信作だったからな。」

「・・・・・・・・(モクモクモク)。」
妙に静かだったキャスターの方に目を向けると、こちらもすでに食べ終えている所だった。

その後、シロウにレモンティーなる飲み物を煎れて貰い、オレ達人は食後をゆったりと過ごした。














(遠坂凛サイド)

「―――それで、アーチャー・・・他の魔術師やサーヴァントの情報は集まったのかしら?」
今現在は午後6時・・・私はアーチャーの煎れた紅茶の香りを楽しみながら、
昼間偵察に出していた彼からの報告を受けていた。

「いや・・・これと言って敵に関する情報に進展は無いな。」

「となると、今現状で分かっている敵サーヴァントは言峰教会の金ピカ位か・・・
 まだ聖杯戦争が始まっていないとはいえ、手持ちの情報が少な過ぎるわね。これじゃ迂闊に動けないじゃない!」

宝石も無限にある訳じゃないし、無駄遣いは出来ないものね。

「それにしても、例の言峰教会の神父と凛が知り合いだったとはな・・・」

「そうね・・・私もあの腐れ神父とは関わり合いになりたくは無かったんだけど・・・
 アイツの教会にサーヴァントが居る以上、アイツも関わりがあるのは明白だもの。
 ・・・・監督役の癖に何考えてんだか。」

下手すりゃ、聖堂教会の埋葬機関から代行者が派遣されて抹消され兼ねないってのに・・・・

当然そうなったら、こっちにもそれ相応のダメージが来る。
オーナーの監督不届きだってね・・・魔術協会にどんな要求されるか分かったもんじゃないわ・・・

全く、アイツは厄災しか振り撒かないわね、本当に。

「取り敢えず、今日も偵察には出てみるが、“例の鴉”が未だに町内を彷徨いているので、
 あまり身動きは取れないからな、新しい情報を得るにはもう少しかかるかもしれん。」

「それはしょうが無いわ。出来るだけアレとの接触を避けてちょうだい。
 アレの攻略法が見つかっていない今の段階では、あまりに不利だもの。
 ・・・それよりも、まだ記憶が戻る気配は無いの?アーチャー?」

「ああ・・・今だその兆候すら無いな。」

「そう・・・」
敵の情報が集まっていないのも不味いのだけれど、ある意味こっちの方がもっと深刻なのよね。
自分のサーヴァントの宝具が分からないんじゃ、戦術の組み立てようが無いし、
何より敵サーヴァントとの相性も判断出来ない。

こんな状態では、聖杯戦争最後まで勝ち残るのも難しくなる。

「不安材料満載ね・・・いっその事、何れかの陣営と同盟を結んだ方が良いのかもしれないわね。」

「しかし、凛。素性も知れぬ魔術師との同盟など、荒唐無稽もいい所だぞ?」

「ま、それは相手の正確次第ね。
 ・・・まあ、どちらにせよもう少し情報が集まらないと話にならないけどね。」

「では、今暫くの間は情報収集に徹するという事でいいのだな。凛?」

「当面はね・・・あ、それと偵察は龍脈が集中している場所を中心にして頂戴。
 敵が拠点を張る場合、魔力供給の関係上その方が確率が高いから。」

「了解した。」
アーチャーは短い返事を返した後、霊体化して再び偵察の為、屋敷の外へと出ていった。

「さーて、と・・・時期に全てのサーヴァントも出揃うだろうし、それまでにどれだけ情報を集められるかね・・・」
その結果次第ではかなり消極的な作戦を取らざるを負えない。

“常に優雅たれ”の家訓にそぐわない作戦なんて、取りたくもないけれど・・・背に腹は変えられない。
私は、聖杯戦争に勝利する為のシミュレートを、時間が許す限り脳内で何度も繰り返していた。














(ランサーサイド)

俺とバゼットはシリウス達と別れた後、この街においての拠点である古びた洋館で一晩を明かした。
流石に前々回の聖杯戦争で魔術師の拠点になっていただけはあり、魔術に対する防御力は中々のもんだ。

拠点としては十分だろ・・・・だが――――――

「バゼットよー・・・」

「何ですか、ランサー?」

「何が何でも、この扱いは酷くね?」
俺はバゼットによって、魔術が施されたロープでグルグル巻にされた上に、ロビーに逆さ吊りにされていた。

「貴方が犯した罪に対しての正当な対処であると思いますが?
 あの時キャスターもこうした方が良いと助言を戴きましたし・・私はそれを実行したまでです。」
バゼットは本を読みながら、俺に目を合わせる事無く吐き捨てる様に言う。

