前世の知識があるベル君が竜具で頑張る話
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おでかけ
「兎君兎君! ダンジョン行こうダンジョン!」
昼食を終え、科学書を書いていると部屋にティオナさんが突撃してきた。
「へ?」
ティオナさんに手を引かれて向かったホールには、幹部が勢揃いしていた。
リヴェリアさんやベートさんも居る。
「えっと……これは?」
「お金稼ぎ」
とアイズさんが答えた。
お金? なんでまた?
「アイズ、それではわからないよ。
アイズがこの前の食人花との戦闘で借りていた剣を壊してしまってね。弁償しなきゃいけないんだ」
剣を使い潰すとかどんな扱いしたんですかアイズさん…。
「そういう訳でアイズがダンジョンに行こうとして、それを見たティオナが皆を集めた訳さ。
それと、ついでだから君にも実戦を踏ませようって側で聞いていたリヴェリアが言い出してね」
「わかりました。防具を取ってきます」
「急がなくていいよ、ベル」
「なるべく急ぎます団長!」
急いで部屋に戻って兎鎧をクローゼットから出す。
「ふぅ、ティオナさんも言ってくれればいいのに」
ワンピースの上から鎧を着ける。
「ドレスアーマーみたい…。ま、いっか」
ホールに走って行くと、皆さんが待っていた。
「ベル…それで行くの?」
「はい…。やっぱおかしいですかねアイズさん?」
「んーん。かわいい、とおもう」
「安心しろ。その布は防刃布でできている。上層のモンスターでは傷一つつかんよ」
「えー…なにそれ聞いてないですリヴェリアさん」
「お前の服のほとんどはロキが何処かから買ってきたものだからな。
趣味と実益を兼ねているんだろう」
へー…。
ワンピースの裾を触ってみるが、特におかしな点はない。
「では、ダンジョンに行こう。ベル、メインで使う武器を決めて予め持っておくんだ」
「わかりました団長」
エザンディスを召喚して、肩に担ぐ。
「お、おぉう…兎君。そのチョイスの理由は?」
「竜具に鞘はありませんからね。刃が内向きのエザンディス意外は危ないじゃないですか。
ヴァリツァイフでは丸腰に見えますし」
バベルまでの道中、メチャクチャ注目された。
まぁ…ファミリア幹部に中級一人下級一人のパーティーなんてそうそう無いだろうし…。
見上げる摩天楼の天辺は、雲がかかっている。
「二週間ぶりか……んゆぅっ」
髪をくしゃくしゃってされた。
「ベートさん?」
「おら、行くぞ」
「はい」
不意に僕達を見る冒険者の声が聞こえた。
『おい、あれみろよ』
『狼と兎だ……可愛そうに…』
『あれ? でもあれヒューマンじゃね?』
『はぁ? あのウサミミが見えねぇのか?』
『よくみろ、弦がある。ウサミミ・カチューシャだあれ』
『ベート・ローガ………いい趣味してるぜ』
「…………………チッ」
「僕は気にしませんよベートさん」
「るせっ」
side out
上層中部
前衛がベルとアイズとベート、後衛にリヴェリアとレフィーヤ、ヒュリテ姉妹は遊撃だ。
しかし、実際に戦っているのはベルとレフィーヤだけだ。
いや、ほぼベル一人と言ってもいいかもしれない。
「ベル、大振りになっているよ。武器は大きいが、その分小さな動きを心掛けるんだ」
「はいっ! 団長!」
ベルがキラーアントを大鎌で切り裂く。
「あはっあははっ! あははははははは!」
エザンディスの柄を持ち替え、長さを調節し、ポメルで突く。
「レフィーヤ」
「はいっ、なんですかリヴェリア様?」
「後ろからパープルモスの群れが来ている。
そうだな…アルクス・レイで『抜け』」
「わかりました」
レフィーヤが手に持つ杖を掲げる。
「【解き放つ一条の光、聖木の弓幹。汝、弓の名手なり。狙撃せよ、妖精の射手。穿(うが)て、必中の矢】」
輝くマジックサークルが現れ、力が収束する。
「【アルクス・レイ!】」
放たれた光が、パープルモス三体の胸を綺麗に貫いた。
「お、レフィーヤ三枚抜き~」
「レフィーヤ、油断しないで」
「はい、ティオネさん」
四人が前方を見る。
ちょうど、ベルがキラーアントの大群を蹴散らした所だった。
「ふぅ…団長、ナイフありますか?」
「ん? あぁ、あるよ…。皆、早く魔石を抜いてしまおう」
「僕がやりますよ?」
「この数を一人でかい?」
辺りには、夥しい数のキラーアントの骸。
「ほら、やるよ」
フィンに渡されたナイフを取り、ベルはキラーアントの骸の首に突き立てた。
「うぇ……」
「ん? ベルは魔石の採集は初めてなのかい?」
「はい…恥ずかしながら…」
「フィン、ベルはまだダンジョンアタック三回目だぞ?
