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永遠の謎

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496部分:第二十九話 人も羨む剣その十八


第二十九話 人も羨む剣その十八

「地獄、煉獄、そして天界だけです」
「他にもあるのだったな」
「はい、その世界に陛下は来られます」
「神の世界だな」
 王はわかった。このことが。
「天界ではない」
「そこにおいで下さい。そしてそれまでの間に」
「私はこの世界で。私のするべきことを果たす」
「そうされるのです」
 こう話してであった。騎士は。
 バルコニーから姿を消してだ。そうしてだった。
 王はその誰もいなくなったバルコニーを見る。そのうえで。
 月を見てその照らす世界を見ていた。王がいる世界を。
 王はミュンヘンに戻るとだ。すぐにだった。
 ワルキューレの初演を観た。その際だ。
 またしても周囲がだ。王にとって不愉快な声を出した。
「どうなのだろうか」
「ワーグナー氏の反対を振り切っていいのか」
「ワーグナー氏はかなり怒っている様だが」
「それはいいのか」
 そうした声にだ。言ったのは。
 ルイトポルト公だった。彼は。
 己の屋敷の中で沈んだ顔でだ。こう言ったのだった。
「いいのだ。陛下の望まれることはだ」
「為されるべきだというのですね」
「そうだ」
 その通りだとだ。公爵は共にいるホルンシュタインに話した。
「卿もそう思うだろう」
「確かに。ですが」
「それでもか」
「陛下には是非です」
「ドイツの為にだな」
「果たされることを果たして頂けばいいのです」
「それはプロイセンの為ではないのか」
 公爵はホルンシュタインを見て言葉を返した。公爵は沈んだ顔をしているがそれとは対象的にだ。ホルンシュタインは楽観した顔だ。
 その顔の彼にだ。公爵は言うのだった。
「違うのか」
「ひいてはドイツの為です」
「しかし陛下はか」
「陛下はあまりにもバイエルン的に過ぎます」
 それが問題だというのだ。ホルンシュタインから見れば。
「ですから。是非です」
「よりドイツ的になって頂きたいのだな」
「それが私の願いです」
 ホルンシュタインはその楽観的な顔で述べる。
「時代の流れはそうなっています」
「時代か」
「決して長いものに巻かれろという訳ではありません」
 そのことは否定する。
「しかしそれでもです」
「陛下にはドイツ的にか」
「バイエルンよりもです」
「しかしそれは」
 公爵はそのことについて。憂いの顔でホルンシュタインに返した。
「陛下にとってはよくはないことだ」
「よくはありませんか」
「そうだ、あの方はバイエルン王だ」
「そうですね。バイエルン王としては」
「わかっているではないか」
「無論承知です」
 それはわかっているとだ。ホルンシュタインも応えて話す。
「そのことは」
「では何故だ」
「ですから時代がそうさせているからです」
「バイエルンをドイツの中に入れることがか」
「ドイツは一つになりますので」
「プロイセンを軸にしてだな」
 ここでもこの国だった。プロイセンこそがだというのだ。
 そのプロイセンはどうかとだ。公爵は言う。
「プロテスタントの、ユンカーの国の」
「プロテスタントはお嫌いですか?」
「私はカトリックだ」
 バイエルン王家の者としてだ。これは当然のことだ。
 
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