「あの事、まだ根に持ってやがったのかよ!?
 っていうか、キャスターの奴何時の間にそんな余計な事言いやがったんだ!?」

「・・・・・。」
バゼットが無言のまま、ゆっくりと此方を振り向――――

「っい!?」

「・・・・私は、あの失言をまだ許した訳では無いと、そう覚えて置いて貰いましょうか。」

オイオイ・・・バゼットの奴、目が反転してやがる!?
バゼットの視線が、絶対零度の冷たさを持って俺に突き刺さったぜ。

ヤ、ヤベエ・・・・今だかつて、これ程までに戦慄を覚えた事は無かったぞ!?

「話はそれだけですか?」

身を斬り刻むような殺気を俺に叩きつけた後、バゼットはこれで話は終りとばかりに手元の本に視線を戻した。

ダメだ・・・・取り付く島も無え・・・・
もう少し時間を置かねえと、話どころか顔すら合せられねえぞ!

「・・・・(ムグムグ)。」

バゼットは不機嫌さを隠す事なく、携帯用の食料を口に詰め込み、ペットボトルの水で嚥下している。

飯を食す必要の無い俺が言うのも何だが・・・バゼットの奴は食事・家事・全てに置いてズボラだ。
脱いだ服は脱ぎっ放しだし、服も下着以外は毎日同じ物を着ているしな。

お淑やかになれとは言わねーが、少しは己の私生活という物を鑑みて貰いたいもんだぜ。
・・・・普段はあまりそんな事気にしねー俺に心配されている時点で、すでに手遅れの様な気がしないでもねーけどな(汗)


・・・ん?
何か嫌な気配が、この家に近付いてきやがる。
だが・・・この気配は一体何だ・・コレが人間の気配かよ?

コンコン・・・
「私だ。バゼット・フラガ・マクレミッツ・・・言峰綺礼だ。」

「おい、バゼット。」

「分かっています。この声には聞き覚えがあります。
 ですが、此処には近づく事がない様にしていた筈ですが、監督役の彼がこんな時間に何の様だか・・・・」

「邪魔をするぞ?」

「まだ何の断りも返してなかったのですがね、言峰綺礼?」

「ふむ・・・別にお取り込み中だったという訳でもあるまい?
 その位は気を利かしたつもりだったが・・・何か不都合な話でもしていたのか?」

「そういう意味では無いのですが・・・」

「・・・・・。」
俺は黙って訪問者――――言峰の奴の顔を無言のまま観察していた。
相変わらず何を考えてんのか、分かんねー野郎だ。
その仕草、表情、言葉――――全てから胡散臭さが滲み出てやがる。

俺の結論――――コイツは信用ならねー・・戦場で背中を見せちゃあいけねえ奴って事だ。
こんな奴が監督役なんて、この聖杯戦争自体かなり怪しくねえか?
コイツが真面に監視するなんて、到底信用出来ねーんだがな。

「それで、用件は何なんですか?」

「実はな――――――――お前の左腕を貰いに来たのだよ。」

「・・何!?ガッ!?」

一瞬の出来事だった。

俺の眼前で、マスターの――――バゼットの左腕が、
言峰綺礼の手にした直剣によって跳ね飛ばされていた。

「てめえ!!何しやがる!!」
俺の“刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)”が神父野郎の喉元を穿つ。

「ククク・・・」

「何!?俺の突きを逸らしやがっただと!?」

だが、俺が放った一撃は、奴の首横の薄皮一枚を傷付ける事しか出来なかった。
言峰の持つ直剣によって逸らされたのだ。

「テメェ・・・本当に人間か?」

「クク・・・お痛も其処までにしてもらうぞ、ランサーよ。マスター(・・・・)の鞍替えに賛同して貰おうか。」

「何だと!?・・グッ!?テメェ・・・!!」

令呪の強制力だと!?

飛ばされたバゼットの左腕の令呪が、赤い光を放っている。
魔術回路を強制的に乗っ取りやがったのか!!

ウグゥ・・・・・クソ・・・・!