一度目はファルナ無しで潜り二回目はゴリ押しで中層へ…。
先程のゴブリンやコボルトは灰になっていた。
魔石の取り方は教えはしたが、初めてだろうな」
「ふむ……。まぁ、そのうち慣れるだろう」
「あのー…リヴェリアさん。モンスターが灰になる時ならない時の差って何ですかね?」
「魔石にダメージが入るか否だ。入れば灰になる。無論魔石を抜き出せば直前まで生きていても灰になる。
さっきままでの戦闘では魔石は砕いていただろう?」
「成る程…」
採集を済ませると、それなりの量になった。
レフィーヤが仕留めたパープルモス以外の全ての魔石の入った袋がドサッとベルに渡された。
「い、いただけませんよ!?」
「それは、ベルが仕留めた物。ベルが受けとるもの」
「でも……」
「ま、受け取っとけ。どうせフィン達は深層まで稼ぎに行く。そんくらい端金だ」
「は、はぁ…そうなんですか…」
ベルはその袋を受けとると、エザンディスを振った。
「ヴォルドール」
そうして出来た穴に、袋を落とした。
「便利、だね。ベルのそれ」
「人が居たら使えませんけどね」
中層上部
ヘルハウンドの一斉放火に対し、ベルはエザンディスを一振りした。
「ティンカー」
刹那、空間が”裂けた”。
その一撃の軌跡から、闇が溢れ出す。
炎は闇に触れるとその勢いを衰えさせ、やがて消えた。
「っ……。団長。持ち替えていいですか?」
「構わないよ」
「バルグレン」
ベルが握る大鎌が闇に溶け燃え上がる。
その焔は朱と金に別れ、ベルの両手に収まった。
「お願い」
放たれた二度目の炎は広がる事なく、ベルに向かって一直線に放たれた。
否、ベルが炎を吸い寄せている。
集められた炎は、ベルが持つ二振りのナイフに吸い込まれた。
朱いナイフの金の宝玉と、金のナイフの朱い宝玉。
二つが輝く。
「炎を…食べてる…?」
「フランロート!」
ベルの体が淡い焔を纏う。
今尚炎を吐き出し続けるヘルハウンドに向かって、ベルが駆け出す。
一閃。
「燃え尽きろ」
一匹に一撃づつ入れ、ベルが下がった。
魔石まで焔がまわったヘルハウンドが、あっけなく灰になる。
「ふぅ…収支はプラスかな…」
ボッ! と双剣が焔をあげて霧散した。
「よくやったな、ベル」
リヴェリアがウサミミ・カチューシャごとベルの頭を撫でる。
「んゅう…」
頭を撫でられて目を細める姿は、兎というより子犬だった。
「例の報告書、やけにヘルハウンドの撃破数が多いと思ったらこういう事か」
「報告書…? あ、あぁ…二週間前の…。
はい、一応マインドも回復しますからね。
ヘルハウンドの巣に突っ込んで炎を食って回復してました」
ぐにぃー…
「いひゃいれふりえりあひゃん」
「もうするなよ?」
「ふぁい…」
ベルが頬を擦る。
「兎君頬っぺたさわらせてー」
そこへティオナがやって来て、ベルの頬をむにむにと触り始めた。
「……………………うそでしょ…?」
「?」
するとティオナはベルの頬から手を離し、背を向けた。
そして十秒ほどして………。
「男子の頬にすら負ける胸とか…あはは…はぁ…」
「………………女性は胸じゃないですよ?」
「うるっさいなぁ!」
ガバッと振り返ったティオナがさっきよりも雑にベルの頬を弄る。
「みゃぅみゃぅ……フォローするなら、筋肉がちゃんとついてるってこ…」
「この憎たらしい頬めぇ…!」
「みゃぅー……」
ムニーっとベルの頬が両側に引っ張られる。
「ほら、二人とも遊んでないで行くよ」
「ふぁい…らんひょー…」
「はーい」
そして再び、パーティーは進み始めた。
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