「さて、それではランサーよ。早速だが、他のサーヴァントの偵察を命ずる。
 先ずは、敵サーヴァント全員と戦い情報を得ろ。だが倒す事は許されない。そして、一度目の相手からは必ず生還しろ。」

「・・・・・・どういう意味だ、そりゃ・・・・俺に全力を出すなって事かよ?」

「お前が理由を知る必要は無い。」

「チッ!・・・・テメェなんぞサッサとくたばっちまえ――――クソマスター!!」

これ以上胸糞悪い野郎の顔なんぞ見てたくもねえ!
俺はサッサと窓から外へと飛び出した。

「・・・・・。」

更に跳躍する際、俺は一度だけバゼットの姿を振り返る。
遠目から見ても、バゼットはその場に倒れ伏したまま、身動きを取る様子はなかった。

そして、腐れ神父の姿も既に無かった。


・・・すまねぇな、バゼット・・・今の俺はお前の仇討ちすら出来そうにねぇ。


今生こそは全力を振り絞った良い戦いが出来ると、昂ぶっていたんだが・・・
ままならねぇもんだな―――――クソッタレ!!













(シリウスサイド)

「む・・・?」
ランサー達に渡したアミュレットの反応が消えた―――ランサー達に何かあったのか?

「どうかなさったのですか?」

「いや、ランサー達に“(ゲート)”用のアミュレットを渡したろう。
 あれの反応が途絶えてしまってな・・・アイツ等に何かあったのかもしれんな。」

「彼等は主従共にかなりの力を有していましたが・・・その彼等がこうもアッサリと敗退してしまうとは考え難いですが・・・」

「確かにな・・・・だが、反応が消えてしまったのは事実だ。
 ・・・・一応、アイツ等のアジトにもう一度偵察を向かわせるか。」

「その方が良いでしょうね。私も別ルートで偵察を向かわせる事にしますわ。」

「分かった。」

俺とキャスターはそれぞれ己の使い魔である例の鴉と
魔力で操った数羽の鳥を魔力反応が消えた地点へと転移させた。

そして、俺は無言のままおもむろに襖を開く。

「あ・・・・」

「で?そこな少年は何を覗き見しているのかな?」

「い、いや・・急に魔力の反応があったから見に来たんだけど・・・凄い光景を見ちまったからな・・・」

「こっちでの基準はどうか知らんが・・・あれがレベルが高い術だとは思わないんだがな?」

「それだけ、彼がヘッポコだって事ですわ・・・シリウス様。」

「そういう事か。」

「何でさ!?・・・そんな事で納得されるなんて嫌だぞ!?」

「なら、魔術に付いてしっかり勉強しろ。お前、基礎以前の問題だって事を忘れるなよ?」

「ぐ・・・・」

「まぁ、それはそうと明日はコレを持ってけ、シロウ。」

俺は、“蔵”から取り出したある物を、シロウに向けて放った。
ソレは綺麗な放物線を描いて、シロウの手元に収まった。

「っと、コレは―――弁当箱?・・って言うか、重箱かよ(汗)」

「ソレは俺がさっき拵えた弁当だ。こっちの世界の料理を覚えるついでに作ってみたんだが、
 良かったら感想でも聞かせてくれ。」

「え?コレってシリウスが作ってくれたのか?・・・でも、何時の間に・・・台所使ってなかったよな?」

「ああ、亜空間にキッチンを備え付けてある場所があってな、そっちで作ったんだよ。」

「シリウスって、本当に何でもありだよな・・・(汗)」

「まあ、シリウス様ですし・・・」

どういう意味だ、それは?

「それにしても、量が多すぎないかコレ?軽く3~4人分はあるぞ?」

「お前はもっと食を太くする努力をしろ!鍛錬をするにしろ、頑強な身体を作るには大食漢である事は必須だ。
 身体に込められるエネルギーが違うからな。」
ま、こっちの世界のレシピを習得するのが楽し過ぎて、思わず作り過ぎたってのもあるんだがな。

「・・・・。」

「納得してないって面だな?魔力で能力を強化するにしても、元々の能力を高めて置くのは必要な事だし、
 魔力を効率良く流すにも血液の循環が良いってのは重要なんだよ。ま、騙されたと思ってやってみるんだんな。」

「まあ、今は魔術の基礎云々は置いといて、そろそろ睡眠を摂りませんか?
 サーヴァントである私や、マスターは兎も角、坊やは明日に響くわよ?」

「・・・そうだな。」
時計を見れば、既に23時を回っていた。

「取り敢えずは明日からという事で、今日はゆっくりと寝るとするか・・・」
久し振りの暖かい寝床だからな、じっくりと堪能するとしよう。

俺は自室へと戻り、その柔らかさを堪能しながら、布団へと潜り込んだ。











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